第74話 変態破戒僧
「…おっと、セラさんを置き去りにしてしまいましたね」
数分程話し込んでいたサンサーラは、セラの事を思い出して振り向く。
「それで、アナタは何の用事があってワタシの所に?」
「あ…実は…」
セラはゆっくりと先程あった悲劇を話した。ようやく気分が落ち着いて来ていたが、その話をした事であの時の気持ちを思い出してしまい、セラは再び泣きそうになる。
「…だから、サンサーラ…さんに、あたしの友達を生き返らせてほしいんです」
「なるほど……」
話を一通り聞き終えたサンサーラは、セラの頭に優しく手を添えて慰めるように撫で始める。
「それは…さぞかし辛かった事でしょう。お任せください、アナタのお友達はワタシがどうにか致します」
「本当ですか…!ありがとうございます…!」
「珍しいですね、あなたが損得勘定無しに人助けをするなんて」
「流石に傷心の子供から見返りを貰おうなんて思いませんよ……あ、1つだけお願いしたい事があるのですが」
「は、はい。あたしに出来る事なら、何でもします…!」
それを聞いたサンサーラは、顎に指を添えて仄かに笑む。
「『なんでも』ですか…」
セラはほんのり後悔した。今のところ自殺嗜好以外の片鱗は見せていないが、クオンによるとサンサーラは変人らしい。どんな要求をされるのか分かったもんじゃないからだ。
「なら、ワタシを殺してください」
「…えっ」
「アナタの異能は光に関連する物でしょう?炎ならともかく、光に焼き殺される感覚はまだ味わった事が無いのでね…!」
(…やっぱりクオンが正しかったんだ。この人結構変わって……あれ?)
高揚するサンサーラを見ながら、セラの中にはとある疑問が浮かんだようだ。
「あの…どうしてあたしの能力を知ってるんですか?」
「それは……秘密です」
セラはクオンに視線を向けるが、クオンはサンサーラの自殺癖に呆れたような溜め息を吐いている。
「と、とにかく…それでいいなら、やりましょうか…?」
「はい、お願い致します」
そしてその後、荒屋の裏でサンサーラはこんがりと焼かれた。程なくして黒焦げになったサンサーラと、困惑と苦笑いが混ざったような表情を浮かべたセラが戻ってくる。
「これは…炎とはまた違う鋭い痛み…!ああ…良い…!!」
「…クオン」
「はい」
「ごめん、やっぱりクオンが正しいよ。この人…すっごく変わってる」
「…変態破戒僧」
「え?」
「私が…いつぞや彼に付けたあだ名です」
クオンの『嫌いじゃない人の中で1番嫌い』という評価も納得である。
「さてさて…ご協力ありがとうございました。では、ワタシはお友達の蘇生に取り掛かります。長くて3日。早ければ1日程度で終わりますので、それまでは汚いですが、この荒屋をお使いください。部屋を分ける仕切りはありますので」
「あ、ありがとうございます」
「それはそうと…アナタ達は滞在許可はもらってますか?」
2人にとって、その文言は寝耳に水だった。
「滞在許可…?」
「はい。この星は『浮月』という名前で、この星の最高権力者は『将軍』と呼ばれています。浮月は比較的発展した星なので、外の星から訪れる人もある程度居るのですよ。なので、外から浮月を訪れた者は、将軍に滞在許可を貰う事になっているのです。まぁ、貰わなくともせいぜい2週間拘禁される程度の軽犯罪にしかなりませんが」
「将軍…かぁ」
セラは以前訪れた星の一件から、権力者に会う事が億劫になっていた。
「大丈夫ですよ。浮月の将軍は老人ですが、話の分かる方なので。安心して行って来てください」
こうして、セラとクオンは竹林を抜けた先にあるという、浮月の首都へ向かう事にした。
ちなみに
サンサーラの「変態破戒僧」ぶりはこの程度では収まらない予定なので楽しみにしていてください




