第73話 変わった友人
リーヴをどうにかして生き返らせる為、セラとクオンはこの星に住んでいるというクオンの友人を訪ねる事にした。
「この辺りの風景には覚えがあります。そう時間もかからない筈です」
セラはクオンの後について歩いていく。やがて、クオンの先程の様子が気になったので声をかけてみる。
「ねぇクオン」
「はい?」
「その…クオンの友達って、どんな人なの?」
「どんな人……ですか」
クオンは少しだけ歩く速度を遅くして、思考を巡らせる。
「そうですね…私は彼の事が、嫌いじゃない人の中で1番嫌いです」
「そ…そうなの?」
「はい。何と言いますか…とにかく変わり者で、時に不快にすら思えます」
「そうなんだ…で、でも、クオンの友達って事は死神の1人って事だよね?この状況においてはすごく頼もしいよ」
「…ですね」
温厚なクオンがここまで棘のある評価をするのだから、その友人は本当に変人なのだろう。しばらく歩いていると、お世辞にも綺麗とは言えない程にボロボロの荒屋が見えて来た。
「あ…見てクオン。古そうな小屋があるよ。誰も住んでなかったら、あそこを拠点にするのはどうかな?」
セラの指差す先を見て、クオンは小さく溜め息を吐いてから答える。
「…あれです」
「え?」
「あれが、私の友人の家です」
「えぇ……何であんな家に住んでるの」
「彼曰く『修行』だそうです」
クオンがボロボロの扉に手をかけた時、セラが声をかけた。
「待って、クオン」
「どうかしましたか?」
「その…あたしの頼みでここに来たんだから、挨拶もあたしがやりたくて」
セラは自分なりの筋を通したかったようだ。
「そういう事なら、どうぞ」
クオンに譲ってもらって、セラは扉を壊さないように慎重に開ける。
「すみません…少しお願いしたい事がある……の…ですが…」
セラの台詞が詰まったのには理由がある。セラの頭上で、何か重たそうな物が揺れていたからだ。それは天井の梁を軋ませており、暗くてよく見えないが人の形をしているように見える。セラはすぐに全てを察した。
「わ…わぁぁぁぁっ!」
文字通りの光速で荒屋から飛び出してきたセラを見て、クオンは戸惑う。
「ど…どうしましたか?」
「な…中で、人が……首、吊って…!」
錯乱するセラとは対象的に、クオンは至極落ち着いた様子で呟く。
「…はぁ。またですか……セラさん、少し待っていれば大丈夫です。理由は後で説明しますから」
クオンの言う通りにしばらく待っていると、やがて荒屋の中から誰かが出て来た。長く綺麗な金髪と修行僧のような白い衣服、右手に握られた錫杖や閉じられた両目が特徴的な青年だった。
「ふぅ…いやはや、首を括って死ぬのも何度目でしょうか……おや」
その金髪の青年はセラ達に気づいたようで、ゆっくりとセラの方に歩いてくる。
「久しぶりですね、エタナクス。そちらはお友達ですか?」
「はい」
クオンは短く最低限の返事で済ませる。
「え、えっと…初めまして、セラって言います」
「セラさんですか。今後ともよろしくお願いします」
「セラさん、紹介します。彼の名は『サンサーラ』と言って、『輪廻』を司る死神の1人です」
「どうも、サンサーラと申します。以後、お見知り置きを」
「あ、はい…」
セラは、サンサーラが思っていたより常識人だったので驚いていた。
「クオン…この人のどこが変なの?確かにちょっと胡散臭いけど…いい人だよ?」
「…今に分かります」
セラは心の中で首を傾げながら、さっきから気になっていた事を尋ねる。
「あ、そうだ…どうして首を吊っていたんですか?」
「それは勿論…」
「修行の為です」
「え?」
セラは純粋に意味が分からなかった。修行の何たるかを知っている訳ではないが、何故死ぬ必要があるのだろうか。
「セラさん、私から説明します。彼は自身の権能によって不死なのですが、少し特別な事情がありまして…死ぬ事は彼にとって悪い事だけではないのです。それで定期的に自殺を繰り返していたところ、自殺という行為そのものが趣味になってしまったのです」
「えぇ…」
「その上、最近は自殺の方法にも凝り始めて…この前会った時なんて『その鎌でワタシの喉を斬り裂いてください』とまで言われました…」
「ええぇ…」
「人を異常者のように言わないでくださいませんか?」
「異常者でしょうあなたは」
「ワタシを異常者と呼ぶのなら、ついこの前まで34徹して仕事をしていたタナトスはどうなるんですか?」
「彼は最早ワーカーホリックの域ですよ…ちゃんと休むように言っておいたのですが」
「アナタはタナトスに甘いですよね…」
死神2人が身内ネタに花を咲かせている間、セラは心の中で呟いていた。
(神も概念種も…変わってる人が多いなぁ)
実は
後半の死神談義は前作を読んでくれてた人に対するちょっとしたサプライズの意味もあります
要らんとか言わないでください
泣きますよ




