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大宙の彷徨者  作者: Isel


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第71話 彼方より来たる絶望

真月から逃げる為にリーヴの能力を使い、3人は見知らぬ星にやってきた。普段なら新たな星に対する高揚や期待でいっぱいになっている頃だが、今回は違った。


「ここまで来れば、大丈夫だと思います…」

「流石に星を跨いでまでは追って来ないよね…?」


セラとクオンが肩で息をしながら話し合っていると、突然リーヴがその場に座り込んだ。

「リーヴ?」


「わたし…あの人知ってる。どこかで……絶対に会ったことがある……どうしよう、セラ、クオン…今更だけど……怖いよ…」


確かに、真月から感じた気配や魔力は尋常ではなかった。あれに対抗出来る生物なんて居るのか、などとまで思えてくる程だった。


「会った事があるって……リーヴが生まれたのって最近だよね?」

「前世の記憶…というやつでしょうか。ですが、それならリーヴさんの前世とは一体…」


3人は思考を巡らせるが、当然ながら答えは浮かばない。その時、しゃがんでいるリーヴが不意に頭を抱え始めた。


「嫌…!あの人のこと考えるの…怖い……あの人の目が…声が……思い出すだけで、肌がぞわぞわする…」

「リーヴ…」


セラはそんなリーヴの背中に優しく手を添える。


「大丈夫。大丈夫だよ。君の事はあたしが守る。クオンも居る。心配しないで、絶対に…君を危ない目には遭わせないよ」

「その通りですよ、あなたには私達がついていますから。だからどうか…泣かないでください」


その言葉を聞いて、リーヴは胸がいっぱいになった。2人に対する気持ちが最高潮に高まっていった。そしてその感情のままに、セラとクオンに向かって笑いかける。


「…ありがとう、セラ、クオン。大好き」


そのリーヴの顔を見て、セラとクオンも一安心する。


「それはそうと…ここはどんな星なんだろう」

「…この竹林……見覚えがあります」

「クオン、しってるの?」

「はい、ここには私の友人が住んでいるのです」

「クオンの友達……あってみたい」


その時、クオンは少し微妙そうな顔をする。


「えっ……ま、まぁ、止めはしませんが」

「じゃあ、とりあえずクオンの友達の家に、いこう」


リーヴが一歩踏み出したその時。()()()が響いた。


「2人で、ね」


そしてその瞬間、クオンの背筋に悪寒が走る。


「死の気配が…!リーヴさん下がってください!」


クオンが叫んだのとほぼ同時に、赤黒い魔力の渦の中から伸びてきた幾つもの茨が…


リーヴの腹部を貫いた。


「うっ……あ…」

「…っ!リーヴ!!」


幸い、リーヴはまだ生きているようだが、それでも苦痛に顔を歪めて倒れ込んでいる。セラがリーヴに駆け寄ると、先程の渦の中から真月が悠然と現れた。


「まさか星を跨いでまで私から逃げようとするとは思わなかった。面白い一手だったよ、私以外からなら逃げきれただろうね」

「う……うぅ…」


依然として蹲るリーヴを見下ろしながら、真月は短く呟く。


「…落ちたものだ」


そんな真月を正面に見据えながら、セラは双剣を構える。


「やめておいた方がいい…命を無駄に散らしたくはないだろう?」

「あたしの命なんて…リーヴの為なら幾らでもあげるよ…!」

「……全く。私こそ落ちたものだ。僅かな人間性でも芽生えたか…君を殺す気になれない」


冷たくそう言い放つと、真月は衝撃波を放ってセラとクオンを弾き飛ばした。


「……セラ…クオ……けほっ…」

「…さて、君だ。申し訳ないが、私は君を殺したい。いいかい?」

「…どう……して?」

「理由……か。覚えてないとは言わせない。まぁ、覚えている訳がないが」

(やっぱり…わたしの前世が関係あるんだ)

「ほんとに…わたしのこと、殺すの?」

「ああ」


真月は短くそう言うと、リーヴの全身を薄く斬りつけた。まだ致命傷には至っていないようだが、それでも身体中から血が流れている。


「うぅっ…!」

「やめて!あたしが代わるから……リーヴに酷い事しないでよ…!」


セラもクオンも、吹き飛ばされた時の衝撃が強かったのか、まだ立ち上がる事が出来ない。


「…」


真月は無言で、もう一度リーヴの全身を斬りつける。


「うぁっ…」


元々耐久力の低いリーヴは、それを食らった瞬間に力無く倒れ込んでしまった。セラは片膝で何とか立ってはいるが、依然として見ている事しか出来ない己の無力さを恨んでいた。


「…もう終わりか。つまらない……さっさと死ね」


真月が今までにない程に冷淡な口調で告げると、渦を巻く赤黒い風がリーヴを宙に浮かせた。


「わっ……」

「…じゃあね」


真月は自身の魔力を一箇所に集めて、鎌のような形の刃を創り出した。


「っ…!待って!お願い!それだけは…!」


だが、セラの訴えも虚しく…


リーヴは空中を舞ったまま、心臓を刺し貫かれて破壊された。


「せ、ら……く、おん…」


心臓を貫かれたまま、リーヴはセラ達の方に手を伸ばしながら呟く。だが、その最後の力も嘲笑うかのように、より一層魔力の刃が深く突き刺される。


「ぁ…ああ…」


大量の血を纏ったリーヴの身体が、セラの方に力無く落ちてくる。セラはそれを受け止めるが、現実の方は受け止められないようだ。


「ねぇ……どうしたの?起きてよ…リーヴ…リーヴ…!」


セラは泣きながら、温度を失っていくリーヴの身体に声をかけ続ける。


「こんなの…冗談になってないよ…怒らないから……起きて…目を開けてよ…お願いだから…!」


そんなセラの様子を見て、真月は心底不思議そうに問いかける。


「…何故死体にそこまで声をかけるんだい?もう届く訳が無いだろう、死体なのだから」


恐らく、この発言に関しては真月に悪意は無い。だが、この発言がセラの心を抉っていたのも確かだ。


「…ああ、別れの挨拶か。なら早めに済ませた方がいい。先程腹部を刺した時に、彼女の魔力を奪い取った…死んだ時に体内から魔力がある程度失われていると、遺体が残らずに消滅してしまうからね」


それを聞いて、セラは力無く呟く。


「……どうして」

「『どうして』?流石に私は全てを知っている訳ではないから、その摂理の仕組みまでは知らないよ」


その真月の返答を聞いて、クオンは戦慄した。先程『人間性が芽生えた』などと言っていたがそんなものは全くの誤りで、真月は心の底から他者に関心を向けていない。他者に対する共感力などは微塵も持ち合わせていないという事に気がついたからだ。今の『どうして』の意味が理解出来なかったのが、何よりもの証拠だろう。


「まぁ、これで私の目的は達成した。後は土に埋めるなり、その辺に放置するなり、好きにすればいい」


真月は呆然としている2人に背を向けて立ち去ろうとする。去り際に、真月はこんな言葉を残した。


「…何度生まれ変わろうが、私は必ず君を殺す」


リーヴはこの日、厄災の手によって命を落とした。

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