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大宙の彷徨者  作者: Isel


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第67話 見知らぬ少年

時は少し遡り、クオンがリーヴの言う少年を追いかけていた時の事。数名の信者が追跡していたようなので、クオンは彼らの後を追って少年の位置を知ろうとしていた。


「この先は見たところ袋小路…あの方は無事でしょうか」


クオンがこっそりと路地に顔を覗かせると、3名の信者と、行き止まりの壁を前に佇む見知らぬ少年の姿があった。顔はフードに隠れていて見えないが、両袖と背面に2本の赤い縦線の入った黒いパーカーと、左肩に赤黒い肩掛けを身につけている少年だった。


「やっと追いつきましたよ…さぁ、あなたもマガツキ様のヒケとなりなさい!」

「それにしても…こんな子供1人捕まえるのにここまでの時間をかけるとは…我ながら情け無いですね」


その台詞を聞いた少年は、外見からは想像出来ない程に冷徹そうな声を信者達に投げかける。


「…子供?そんな言葉如きで…僕を形容するつもりか?」


そして少年は振り返り、ゆっくりとフードを外す。そこに現れたのは、鋭い目つきをした端正な顔だった。髪型は赤いメッシュの入ったウルフカットで、信者達を疎ましそうに睨みつけている。


「行きなさい!この子供もマガツキ様に捧げ…」


その瞬間、少年は右手を上に振り抜いて地面に赤黒い魔力を走らせる。地面を駆ける魔力は1人の信者の足元まで来たと思えば、そこから勢いよく赤黒い刃が飛び出し、その信者の首を刎ね飛ばした。


「何…!?」


子供に反撃をもらう事が想定外だったのか、残った2人は狼狽えている。様子を見ているクオンも驚きを隠せなかった。


(あの方は…何者ですか?)


クオンは死神に標準装備されている魂を見る力を使い、少年の魂を見てみる。すると、奇妙な発見をした。


(え……あの方…魂が、無い…?)


そう。彼の身体のどこにも魂が見当たらなかったのだ。いくらクオンが魂の専門家ではないとはいえ、これは流石におかしい。


(いえ…よく見たら1箇所だけ、もやのような物で隠されている部分があります…あそこに魂があるのでしょうか。それにしても、何故…)


クオンが考えを巡らせていると、路地から大きな音が響いた。少年vs信者2人の戦闘が始まったのだろう。信者の片方は基礎的な魔法を扱えるらしく、赤い光球を準備している。もう片方はナイフを2本持って、少年の隙を窺っている。


「ふぅん…僕に立ち向かうか。その勇気は讃えてあげるけど……それは俗に『蛮勇』って言うんだ。それが讃えられるのは…絵本の中だけだよ」


少年は魔力の波動を放つと同時に、背後に光輪を出現させる。赤い六角形の周りに、同じく赤い菱形が浮いているような見た目だった。少年は光輪を出した後、ゆっくりと上空に浮かび上がる。その様子はどこか神々しく、畏怖すらも抱かせるほどだった。


「さぁ…来なよ」

「怯まずに!たかが子供です!」


そうして、赤い光球とナイフを構えた信者が同時に少年に襲いかかる。しかし、少年は身体を一瞬グリッジに包んで光球を避け、ナイフの方の信者の左手を掴んで地面に投げつける。


「ハハハハハハ!」


そして少年は自身の周囲に幾つかの魔法陣を出現させ、それらから赤黒い光芒を放ってナイフの信者の身体を焼き尽くす。土煙が晴れた頃、呻き声を上げるナイフの信者を見下しながら少年は呟く。


「まさか…これで終わりじゃないだろう?」

(あの方…強い…!)


依然として戦闘を見物しているクオンは、少年の実力に驚いていた。


「チッ…面倒ですね!」


光球の方の信者は、少年に向かって赤い光球を乱射してどうにか撃ち落とそうとしている。しかし、少年は軽く笑いながら舞うように弾幕を回避する。


「ハハッ!粗末な攻勢だ…僕を舐めすぎじゃないかい?」


少年は回避のついでに空中で逆さまになり、『パチン』と指を鳴らす。


「ぐぅっ…!」


すると、幾つもの赤黒い刃が光球の信者を斬りつけ、追い打ちをかけるかのように、少年は急降下して光球の信者の鳩尾を踏みつける。


「それでいい…地べたがお似合いだよ、雑魚共が」


光球の信者が思わず吐血すると、今度は背後からナイフの信者が少年の首を狙う。


「ハァ……そろそろ身の程を弁えたらどうだい?」


少年は振り向きざまにナイフの信者の首を掴み、そのまま上空へ素早く浮かび上がる。少年は首を掴む手にどんどん力を入れていき、信者の首からは軋むような音が聞こえる。


「くっ…!離しなさい…!」

「そう…なら離そう」


少年はあっさりとその手を離したが、ここは建物の屋上を優に超える高さの上空だ。そこから落下しようものなら…少なくとも気分の良い死は待っていない。


「うっ…」


その落下死の現場を目撃したクオンは、思わず顔を顰めてしまった。


「チッ…ここは一旦退却を…」


光球の信者はよろよろと逃げ出そうとするが、少年はお得意の赤黒い刃で信者の足を斬り落として逃亡を阻止する。


「逃がす訳ないだろう?僕に刃向かった代償…君達の身体に刻んであげるよ」


少年の周囲の雰囲気が変わり、赤黒い魔力が渦を巻いて少年の右手に集まり始める。周囲の建物や地面は徐々に崩れていき、少年の手のひらの赤黒く小さな光球に集まっていく。その魔力の奔流は凄まじく、クオンも普通には立っていられないほどだった。


「僕から告げられるのは1つだけ…」


「僕達を、忘れるな」


少年が右手を握りしめると眩い光が一帯を包み、クオンは意識を失った。


「あれ……私、は…」


しばらくして、クオンはよろめきながら立ち上がる。


「確か…ここで信者達と…誰かが…」


クオンが覗いた路地には、抉られたりして激しく損壊した建物や地面、見るも無惨な3人分の遺体があった。


「遺体の損壊が酷いですね…周囲の環境も……一体誰が…?」


そんな風に戸惑うクオンを、見知らぬ少年が少し離れたところにある建物の屋上から見下ろしていた。顔はフードに隠れていて見えないが、両袖と背面に2本の赤い縦線の入った黒いパーカーと、左肩に赤黒い肩掛けを身につけている少年だった。


「…フン」


少年は小さく鼻を鳴らし、全身に赤黒いグリッジを走らせて消えた。その時、クオンの中に嫌な予感がした。


「…っ!これは…死の気配…!」


クオンが感じ取った死の気配は、丁度リーヴ達が居る方向から漂ってきている。


「…行きましょう。お2人を守らなくては」


こうして、クオンはリーヴ達と合流する為に動き始めた。

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