第64話 伝承
小話
リーヴの口調は(多分) 初期と比べると大分
感情豊かになってきています
読点も少なくなり始めています
誰かのおかげで人間っぽくなって来てるんです
「…ん」
リーヴとセラが眠りについてからしばらく経った頃、リーヴが先に目を覚ました。
「どれくらい寝てたんだろ……わ、10時間以上…」
リーヴはクオンが置いていった時計を見て、小さな驚きの声を漏らす。どうやら、彼女達は想像以上に疲れていたらしい。
「これだと、この星から離れられるまで、あと 1,2時間ってところかな」
ようやく気分が前向きになってきたリーヴは、クオンの様子を見る為に1階に降りていく。だが、何故かそこにクオンの姿は無かった。
「…クオン?」
リーヴは家の隅々までクオンを探した。トイレや物置、一応タンスの中も。しかし、クオンの姿はおろか痕跡すら見当たらなかった。リーヴの中に、一瞬にして嫌な予感が走る。前に訪れた星でセラと離れ離れになってしまった時の事を思い出し、リーヴは過呼吸気味になる。押し寄せる不安の影響か、両の手を胸の前で握って小刻みに震えながら、頑張って呼吸を整えようとしている。
(クオン……)
その時、リーヴが先程立てた物音で目が覚めたセラが、1階に降りてきた。
「リーヴ?どうかした?」
「セラ……クオン…クオンが…居なくなっちゃ…って」
リーヴは前の星での一件から、意図せず誰かと離れ離れになる事がトラウマになっていた。
「もしかしてクオン…捕まっちゃったの?」
今にも泣き出しそうな声で呟くリーヴを宥める為に、セラはあえて冷静な口調で話す。
「いくらあの教団の人達が狂ってるからって、それだけでクオンには勝てないと思う。きっとクオンは無事だよ、信じてここで待とう?」
「……うん」
そうして、セラはリーヴを優しく抱きしめながら頭を撫でていた。
数分ほど経った頃、意外にもひょっこりとクオンが帰ってきた。
「すみません、思っていたより時間がかかってしまいました」
「クオン…!」
緊張が解けたリーヴは、クオンに走り寄って抱きつく。
「心配したよ……どこにいってたの?」
「…あの教団の方々が崇拝している『マガツキ様』に興味がありまして…その……調べていました」
「調べるって、まさか…」
セラは何かに勘付いたようだ。
「はい…行ってきました。凶月教の本拠地に」
「…」
その返答を聞いたリーヴは、少し『むすっ』とした表情を浮かべる。
「その…何も言わずに行った事は申し訳無く思っています。すみませんでした」
「…クオンも」
「はい?」
「クオンも、セラと同じくらい大事な友達なんだよ。今回は、無事だったからいいけど……」
そう言いながら、リーヴはクオンを抱きしめる腕に力を入れる。基本的に自己評価の低いクオンは何故リーヴがこんな事を言うのかがよく分からず、助けを求めるかのようにセラに視線を向ける。
「今回は、あたしも同じ意見かな。クオンが自分をどう思ってるのかは分からないけど、あたし達にとってはかけがえの無い仲間だから。急に居なくなったり、危ない目に遭ってたりしたら悲しいんだよ?」
「お2人共……分かりました。すみません…ありがとうございます、そういう風に言ってくださって」
やがて3人はいつもの空気に戻り、クオンが調べた内容を共有し始めた。
「さて、私が忍び込んだ書庫にあった古い文献によるとですね…」
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宙と月が紅に染まる時
極まりし禍根が顕現する
赫き星芒、虚淵を裂き
大地を抉りて骸と成す
不可避の厄災、無慈悲なりて
神威を以て愚を誅し
禍威を以て世を鎖ざす
ーーーーーーーーーー
「…これが、『マガツキ様』に関する唯一の情報でした」
「そらと月が赤に…って、ちょうどこの星と同じ…だよね」
「それは…マガツキ様がもうすぐこの星に来るって事なのかな」
「恐らくそうです。それと…教団の方々が人の身体を捧げていたのは覚えていますか?」
「うん…たしか、『ヒケ』とかいってたよね」
「私は帰る間際に、マガツキ様への贄となった方々の遺体を見てきたんです」
「聞くのが怖いけど…どんな様子だったの?」
「…凄惨でした。ある方は腹部を裂かれ、ある方は両目を抉り出され…そして皆、十字架に磔にされていました。その中には……まだ幼い子供も」
「…ひどい」
「そういえばさ、クオンってあの世…奈落だっけ?そこに移動出来るんじゃなかった?リーヴの力が使えるようになるまで、奈落に避難するって言うのはどうかな?」
「実は、既に試したんです」
クオンは溜め息を交えて答えた。
「できた、の?」
「…結論から言うと、出来はしました。ただ…してはならない気がしたのです。誰か…いえ、何か大いなる存在が私達を見ている…その者の意に背けば、私達など羽虫のように捻り潰されてしまう…そんな気がしました」
「それが、マガツキ様?」
「…何とも言えません。仮にリーヴさんの力が使えるようになったとして、この星から離れて大丈夫なのでしょうか…」
分からない事が多すぎる。不安要素が多すぎる。3人の脳内は、大方こんな気持ちでいっぱいだった。
と、その時。
「だ、誰か…!助けて!」
家の外から、必死な様子で叫ぶ少年の声が聞こえた。
「今のは…!」
「行きましょう、お2人共。これ以上…1人でも犠牲者を出す訳にはいきません」
3人は急いで外に出た。




