第62話 不気味な、ほし
今回の星は割とホラーチックです
あ、待って
読むの辞めないでください
色んな話を書きたいんです
ホテルでの小休止から2日後、リーヴ達はまた新たな星にやってきた。そこは今まで訪れた星とは違い、人の気配すら一切しない廃墟だった。建物は悉くボロボロになっており、夜空は心なしか赤みがかっているように見える。
「ここ…なんか不気味だね」
「人の気配どころか、魔物の気配も感じられません…正しく『廃墟』ですね」
「…まぁ、こういう星もある、よね」
3人は何かを警戒しながら廃墟街を歩く。すると、崩れた建物の壁に大きくこんな言葉が書いてあった。
『逃げろ』
と。
「にげろ…?」
「この星にも何かが居るのでしょうか…?」
「うぅ…あたし、ちょっと怖くなってきた…」
「大丈夫です。私がついてますから、安心してください」
セラはうっかり忘れていたが、クオンは1万年以上の時を生きてきた死神だ。クオンの事は元から頼りにしていたが、慣れないこの状況においてはより一層頼もしい存在に感じられた。
「中に入ってみましょうか。何か分かるかもしれません」
3人は瓦礫と化した家屋に入り、この星の状況について分かる物が無いか探してみる。そう時間が経たないうちに、セラは1つの手記を見つけた。
「あ…これ、何か書いてあるよ」
「見てみましょうか」
ーーーーーーーーーー
何なんだアイツらは
『凶月教』と名乗っているが、何のカルト宗教だ?
どうやら、この星の人間を片端から攫って何かに捧げているらしい
何が目的なんだ
ーーーーーーーーーー
「凶月教…そんな集団が」
「たぶん、この教団から『にげろ』って言われてるんだよね」
「まだこの星に居るかもしれません。明日になるまでは身を潜め、リーヴさんの能力が使えるようになったら早急にここを去りましょう」
「「うん」」
その時、クオンは魂の気配を感じ取った。こちらに気付いてはいなそうだが、近づいて来てはいる。
「皆さん、隠れてください。私が外を見ています」
クオンがボロボロのカーテンと割れた窓の隙間から外を覗くと、赤黒い衣服に身を包んだ2人の人間がこちらに歩いてくる。これが『凶月教』の制服と見て良いだろう。クオンが耳を澄ますと、微かに2人の話し声が聞こえてくる。
「ヒケは見つかったか?」
「いいえ…もうこのノキにはキハキなのでは?」
「それもカイエルだが…ツイまでイナした訳では無いから、まだキハキとはバネキ出来ない」
そんな訳の分からない言葉を話しながら、2人はどこかへと歩き去っていった。
「あの言語は一体……教団内の独自の言語でしょうか」
流石のクオンも、この星の異様さに少しの恐怖を覚え始める。
「リーヴさん、セラさん、ここよりもっと原型の残っている建物に移動しましょう。その方が、もし攻め込まれても瓦礫が交戦の邪魔になりにくいです」
「うん、わかった」
3人は過ちを犯した。『もし』の事など考えず、あのまま瓦礫の中心で息を潜めていればよかったのだ。マシな籠城先を求めて外に出た瞬間、3人が見たのは大勢の凶月教の信者だった。布で顔を覆っているので表情はよく分からないが、彼らはリーヴ達を見るなり熱狂的な歓声を上げる。
「ヒケだ…!新たなヒケだ!」
「マガツキ様!ガンダキ!マガツキ様!」
「3人も居るとはジョクソクですね。このままタキバンにタタゼウしましょう」
信者達は異常かつ不自然な笑みを浮かべながら、リーヴ達ににじり寄って来る。
「セ…セラ……クオン…」
リーヴは恐怖のあまり、横に居るセラの腕にしがみついている。
「…仕方ありません」
クオンは一度目を閉じて深呼吸してから、淡い紫色に輝く目を開く。すると、クオンの周囲に濃い紫色の魔力が吹き荒れ、クオンに近づいていた数名の信者の身体が、一瞬の内に朽ち果てて崩れ去る。平静を装ってはいるが、命を奪わないように手加減する事が出来ない程度にはクオンも焦っていた。
「ゾクチ…」
依然として彼らが何を言っているのかは分からなかったが、クオンのお陰で隙が生まれた事は確かだった。
「皆さん今です!走ってください!」
「行くよリーヴ!」
その隙を逃さず、セラはリーヴを抱き抱えてクオンと共に逃げ出した。夜空の赤さは一向に変わらず、気づけば空に浮かぶ満月までもが赤に染まっていた。
凶月語まとめ(覚えなくて良いです)
ヒケ→贄
ノキ→星
キハキ→居ない
カイエル→有り得る
ツイ→隅
イナ→見た(イル=見る)
バネキ→断定
ガンダキ→万歳
ジョクソク→僥倖(喜ばしい意を表す)
タキバン→祭壇
タタゼウ→捧げる
ゾクチ→同志(信者が別の信者を指す時に使う)




