第60話 たくさんの、はじめて
今回は百合回ですが、攻めてないです
ただ2人が楽しそうにしてるだけです
でも百合百合はしてますので苦手な人は気をつけてください
〜前回のあらすじ〜
人助けをしたら良さげなホテルに泊まれる事になった。
「…セラ、なにしてるんだろ」
ホテルの入り口前で、リーヴはポツリと呟く。少しはねた灰色の髪をくるくるしながら、リーヴはセラを待ち続ける。
その頃、セラはクオンに髪を結ってもらっていた。
「…はい。出来ましたよ」
「すごい…!あたし髪結うの苦手だから…助かったよ」
普段のセラは長い銀髪を下ろしている。だが今の髪型は、トレードマークとも言える黒いリボンで髪を纏めたもの。俗に言うポニーテールだ。
「じゃあ、行ってくるね。ありがと」
「はい。お気をつけて」
小走りで部屋から出ていったセラを見送った後、クオンは部屋の中の椅子に腰掛けて、さっき売店で買ったみかんを剥き始める。
「皆さんと居るのも非常に楽しいですが…1人の時間も良いものです」
そして、クオンはみかんをつまみながら読書をしていた。
一方、リーヴとセラは…
「ごめん、待った?」
「そんなに。5分くらいだよ」
リーヴはセラの顔を見て目を見開いた。そもそもリーヴはセラ達が何をしていたのかを知らない為、セラの髪型が変わっているのが予想外だったのだろう。
「セラ、その髪型、すごくかわいい。わたし、それすき」
リーヴは微笑みを浮かべてセラに伝える。リーヴの笑顔も、最近ぎこちなさが薄れてきたようだ。
「えへへ…ありがと、リーヴ」
セラも嬉しそうに顔を緩ませる。
「行こっか。あたしが色んな場所に連れてってあげるよ!」
「うん。よろしく、ね」
こうして、2人は賑やかな街へ繰り出した。一瞬『海に行く』という案も出たが、2人分の水着を買う金など旅団には無い。
「そういえばさ、リーヴ」
「なに?」
「リーヴはジュースって飲んだ事ある?」
「じゅー…す?なにそれ?」
「やっぱり無いんだ……物によるけど、基本的に甘くておいしい飲み物だよ」
「…飲んでみたい」
「そう言うと思って…もう買ってあるよ」
「すご」
セラはナチュラルにエスパーのような事をすると、リーヴにオレンジジュースを手渡す。
「いただきます」
(どんな時でもちゃんと『いただきます』って言うの偉いなぁ)
セラは内心でリーヴを褒めていた。リーヴの方は、プラスチックのカップを両手で持って、『くぴくぴ』と少しずつジュースを飲んでいる。
「どう?おいしい?」
「…!」
リーヴは無言のまま目を輝かせ、右の頬を押さえながらセラの目をじっと見つめていた。そして、すぐさま残りのジュースも飲み始めた。
(よっぽどおいしかったんだろうなぁ)
「…ふぅ。セラ、ありがとう。すごくおいしかった」
「よかった。ちなみに、ジュースの種類はこれだけじゃないから、また色んなジュース飲んでみようね」
「うん。わたし、こんなおいしい飲み物のんだの、はじめて。うれしい」
リーヴは再び『ニコ』と無邪気に笑う。
(…かわいい)
セラがリーヴに対して抱く感想は相変わらずだった。
「あ、セラ。あれは?」
「え?ああ…あれはクレープだね」
「わたし、知ってる。ぶどうのこと、でしょ」
「それはグレープ」
「むぅ」
「リーヴって甘いもの好きだったりするの?クレープも甘くておいしいよ?」
「なら…食べてみたい」
2人は列に並び、店員に聞いた1番人気だというクレープを買った。真っ白なホイップクリームやチョコソース、果物などが生地に包まれている。
「おお…おいしそう」
リーヴは再び目を輝かせている。
「「いただきます」」
2人はほぼ同時にクレープに齧りつき、その甘味を堪能する。
「あたしもクレープは初めて食べたけど…おいしいね」
「うん。毎日、これでもいい」
「流石に…太っちゃうよ?」
「おいしいものは、我慢できない」
クレープを食べ終わった頃、セラはある事に気がついた。
「あ、リーヴ。ほっぺにクリーム付いてるよ」
そして、セラは反射的にそのクリームを指で取る。
(咄嗟にやっちゃったけど…これどうしよう)
数秒固まった後、セラはそのクリームを口の中に入れた。
(……うん。これくらい、大丈夫だよね)
何を気にしていると言うのだろうか。一方、リーヴもとある事に気がついていたようだ。
「セラ、セラもほっぺにクリーム付いてる、よ」
仲良しかあんたらは。
「ほんと?取ってくれる?」
「うん」
すると、リーヴは迷う事無くセラに顔を近づけ、頬のクリームを『ぺろっ』と舐めた。
「ふふ。ごちそうさま……セラ?」
「…!……!!」
リーヴの舌の感触とその行動に対する驚きから、セラは言葉にならない声を上げていた。
(人の舌って……あんなにあったかいんだ…)
「セラ、大丈夫?」
「え…ああ、うん。大丈夫。ちょっとぼーっとしてただけ」
「なら、よかった」
セラは動揺を悟られないように、いつもよりはっきりとした笑顔を浮かべる。
「そろそろ別の場所に行こ?楽しい事は、まだまだ沢山あるから!」
「うん。色んなとこ、行こう」
2人は日が暮れるまで街中で食べ歩きをしていた。




