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大宙の彷徨者  作者: Isel


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第57話 執行

「死刑を…執行する」


領主の底無しに醜い内面に辟易したフォルティは、逆手持ちにした大鎌を地面に突き立てて、ゆっくりと領主に近づき始める。


「やめろ…!来るな…!来るなぁ!」


領主は虫のような惨めな格好で逃げ回るが、先程の『ゲーム』で足が折れているので大した時間稼ぎにもならない。


「手間かけさせんなよ」


フォルティの鎌の刃部が、『ガリ…ガリ…』という音を立てて部屋の床を削る。領主からすれば、それはさながら確実に近づいてくる『死の足音』に他ならなかった。


「…チッ」


フォルティは一旦鎌を銃に変形させ、領主の両膝を撃ち抜く。そしてすぐさま大鎌に戻し、それを大きく振りかぶる。


「あばよ」


遂に死刑が執行される…かと思われたその時。


「フォルティ!」


リーヴ達3人が、領主の部屋に入ってきた。


「よう。見ねぇ顔が居るって事は、お友達は無事に助けられたみてぇだな」

「は、初めまして。あたしは……」


セラはフォルティに挨拶しようとするが、その部屋の現状を把握して言葉を詰まらせる。無造作に投げ捨てられた2人分の生首。部屋の至る所に付着した血。瀕死の領主。そして、全身が血で塗れたフォルティ。部屋の内部は一言で言えば『地獄』どころか最早『屠殺場』だった。


「…どうした?何黙って…」


フォルティは一瞬困惑したが、異能のお陰でセラの思考を理解する。


「…だよな。17やそこらのガキには、まだ刺激が強ぇよな」


そう呟いてから、フォルティは鎌を折り畳んで収納した。そしてゆっくりと煙草に火を付け、煙を吐きながらまた呟く。


「忘れてたぜ……あくまでも、俺は人を殺す為にあの街の『処刑人(ルール)』になった訳じゃねぇ。時には命を奪う事もあるが…こんな殺す価値すら無い奴を殺しちゃ、近所のガキに顔向け出来ねぇしな」

「フォルティ…」

「目的は達成しただろ。さっさと帰るぞ、風呂入りてぇ」


唐突にいつも通りの様子に戻ったフォルティは、リーヴ達の方へ歩いて行く。


「あ、そうだ。せっかくだし、アンタら何か言いたい事とか無ぇのか」

「言いたい、こと?」

「ああ。そこの準死体に迷惑かけられたんだろ?一言くらい言っとけよ」

「ひとこと……」


リーヴは自分や仲間を苦しめた者に対する言葉を精一杯探して、そして絞り出すように叫ぶ。


「ば……ばーか、ばーか!」


それくらいしか思いつかなかったようだ。


「…声に善性が溢れ過ぎてんな」

「リーヴに悪口は言えないよ…」

「…帰りましょうか」

「だな」

「だね」


こうして、4人は少し足早にその場を後にした。

その直後、4人と入れ違うように1人の青年が闇の中から現れた。それを見た領主は、青年に向かってしゃがれた声で叫ぶ。


「ど…どこに行ってたんだ…!『シャドウ』…!」


シャドウと呼ばれた青年は、フォルティより少し長い髪型でインナーカラーは紫色。黒と紫を基調とした服を着ていて、顔には眼鏡をかけていた。


()()()()()()だった筈だ…!お前が目的を果たすまでの間、儂がお前に金銭の援助をし、お前が儂の周りの面倒事を片付けると…!」

「…ああ、そうだったね」


シャドウは至極落ち着いた、紳士的な口調で話している。


「覚えているなら…!尚更どこで何を…!シャドウ…!!」


領主は心底憎そうに声を絞り出す。だが、シャドウは沈黙したままだ。


「何故…!何も言わない…!」

「…ああ、失礼。僕の名前が呼ばれないものでね、まさか僕に話しかけていたとは思わなかったんだ」


予想外の言葉に、領主はフォルティによって充血させられた目を丸くする。


「貴様の名前…だと…?貴様はシャドウでは…」

「君と僕はあくまでも『一時の協力関係』だ。仲睦まじい友人でもない男に、何故僕が本名を名乗らねばならない?」

「契約に反するのか…!?ならば…相応の処置を…!」


その瞬間、どこから取り出したのか分からないが、シャドウが拳銃で領主の腹を撃ち抜いた。


「ぐ…!」

「この星での目的は達成した。もう君に用は無い…そもそも君の行いには常から吐き気がしていたんだ。さらばだ、名も知らぬ領主君」


そして、シャドウは領主の胸ぐらを掴んで微笑みながら告げる。


「あの世への餞別に教えてあげよう。僕の名は『ディスガー』。しがない平和主義者さ」


シャドウ、改めディスガーは領主の心臓をナイフで刺し貫いた後、影の中へと消えていった。

その頃、下層街に帰ろうとしていたフォルティ達は…


「…ん?」

「どうしたの?」

「…いや、何でもねぇ」

(今一瞬捉えられたあの思考……ディスガーか。アイツ、この星に……チッ)


2人はどうやら知り合いらしかったが、それに気づける者は1人とて居なかった。

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