第55話 おかえり
時は少し遡り、リーヴ達が地上に上がって来た頃。セラは真っ暗な空間で目を覚ました。
「う…」
どれくらい寝ていたのか分からないが、恐らく短い時間では無さそうだ。
(この感覚……目隠しと口枷みたいなの付けられてるのかな……身体も全く動かせない…多分拘束衣だ…)
セラは寝起きなので、自分がどうしてここに居るのか分からなかったが、すぐに全てを思い出した。
(そうだ……あたし…捕まっちゃったんだ。確か捕まる時にいっぱい麻酔打たれて……)
そりゃ災難だったな。
(なんでだろう…抵抗して暴れた時に5,6人の骨折っちゃったくらいなのに…)
いや絶対それだろ。何とぼけてんだ貴様。
(逃げるのは簡単だけど……最低でも1日はこの星に居ないといけないから、騒ぎは起こしたくない…)
今サラッととんでもない事言ったな。
(…どうしよう……怖い。あたし…どうなっちゃうの…?)
セラは唐突に大きな不安に襲われ、指一本動かせない身体を捩ってみる。だが、案の定金具が別の金具に当たる音が微かに響くだけで終わった。そんな時、セラの耳にドアが開く音と誰かの足音が聞こえて来た。念の為、セラは寝ているフリをする。
「まだ寝ているのか……まぁ、明日の引き渡しの日にはまた眠らせるから関係無いが」
セラの閉じ込められている部屋に入ってきたのは、件の領主だった。この状況を作った元凶が目の前に居る緊張感から、セラの心拍は加速する。
「しかし…改めて見ると整った顔立ちをしているな」
セラの胸の内に嫌な予感が満ちていく。
「まぁ…売る前に状態の確認といくか」
目が塞がれていてよく見えないが、何やら衣擦れのような音やベルトを外すような音がセラの耳に聞こえてくる。この時、セラは初めて他人に対して生理的な嫌悪感を覚えた。
(や…やだ…!気持ち悪い…!)
その時、別の誰かが領主に向かって声をかけた。
「領主様!侵入者です!急いで奥の部屋に避難してください!」
「なんだ…今から楽しもうと思っていたのだが……まぁいい、また来るぞ。おい、戸締まりはお前がやっておけ」
「了解しました」
領主の物であると思われる重い足音が去っていき、足音と共に一難も去ったかとセラは安堵したのだが…
「…ほう……さっき立ち聞きした通り、中々良い顔をしてるな。それにスタイルも…」
セラの中に嫌な予感が再来する。
「…ちょっとくらい楽しんでもバレないだろ」
(こ…この人まで…!誰か…助けて…!)
セラは叫び声を上げようとしたが、口枷に阻まれて声が出せない。どうしようも無くなって、セラは徐々に涙目になっていく。
だが、その時。
「いた!クオン、ここだよ!」
(この声…リーヴ…!)
間一髪のところで助けに来てくれた仲間に、セラはこれ以上無い程の頼もしさを覚える。
「ガキが…どこから入りやがった!」
セラに手を出そうとしていた男は銃を抜くが、瞬きよりも速くクオンが紫色の蝶を纏って瞬間移動してきて、男の目の前に立つ。
「私はあまり生き物の命を奪いたくはありませんが…向こうから私達に危害を加えて来たのなら話は別です」
「お前…今どうやって俺の前に…!」
「おやすみなさい……永遠に」
そしてクオンは男の首を軽く掴み、そのまま文字通り命を奪った。その間に、リーヴがセラの目隠しと口枷を外してあげていた。
「セラ…大丈夫?」
「はぁ…はぁ……うん、ありがとう…2人とも」
すぐにクオンが権能を用いて拘束衣を破壊すると、セラは久方ぶりに地面を足で踏みしめた。すると…
「うぅ…怖かった……本当に…来てくれてありがとう…」
セラはリーヴに抱きつき、涙を流しながらお礼の言葉を口にし続けていた。
「お礼なんていいよ。無事でよかった。おかえり、セラ」
リーヴがセラの頭を優しく撫でながら声をかける。すると、セラも涙ぐんだ声で応える。
「うん……ただいま、リーヴ、クオン」
おかえりだぜ




