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大宙の彷徨者  作者: Isel


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第54話 まっててね

やっとだぜ

翌朝。と言っても下層街に光は届かない為、時計でしか朝を感じる事は出来ないのだが。フォルティの家の前で、一足先に準備を終えたリーヴとクオンが雑談をしながらフォルティを待っていた。

少しして、家の中からフォルティが出てくる。右手にはいつも通り、折り畳まれた武器を持っている。


「悪い、少し準備に手間取った」

「ねぇ、フォルティ。どこから地上に上がるの?」

「ついて来い」


そう言うと、フォルティは再び家の中に入った。


「「…?」」


リーヴとクオンは疑問の色を隠せなかったが、とりあえずフォルティの後を追う。


「忘れ物ですか?」

「いや違う。リーヴ、さっきアンタは『どこから地上に上がるのか』って聞いたよな?」

「うん。上がる道具が、ここにあるの?」

「半分正解だな。正しくは…」


そう言いながら、フォルティは居間のタンスを蹴り飛ばす。フォルティ自身が結構な怪力なので、とんでもない音を立ててタンスが部屋の隅に吹き飛ぶ。想定より力が入ってしまったのか、フォルティは少し驚いたような顔を浮かべた。タンスが消えた壁に目を向けると、人1人が通れる程度の大きさの穴が空いていた。


「ここが通路だ」

「おお…秘密基地っぽい」

「緊張感の無い発言になってしまいますが…その……少しわくわくしますね」

「まぁ行く場所は決まってるけどな。ほら行くぞ」


3人は暗いトンネルの中にかけられた梯子を登っていく。2分と経たない内に1番上へと辿り着き、フォルティが蓋のような物をどかして地上に上がる。


「まぶしい…」

「1日しか居なかったというのに…太陽の光がすごく久しい物のように感じられますね…」

「雑談はやめとけよ、ここはもうアイツの家の前だ」


リーヴとクオンが正面を向くと、少し前に見た大きな屋敷が視界に入ってきた。


「よし、入るか」

「正面から行くのですか?」

「他に道ねぇだろ」

「『きょうこうとっぱ』だね」

「ああ、戦闘は俺に任せろ。アンタらはお友達を助けに行ってやれ」


その時のフォルティの顔は、『フォルティ』ではなく『処刑人』の顔になっていた。あの下層街は今の領主によって作られたものらしいが、フォルティは余程領主が憎いようだ。


「その……あんまり、無理はしないでね?」

「無理?誰に物言ってやがる……無理すんのはアイツらの方だ」


フォルティが一歩足を踏み出して屋敷の庭に入った瞬間、フォルティの足元が爆発した。


「フォルティ!」


リーヴは心配3割、驚き7割といった心情でフォルティの名前を呼ぶ。


「野郎……罠なんか仕掛けてやがんのか。当然か…若い人間は高く売れるからな…女となれば尚更…警戒も強まる訳だ…」


フォルティの顔と声色には、誰が見ても分かる程の苛立ちが感じ取れた。


「上等だ……皆殺しにしてやる」


そして、フォルティは苛立ちに身を任せてドアを蹴り壊し、後に続く2人と共に中に入る。


「貴様…!何者だ!」


入り口に立っていた2人の警備員がフォルティに向かって銃を構える。惨事の気配を感じ取ったクオンは、前もってリーヴの目を塞いでいる。


「うるせぇ死ね!」


だが、先程の地雷で苛立っているフォルティには拳銃など豆鉄砲同然だ。フォルティは大鎌を展開すらせずに付近にあった等身大の観葉植物を掴み、右側の警備員を真上から殴り潰す。土を入れていた鉢が割れ、破片が周囲に飛び散る。


「何…!?」


フォルティはその中で最も大きな破片を掴み、そのままもう1人の警備員の首に突き刺し、そのまま頸動脈を引き裂いた。


「ぐぁ…」

上層(温室)育ちの青二才が…俺に敵う訳ねぇだろ。生きてきた環境が違ぇんだよ、雑魚が」


2人の武装した警備員を秒殺したフォルティは、破片を投げ捨てて警備員の死体を漁る。


「クオン、どうしたの?なんか…すごい音したけど」

「リーヴさん、ゆっくりです。ゆっくり…前へ進んでください」


クオンはあまりリーヴに凄惨な現場を見せたくはなかった。リーヴが死体を通り過ぎた時、クオンはリーヴの目から手を離す。


「何があったの?」

「…察してください。あなたには少々…刺激が強いと思われますので」

「…そっか」


その時の2人の考えは奇しくも一致していた。いくら性根が善人と言えど、フォルティはあくまでも日陰の住人なのだ。荒々しい戦い方や、残虐な行為などにほとんど抵抗が無いのだ。だがそれはフォルティが悪い訳ではない。彼の世界では、それが当たり前なのだ。


(きっと…フォルティの故郷も、大変な場所だったんだね)


リーヴがそんな同情に近い感情に浸っていると、フォルティが2人に何かを投げてきた。


「わっ」

「これは…地図ですか?」

「ああ、コイツらが持ってた。地図ってより見取り図に近いな……」


フォルティは数秒ほどその地図を見つめて、やがてある一点を指差す。


「……ここだ。ここの空間…別に無くても困らねぇよな?」


フォルティが指差した場所は、部屋と部屋の間にある四畳ほどの空間だった。丁度、その部屋はリーヴ達の現在地から近い場所にある。


「確かに…何の為に作られた部屋でしょうか」

「一択だろ。ここに…売る予定の奴が入れられてんだ。地図を見る限り普通の部屋に紛れてるようだが…万が一外部の人間が来ても見つからないようにする為のカモフラージュだろ」

「じゃあ…一旦ここでお別れ、かな」

「ああ、入る方法くらいはアンタらがどうにかしろよ」

「はい。お任せください。フォルティさんも…どうかお気をつけて」

「分かってる」


こうして、リーヴとクオンはフォルティと別れ、とうとうセラを救い出す時が来た。

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