第53話 きゅうけい
よくよく考えたらここ数話の出来事全部1日の内に起こった事なの笑う
濃密過ぎるだろ
フォルティとの勝負に何とか勝利したリーヴ。泊まる場所も無いので、リーヴとクオンはフォルティの家に泊まる事となった。
食事を済ませた後、ニコニコのリーヴがタオルを頭に乗せながら軽い足取りで歩いてきた。
「フォルティ、フォルティ」
「何だよ」
煙草の煙を吐き出しながら、フォルティは面倒事の気配を感じ取って気怠そうに応える。
「一緒にお風呂はいろ」
「馬鹿じゃねぇのか」
「なんで?」
「年頃の女が異性に裸なんて晒すもんじゃねぇよ」
「わたし、気にしないよ?」
「俺が気にすんだよ。さっさとお友達2号と一緒に入ってこい」
リーヴは少し不満そうだったが、すぐに気を取り直してクオンの元へと走っていった。そして入浴も終え、クオンは先に眠りについた。が、リーヴはどうしても眠れないようで、眠くなるまでフォルティと雑談をする事にした。
「ねぇ、フォルティ」
「あ?」
「フォルティは、どうしてここの『処刑人』になったの?」
それを聞いたフォルティは、一瞬顔を曇らせた。
「あ…話しにくいなら、大丈夫だよ」
「いや、いい。隠す事でもねぇしな。ただ話が長くなりそうだってだけだ」
そう言うと、フォルティは咥えていた煙草の火を消してゴミ箱に捨てた。
「なんで火消したの」
「子供には煙草の煙は毒なんだよ。副流煙の方が有害って言うしな」
(ふく……りゅーえん?)
リーヴにはまだ副流煙がよく分からないようだ。
「で…俺がこんな事してる理由だったか」
「うん、よかったら聞かせて」
「…アンタは、言葉で人を変えられると思うか?」
リーヴは真面目に悩んだ。
「うーん……人によると思う。会話が出来る相手なら、なんとかなるんじゃないかな」
「そうか…まぁそれが正論だな。じゃあ、会話が通じない奴が相手なら?」
「それは…ちょっと厳しいかも」
「だよな。で、ここに居る奴らはどうだ?アンタらが最初に会った奴らは…会話が通じるように見えたか?」
「……なるほど」
「別にここの奴らに限った話じゃねぇよ。上層の奴らだって、俺の故郷の奴らだって…案外話が通じねぇんだ。自分の思い込みが絶対だって信じきってるからな」
「フォルティ、ここで生まれたんじゃないんだ」
「ああ。その話は……また今度だな」
フォルティは目の前に置いてあったコップの中の水を一口飲み、溜め息を吐いてから続ける。
「結局のところ、馬鹿らしくなったんだ。相手は会話に応じる気なんて更々無いってのに…自分は必死になって対話を試みてんのがな。それで力で身を守ったり、目についた問題を解決したりしてる内に…俺は下層街の処刑人になった。そりゃ俺だって出来るなら穏便に済ませてぇよ。ここのガキ共は純粋だ。余計な贅沢も汚れた悦楽も知らねぇ…そんな奴らには悪影響だからな」
「フォルティ…」
リーヴは驚いていた。初対面の時のフォルティは、リーヴ達の目には血も涙も無い冷徹な処刑人として映っていたからだ。だが、今リーヴの目の前に居るのは紛れもなく、一般的な感性と不器用な優しさを携えた1人の青年だった。何か名状し難い感情に襲われたリーヴが取った行動は…
「……」
「…おい」
正面に座っているフォルティに手を伸ばし、その頭を撫でる事だった。
「何してんだよ」
「わたしは、こうされると嬉しい。フォルティは今まで頑張ってきたから、わたしからの、精一杯の『おつかれさま』を送ろうと思って」
「ハァ……ま、悪い気はしねぇがな。気が済んだら寝ろよ。明日行くんだからな」
「…うん」
そして5分ほどフォルティの頭を撫で回し、満足したリーヴはクオンの隣で眠りについた。




