第52話 か弱くも、強固な意志
そらほうにしては展開遅いっすね
良いのか悪いのか分からんけど許してください
フォルティの家の玄関にかけてある時計は午後の5時を指している。その玄関の前の通りでは、地面に座り込むリーヴとそれを見下ろすフォルティの姿があった。
「これで俺の2勝だな。どうする?少し休むか?」
「うん…そうする」
「賢明な判断だ。ヤケ起こしたところで勝てやしねぇからな。ゆっくり頭冷やせ」
フォルティは勝負の相手だというのに、やたらとリーヴにアドバイスをしてくる。正直そこまで気にしてもいないが、リーヴにはフォルティの意図がよく分からなかった。端から真面目に戦う気など無いのだろうか。
だとしたら何故?確かに『殺す気ではやらない』とは言っていたが、それは『本気を出さない』事にはならない。リーヴの頭の中では、そんな考え事がぐるぐると巡っていた。
「そろそろ終わりでいいか?第3ラウンドと行こうぜ」
「うん…やろう」
今までの勝負を観戦していたクオンは、はっきり言ってもうリーヴに戦わないでほしかった。もちろんセラの事は助けたい。だが、クオンにとってもリーヴは大切な恩人なのだ。いくら死の危険が無いとはいえ、それが目の前で地面に転がったり攻撃に掠って血を流したりしているのを見るのは、クオンにも辛いものがあった。
(いいえ…口を出してはいけません。これはリーヴさんの覚悟の表れ…そこに口を挟むのは、リーヴさんの決意を踏み躙る事になってしまいます)
3回目の勝負ともなると、リーヴは最初と比べて攻撃を避けられるようになった。だが、当然フォルティも徐々に攻撃の密度を上げていく。
「どうした、避けてるだけじゃ勝てねぇぜ?」
「わかっ…てるよ…!」
リーヴは珍しくも分かりやすく表情を変えていた。元からセラやクオンの事は尊敬していたが、こんなに疲れる事をしながら攻撃まで行っている2人の凄さを、リーヴは改めて実感していた。
「…1つ聞いていいか?」
「なに…!」
フォルティは攻撃の手をほんの少しだけ緩めて、リーヴに問いかける。
「アンタはどうして…そんなにお友達を助けてぇんだ?」
フォルティの問いは至極単純な内容だった。
「どうしてって…決まってるでしょ…!」
「それが俺には分からねぇんだよな。生憎…友情も絆も人の善性ってやつも…何も信じちゃいねぇもんでよ」
「あなたこそ、どうして…?」
リーヴは荒い息をしながら、フォルティに聞き返す。
「俺のクソみてぇな能力のせいだよ。俺の実力を見て媚びを売ってくる奴…俺を利用しようとする奴…その他色んな隠し事をしてる奴とかを、俺は今まで大量に見てきた。なのにアンタには…そういった気持ちが一切見当たらねぇ。だから気になるんだ、アンタの思考回路がな」
フォルティはいつの間にか攻撃を止めている。真面目に話をしたいからだろうか。それとも、リーヴが相手なら多少動きを止めても大丈夫という慢心だろうか。
「わたしは…」
リーヴは悩んでいた。リーヴの中で、セラを助けるのは至極当然の行動だったからである。今までセラに助けられてきた。何度も何度も、命の危険から守ってもらった。だからリーヴは、セラが危ない時は自分が精一杯を尽くすのが当然だと思っているのだ。
(わからない…どんな言葉で言えばいいんだろう…)
そんなリーヴの迷いを見透かしたように、クオンが優しく呼びかける。
「大丈夫ですよ。思った事を、伝えれば良いのです」
「クオン……わかった」
リーヴはフォルティの方に向き直る。
「聞いて、フォルティ。わたしは……わたしがセラを助けたいのは…!」
リーヴは、柄にもなく少し声のボリュームを上げる。
「ただ、助けたいから…!大切な友達だから!」
その時、信じられない出来事が起こった。リーヴが声を上げた瞬間、リーヴから白色の波動が放たれて辺りを一気に包み込んだのだ。
「な…!?」
完全に油断していたフォルティは、その波動が直撃してしまった。だが、痛みや不快感などは全く無かった。代わりに、何か不思議な感覚がフォルティの中に生まれていた。
(なんだこれ……何も考えられねぇ…今まで俺は何を…そうだ…コイツと勝負を……勝利の…条件は……)
その時のフォルティの脳内は、まさに『無』だった。リーヴの方も突然の出来事に驚いて硬直しているが、すぐに今の状況を思い出す。
「あっ…そうだ、勝負」
リーヴは棒立ちのフォルティに駆け寄っていく…が。
「うわぁ」
地面につまづいて、フォルティの胴体に勢いよく飛び込んでしまった。とはいえ一応触れてはいるので、この勝負はリーヴの勝ちという事になるだろう。
「あ…?あ、そうだったな……そんなルールだった」
フォルティは未だに意識がはっきりしないようだ。
(俺が反応出来なかったって事は…あれは無意識で発動させた力って事だ。自分の異能に本人が気づいてないってケースは珍しくも何ともねぇが……だったらあれはどういう能力だ?他者の思考を消去する能力?…あり得ねぇ。そんな馬鹿げた能力が…『異能』の枠に収まっていいのか…?)
「フォルティ、フォルティ」
「あ?何だよ」
「わたしの、勝ち。ふふん」
リーヴは誇らしそうに鼻を鳴らした。フォルティはちょっとだけイラついたが、今はその気持ちはしまっておいた。
「すごいです、リーヴさん。まさか…本当に勝ってしまうなんて」
「ああ…本当にすげぇよ。アンタの勝ちだ、約束通り…お友達の奪還に協力してやる。俺もあの領主は気に入らねぇんだ…上に行くついでだ、ぶっ潰してやる」
「やった…!ありがとう、フォルティ」
「約束を守っただけだ……今だから言うが、別にアンタが勝とうが負けようが協力はするつもりだったんだぜ?」
「え?」
「俺はただ、アンタを守って戦ってる奴らがいかに有り難い存在かを理解させたかっただけだ。それが再確認出来たんなら、勝ち負けなんざどうでも良かった…のにな」
そう言うと、フォルティは慣れた手つきで煙草に火をつけた。
「ああそれと…分かってると思うがアンタらもついて来てくれよ?」
「うん。ちなみに、なんで?」
「あの趣味の悪い領主の事だからな…アンタの友達、女なんだろ?もしかしたら服とか剥かれてるかもしれねぇ。俺は女の裸体なんざ、健康診断の結果表と同じくらい見たくねぇからな」
「あなた健康診断受けるんですか…」
「フォルティ、みるからに不健康」
「うるせぇ。そんな事より、実行は明日だ。明日なら多分まだ間に合う。それまでしっかり寝とけ、俺の家に泊まって良いからよ」
「ほんと?やったね、クオン」
「ふふ。はい、嬉しいですね」
こうして、勝負を終えた3人はフォルティの家へと入っていった。
豆知識というかただの描写忘れ
下層街には当然ですが太陽の光が届いてません。明かりは街灯だけですし、時間を知る術も時計だけです




