第51話 処刑人vs彷徨者
リーヴのデフォルトネーム久しぶりに出したな
セラの救出に協力する条件として、リーヴは下層街の処刑人こと、フォルティとの勝負に勝たなくてはならない。リーヴの勝つ条件はただ1つ、フォルティの身体に触れる事。事態は一刻を争う為、勝負をする事が決まったその日に最初の勝負が行われようとしていた。
フォルティの自宅の真正面の道路にて、長方形に折り畳んだ大鎌を適当に振り回して遊ぶフォルティはリーヴに声をかける。
「どこから来ても良いぜ?」
リーヴは攻め方など全くもって分かっていないが、とりあえず真正面から突撃しようとしてみる。
「う…うおおおおおお」
リーヴはほぼ棒読みの雄叫びを上げながらフォルティに向かって走り出す。
「遅い」
「あいたっ」
だが、リーヴが一歩踏み出すより速く距離を詰めたフォルティが、リーヴの額を軽く指で弾いた。リーヴは額を押さえて地面にうずくまる。
「1回で勝てるなんざ思ってねぇからよ、何回でも挑んできていいぜ?ただ…あんまり時間をかけるとアンタのお友達がどうなるかは分からねぇがな」
フォルティはわざと意地の悪そうな声を出す。
「おい、紫色のアンタ」
「私ですか?」
「アンタ以外いねぇだろ。リーヴに何かアドバイスは無ぇのか?」
「そうですね…リーヴさん、少しこちらに来ていただけますか?」
「うん」
2人は何やら作戦会議をしているが、立ち聞く限りは難航しているようだ。それを見兼ねたフォルティは口元を片手で軽く覆い、2人に声が聞こえるようにして叫ぶ。
「追加のハンデをやるよ。俺の異能は…『俺を中心とした一定範囲内の生物の心を読む』ってやつだ」
その瞬間、リーヴとクオンは様々な疑問に納得がいった。自分達の要件を知っていた理由や、地味に名乗ってもいないのにリーヴの名前を知っていた事などだ。
「心が読めるのなら…半端な小細工は通用しませんか」
「その通りだ。アンタ、リーヴよりは戦闘慣れしてるみてぇだな」
「はい…それなりには」
細かい作戦を立てる事を諦めたクオンは、リーヴに向かって簡潔に助言する。
「リーヴさん、あの方の武器は…確認出来る限りは鎌と格闘のみです。銃は見当たりませんし、ひとまず距離を取って隙を何とか見つけてください」
「…うん、わかった」
リーヴはフォルティの方を向き直り、フォルティに歩み寄っていく。フォルティはもう何本目か分からない煙草に火を付けた頃だった。
「お、第2ラウンドか…いいぜ、来いよ」
リーヴはクオンに言われた通りに距離を取る…が、案の定、フォルティも変形させた大鎌を振りかぶって距離を詰めてくる。
「あぶなっ…!」
リーヴは間一髪でフォルティの薙ぎ払いを避け、地面に転がる。すぐに体勢を立て直すが、その瞬間にフォルティが真上から大鎌を振り下ろしてくる。距離を取る事を意識していたお陰か、それも幸い回避出来た。だが、リーヴの内心は焦りでいっぱいだ。
(あれ……あれ完全に…わたしのこと殺しにきてた…!)
「やるじゃねぇか。アンタの想像通り…ちょっと殺す気だったぜ」
「う…うそつき!殺す気じゃやらないっていってたのに!」
「あ……悪い」
フォルティはちゃんと謝れるタイプの大人だった。
「それはそうと……距離取ってばかりじゃ勝てねぇぜ?」
(落ち着いて、わたし…焦らないで、しっかりチャンスを…)
「『狙おう』だろ?そんな甘くねぇっての」
フォルティが大鎌を背面で回転させると、大鎌は瞬く間に変形して狙撃銃のような形になった。
「なるほど…最初に出会った時の狙撃は、鎌が変形した銃で行っていたのですね」
「ご名答。褒美の弾丸だぜ?」
フォルティは左手で狙撃銃を構え、そのまま2発の弾丸を発射する。弾は驚くほど正確にリーヴの両頬を掠めて飛んでいき、リーヴの頬から薄く血が流れ出す。
(鎌の持ち方から察するにフォルティさんは右利き…なのに利き手と逆の手だけで…狙撃銃の反動を完璧に制御するだなんて…!)
クオンが内心で感心している間にも、フォルティの猛攻は止まない。距離を取る事もあまり得策と言えなくなった今、リーヴは混乱してしまっていた。銃撃で動きを止められ、慌てるリーヴの喉元にフォルティの鎌が添えられる。
「勝負あり、だな」
リーヴは半ば絶望していた。自分なんかが本当に、こんな怪物相手に勝利する事が出来るのだろうか、と。
キャラクタープロフィール
【濁った正義】フォルティ
種族 人間
所属 下層街
異能 自身を中心とした一定範囲内の生物の心を読む
好きなもの 煙草 バイク 麺類
嫌いなもの 酒 整理整頓
作者コメント
身体能力をメインとして戦う化け物。攻撃力だけじゃなく耐久力や敏捷性にも秀でており、多分だが静寂くらいなら殺せる。この世界の「キャラの強さは種族で決まるものではない」という仕組みを如実に表しているキャラ。前述の通り煙草が好きで、風呂、飯、寝る時以外は基本的に吸ってる。また、バイクも好きで廃材から組み立ててみたは良いものの、下層に燃料が無い事に気づいて近所の子供に遊具としてあげた事がある。




