第50話 交換条件
セラが居ないとなんか寂しいですね
早う帰ってこいや
領主に捕まったセラを助け出す手がかりを求めて、リーヴとクオンは処刑人に会う為に下層街を歩いていた。ところどころで何かの騒ぎらしき音が聞こえるが、もう2人はそれに慣れ始めていた。
「あたりまえだけど…見つからない、ね」
「自宅が割れていては生活もままならないでしょうから…何か隠れ家のような場所に住んでいるのかもしれません」
もうかれこれ数十分は歩いているが、景色は一向に変わらない。道行く人に聞いても襲われかけるか『知らない』の一言が返ってくるかの2択だった。
「とりあえず、端っこの方まで歩いてみよっか」
「ですね。全体を見て周れば、案外簡単に見つかるかもしれませんし」
下層街は多少の入り組みはあれど、基本的に格子状の道である。そこまで広くも見えないので、端の方まで歩くのにも大した時間はかからないだろう。
だが案の定と言うべきか、途中食事を挟んで2,3時間ほど歩き回っても尚処刑人は見つからない。
「うーん…いないね。騒ぎを起こしたら会えたりしないかな」
「それだと私達が彼と戦う事になってしまいます…あの方は善人のようなので、出来るなら命を奪いたくありません」
リーヴは地味にクオンが勝つ前提で話を進めている事に驚きはしたが、クオンも10000年程生きた神なので当然と言えば当然だった。
その時、思案するリーヴ達の横を3人の子供が通り過ぎた。
「今日は会えるかな?」
「どうせいつもの場所に居るよ、あの人暇だから」
「処刑人って呼ばれてるのにねー」
リーヴ達は耳を疑った。会話の内容から察するに、その子供達は処刑人に会おうとしているのだろう。それどころか、彼らは恐らく居場所まで知っている。これを利用しない手は無いので、リーヴは子供達を呼び止める。
「ねぇ、聞きたいことがあるんだけど、いい?」
「いいけど、お姉ちゃんだれ?」
「「だれー?」」
子供達は無邪気な笑みと共に応答する。
「わたしはリーヴ。あなた達、処刑人に会おうとしてたんだよね?」
「うん!色んなものくれるんだ!」
「いい人だよ!」
「うん!いい人!」
どうやら、処刑人は子供達に大分懐かれているようだった。意外な一面だ。
(リーヴさん…お子様と会話出来てますね……精神年齢が近いからでしょうか)
仕草とか話し方が幼いだけで精神年齢まで幼いとは限らんだろ。
「わたし達も会いたいんだ。案内してくれる?」
「いーよ!」
「いーよ!」
「ついてきて!」
子供達は元気に走り出す。そして子供に触れてしまわないように離れていたクオンが、リーヴに近寄ってくる。
「お手柄ですね、リーヴさん」
「ふふん。これが、わたしの『こうしょうりょく』」
リーヴ達は元気いっぱいに走り出した子供達に何とかついて行き、やがて処刑人の家の前に辿り着く。そこは、意外にも少し前に通った場所に建っている普通の一軒家だった。
「ここだよ!」
「僕たちもこの辺に住んでるんだ!」
「ありがとう、みんな」
「ありがとうございます」
2人の礼を聞いた後、1人の子供が大きな声を上げる。
「おーい!来たよー!」
その直後、下層街に来たばかりの時に聞いた声が家の中から返ってくる。
「また何か集りに来たのか…もうやる物残ってねぇぞ」
「うそだ!いつも使ってる武器があるじゃんか!」
「これは駄目だ。ガキにはまだ早ぇ」
「けちー!」
「「けちー!」」
「大体こんなの持てねぇだろアンタら…」
そのやり取りを見るに、仲は結構良いみたいだ。
「そうだ!今日はお客さんがいるよ!」
「「いるよ!」」
「客?ちょっと待ってろ」
そして、古い木製のドアが開いて数時間前に見た青年が姿を現す。
「久しぶりだな、客ってのはアンタらか?」
何故か処刑人はそこまで驚いてもいないようだった。
「…何か事情がありそうだな。おいガキ共、悪いが今日は帰ってくれ。また明日だ」
「「「はーい!」」」
子供達は3人揃って仲良く帰っていった。
「聞き分けの良いお子様達ですね」
「ああ。アイツらがこんな場所に生まれちまった事が…何よりも残念だ」
少し目を伏せて呟く処刑人に向かって、リーヴは用件を伝えようとする。
「あの、わたし達…」
「いや言わなくていい、知ってるからな。あの領主に捕まった友達を助けたいって事だろ?」
「すごい……なんでわかるの?」
「…また今度教えてやるよ。それより、俺の事を『処刑人』って呼ぶのはやめてくれねぇか。こっちだって好き好んで人殺してる訳じゃねぇんだ」
「じゃあ、あなたの名前はなんて言うの?」
「『フォルティ』だ」
処刑人、改めフォルティは、リーヴ達の台詞を悉く先読みして会話する。
「そんで、アンタらの友達を救出する手助けをしろってんだろ?」
「…はい。どうか、頼まれてはくれないでしょうか」
「結論から言うと……それは別に構わねぇ」
その一言を聞いて、リーヴの顔があからさまに明るくなる。が、フォルティはまだ言葉を続ける。
「構わねぇが…タダってのは俺が納得いかねぇ」
「なにか、頼みごと?」
「違う。そもそも、アンタらがアンタらの友達を助けたいんだろ?なのにアンタが何の苦労もしねぇのは…頂けねぇよな?」
「なら、なにをしたらいいの?」
「簡単だ、俺と戦って勝て。もちろんアンタがな、リーヴ」
「「えっ…」」
リーヴとクオンは耳を疑った。ご存知の通り、リーヴに戦闘能力は皆無である。恐らく先程の子供と殴り合っても負けるかもしれない程だ。対するフォルティは1対6でも無傷で勝利出来る程の圧倒的な実力を持っている。そんな怪物が相手ならば、例え1000回戦ったとしてもリーヴが勝つ事は無いだろう。
「安心しろ、ハンデはやる。アンタは俺に1回触れれば勝ちでいい。何回挑んできたって構わねぇし、そこのお友達2号に助言を貰うのもアリだぜ?どうだ?アンタの友達を助ける為だろ、少しはアンタも頑張れ」
「なら………うん、やるよ。その代わり…わたしが勝ったら、ちゃんと約束まもってね」
リーヴの目には、か弱くも偉大な決意が煌々と灯っていた。
「ああ、俺は嘘つかねぇよ……そうだ、それと…俺は当然攻撃するが、寸止めにしてやるから安心しろ。そもそも殺す気じゃやらねぇしな、ただ…」
フォルティは少し口角を上げて笑いながら言う。
「『事故』が起こっちまったら…そん時はアンタも死ぬかもな」
リーヴの決意に揺らぎは無い。セラを助けたいという気持ちにもだ。ただ、そのフォルティの一言を聞いた時、リーヴは一抹の後悔のような念を抱いたという。




