第49話 すらむ…くだもの?
久々のリーヴ風タイトル
柄の悪い男達に絡まれるも、下層街の住民が恐れる『処刑人』によって助けられたリーヴとクオン。2人は気を取り直して、ここがどういった場所なのかを聞いて周る事にした。
「この街、子どもはいるのかな」
「子供のものらしき魂は散見されますね。私は魂の扱いは専門外なので、子供の方も普通に居るかと」
「魂の扱いが専門の死神がいるの?」
「はい。例えば、タナトスという神が魂に精通しています。彼は奈落、つまりはあの世の王でして…」
身内の話になると、クオンはほんの少しだけ饒舌になる。喋り過ぎたのを感じたクオンは、『こほん』と小さく咳払いをしてから話題を元に戻す。
「それでは…聞き込みを始めましょう」
最初に2人が尋ねたのは、少し歩いた場所の道端に座り込んでいる老人だった。
「すみません…私達はここに来たばかりなのですが、ここがどういった場所なのか教えてくださいませんか?」
クオンは腰を屈め、丁寧な口調で老人に話しかける。だが…
「あー……あー…」
老人は口の端から涎を垂らしながら呻いているだけで、クオンに応えようとはしなかった。よく見ると、傍らには数本の注射器が転がっている。
「クオン……この針が付いてるやつ、なに?」
「注射器です……恐らく、危険な薬物を摂取してこうなってしまったのでしょう」
「えぇ…そんな危ないのが出回ってるの…?」
「薬物にも薬物の売人にも、近づかなければ大丈夫です。私が絶対に近寄らせませんので、ご安心ください」
「うん…ありがとう」
またしばらく歩くと、何やら前方が騒がしい。色々な場所から住民が集まってきていて、一種の祭りのようにも見えた。
「いってみよっか」
「はい。先程のような方に絡まれないように、私から離れないでくださいね」
集まった人々は皆背が高く、リーヴの身長では何に人が集まってきているのかが分からない。なので、リーヴはクオンに肩車をしてもらう事にした。
「ふぅ…リーヴさん、見えますか?」
「ばっちり、だよ」
人の円の中心では、男女数人のグループが2つ睨み合っていた。俗に言う抗争というやつだろう。周囲の住民のほとんどはヤジを飛ばしているが、ところどころでヤジとは異なる声が聞こえる。
「騒ぎを大きくし過ぎるなよ!」
「頼むぞ!アンタらに全財産賭けてんだ!」
「やれ!ぶっ潰せ!」
恐らくだが処刑人を恐れる者、抗争の勝敗で賭けをする者、純粋に観戦しようとする者など、この場に居るのは様々な人間だった。何を言っているのかまでは聞こえてこないが、2つのグループの睨み合いが徐々に激化している事はリーヴ達にも分かった。それに連れて、観衆達の声もどんどん大きくなっていく。
「これ…わたし達は離れた方がいいんじゃ」
「ですね…人も増えてきましたし、私の手に触れてしまったら大変です」
クオンがリーヴを下ろしている間に、件の2グループは今にも戦闘が始まりそうな雰囲気となっていた。が、その時…
「わっ!」
先程聞いた大きな発砲音が2回響き、2グループの丁度間に弾丸が2発着弾した。十中八九、処刑人がどこからか放った物なのだろう。それを確認した片方のグループのリーダーは、歯を軽く食い縛りながら呟く。
「2発…『次は無い』か。チッ…解散だ!」
その号令と共に、観衆も含めた全員が早足でその場を後にしていく。その内の1人の青年を捕まえて、今度はリーヴが聞いてみる。
「ねぇ、聞きたいことがあるんだけど、いい?」
「何だ?俺はさっさとここを離れたいんだが……まぁいいか。見たところ新入りだろうし、流石にこの程度なら処刑人も見逃してくれるだろ」
そのボソボソとした返答をOKと受け取ったリーヴは、自分達が1番気になっている事を尋ねる。
「ここは…どういう場所なの?」
「ここはな…この星の下層街だ。上層の奴らは『下層』だとか『スラム』だとかって呼んでるな」
「すらむ…くだもの?」
「リーヴさん、違います」
「ふぅん……みんなは、どうしてここに?」
それを聞かれた青年は、舌打ちと共に答える。
「全部…あの領主のせいだ。やれ金が無いだの道の邪魔だのって理由を付けて…気に入らねぇ奴を片っ端からここに落としやがったんだ。そういやアンタらは何でここに落とされたんだ?」
「実は…」
リーヴはこの星に来てからあった事を全て話した。
「マジか……つくづくあの領主はクソだな」
苛立ちと共に呟いた青年は、少し考え込んでからリーヴ達に提案する。
「…アンタら、その攫われた友達ってのを助けたいんだよな?」
「うん。セラは…その子は大事な友達だから」
「だったら1人良い奴を知ってるぜ。コイツを頼れば何とかなるはずだ」
「それは…誰の事ですか?」
クオンの問いに、青年はニヤリと笑って答える。
「処刑人だ」
「「え…」」
2人は驚きの言葉を隠せなかった。
「理に適ってる話だとは思うぜ?アイツだってここの住民な以上…領主の事は絶対恨んでるし、どうせ処刑人なら方法は知ってる。それに…アンタの友達を助けにいくんなら、領主の家にも行くって事だろ?俺達の分まで派手にぶっ壊してきてくれよ!」
その青年は元気よくそう叫んだ。過激めな青年の発想はともかく、ようやくセラを救出する道筋が見えた気がして、リーヴは顔を緩ませる。
「わかった。じゃあ、処刑人を探そう。ありがとう」
「ありがとうございます」
「ああ、達者でな!」
こうして、2人は青年と別れて処刑人を探し始めた。
よく考えたらこいつら2人の平均年齢5000歳で笑う




