第48話 処刑人
クオンの身長はリーヴと同じくらいです
クオンはリーヴを守る為に臨戦態勢に入ったはいいが、遠方から近づいてくる強大な魂を感知して表情を曇らせていた。だが、目の前の男達はそんな事知る訳も無いので、お構いなしに襲いかかってくる。
その瞬間、鋭く大きな発砲音が周囲に響き渡った。放たれた弾丸は、クオンの正面まで迫っていた男の頸椎を貫通し、クオンとリーヴの間を掠めて背後の壁にめり込む。
「わっ…!」
それに驚いたリーヴは、思わず目を固く瞑って身を縮める。クオンは警戒を強めて、リーヴを左手で抱き寄せる。
「あれが…処刑人、でしょうか?」
その弾丸を放ったのは、ボロボロになった藍色のコートを着ている青年だった。耳にかかる程度の長さまで伸ばしたインナーカラーが青色の黒髪を携えていて、右手には長方形に折り畳まれた取手付きの何かを持っている。銃はどこへ行ったのだろうか。
「…この程度の騒ぎ、ここじゃ珍しくもなんともねぇ。起きてから寝るまでで5回は見るぜ」
処刑人は咥えていた煙草を握り潰してその辺の地面に放る。それを聞いた1人の男は、処刑人に向かって荒々しく叫ぶ。
「なら何の問題があんだよ?」
「そうだ、殺し合う事に問題なんざねぇ…が、応戦の意思がねぇ奴を巻き込むのは違ぇよな?これ以上喋んのはやめようぜ、どうせやる事は決まってんだ」
その瞬間、処刑人の目が青い光を放ち、右手の長方形の何かで背後に迫っていた鉄パイプを持った男を、後ろを見ないまま殴り倒した。それを皮切りに、5人ほどの男が様々な武器を持って一斉に襲いかかっていく。
「死ねぇ!…ぐぁっ!」
1人はナイフで処刑人の心臓を狙うが、それを処刑人は真正面から顔面を蹴り飛ばして対処する。
「ハァ……面倒くせぇ」
処刑人が右手の長方形の物体を軽く回転させると、それはすぐさま本来の姿に戻っていく。次の瞬間、処刑人の右手には刃部が澄んだ青色の大鎌が握られていた。
「見かけ倒しだ!数で…」
『押せ』とでも言おうとしたのだろうか、それを言い切るより先に、処刑人は地面に突き立てた鎌を支柱にして飛び上がり、空中で1回転して鎌を垂直に振り下ろす。その男がどうなったかは…想像に任せよう。
「雑魚が」
「ビビんな!こっちにはあと3人も…」
「寝とけ」
処刑人はまたも台詞を遮って首を刈り落とす。
「あと2人か…」
「チッ…逃げるぞ!」
残りの2人の男は、仲間の死体を放置して付近の路地に駆け込んでいく。が、処刑人はそれを見逃すほど優しくないようだ。
「許すと思うか?」
処刑人が後を追って路地に入っていった直後、形容し難い大きな音がリーヴ達の耳に入ってきて、血塗れの処刑人が路地から出てきた。
「わ……あぁ…」
リーヴが死ぬ程情けない声を漏らすと、処刑人はそれに気づいたのか、真っ直ぐにリーヴの方へ歩いてくる。
「あ…助けてくださってありがとうございます」
クオンがペコリと頭を下げると、処刑人は大鎌を回転させて折り畳んでから返答する。
「アンタらはここに来たばっかか?」
「はい」
「そうか。俺がいつも助けられるとは限らねぇからな。ああいう奴らに絡まれないように気をつけろよ」
「分かりました、ありがとうございます」
「ちなみに…もしアンタらがアイツらみたいな事をするとしたら……分かるよな?」
「…はい」
「なら良い。じゃあな、せいぜい死ぬなよ」
処刑人は高く跳び上がり、建物の上を伝ってどこかへと去っていった。彼の姿が見えなくなった時、リーヴは力が抜けたかのようにその場に座り込んだ。
「こ…殺されるのかとおもった…」
「あの方から私達に対する敵意は感じられませんでした…本当に、悪人を見極めて攻撃しているようですね」
「言ったら悪いけど…こんな場所にも、安全を守る人がいるんだね」
「1人でこんな事をしているのでしょうか…」
処刑人に対する疑問は尽きなかったが、ここで2人は元々の目的を思い出す。
「あ…そうだ、ここがどこなのか調べなきゃ」
「そうですね。危機は去りましたし、行きましょうか」
2人は荒れ果てた街の中へと足を踏み出した。




