第45話 わたしも
豆知識
この世界における魔物は基本的に害獣みたいな立ち位置です
殺しておくに越した事はありませんが、流石に殺しすぎると生態系がうんたらかんたら
楽器屋に行った翌日。引き続き休息を楽しむ星間旅団は、今日何をするか、という会議をしていた。
「わたし、いきたい場所がある」
「昨日は私に付き合ってもらいましたし、私は構いません」
「うん。あたしも、リーヴの行きたい場所でいいよ」
早々に今日の目的地は決まったようだ。リーヴの行きたい場所というのは…
「わたし、武器がほしい」
武器屋だった。てっきり玩具屋や花屋とかだと思っていたセラとクオンは、意外そうな表情を隠せないでいる。
「いいけど…何で?」
「わたしも、戦うときに役にたちたい。見てるだけは、申し訳ない」
「なるほど…とりあえず、適当な魔物と戦ってみましょうか。武器なら私やセラさんの物がありますし、それでリーヴさんに合う武器の傾向を探りましょう」
そして、3人は街の外を彷徨いて適当な魔物を発見した。リーヴの腰くらいまでの高さの、狼のような姿の魔物である。
「あれにしよう。クオン、武器かして」
「はい、気をつけてくださいね」
クオンは少量の花弁を舞わせて大鎌を出現させると、それをリーヴに手渡す。すると…
「ぅわあ」
鎌の重さに耐えきれず、リーヴが前向きに転んでしまった。考えてみれば当然だ。クオンの大鎌は、真っ直ぐ立てれば持ち主のクオンやリーヴの身長よりも少し大きいのである。そんな武器を、ある程度の筋力があるクオンはともかく、貧弱そのものであるリーヴに持てる訳が無かった。
「リーヴさん、大丈夫ですか?」
「うん……おこして」
クオンはリーヴを助け起こし、鎌を消した。土を払ったリーヴはセラの方を向いて、セラに近寄る。
「次は、セラの武器をかしてほしい」
「うん…本当に持てる…?」
「大丈夫。クオンのよりも軽そうだし」
あんた剣の重さを舐めてるだろ。
「う…んしょ」
リーヴは何とかセラの剣を片方だけ持ち上げた…両手を使って。一応片手剣のような構え方にはなっているが、足は生まれたての子鹿のように震えている。
「リーヴ…」
「だ……大丈夫。もう片方も…いける」
クオンは少し苦そうな笑みを浮かべてリーヴを見ている。
(セラ……こんなの振り回してるの…?2つ合わせたら…クオンのより重い気がする…)
それでも痩せ我慢をして、リーヴは魔物達の方を向く。セラとクオンは心配そうに、よろよろと歩いていくリーヴを見守る。やがて魔物達の背後まで辿り着いたリーヴが、右手の剣を頑張って振りかぶる。
「ふぅ…ふぅ……え、えぇぇぇい」
そして力いっぱい振り下ろす…が、魔物の背中に浅い切り傷を作った程度だった。
「!!!!!!」
背中を浅く斬られた魔物は当然ながら怒り、仲間を呼び寄せてリーヴに飛びかかる。
「わ…」
「伏せて!」
リーヴが後ろに跳び退こうとするより先に、魔物達の真上から光を纏ったセラが急降下してきた。魔物達は一瞬で消し飛ばされ、後には土煙だけが残っていた。
「リーヴ、大丈夫?」
「う、うん。やっぱり…だめだった、ね。振るどころか、持つこともできなかった」
「あなたも生物である以上、どうしても向き不向きはあります。リーヴさんに出来ない事は私達が担当しますから、あまり気にしないでください」
クオンはリーヴに励ましの言葉をかける。リーヴも納得しかけていたが、そこでふとセラは思いつく。
「じゃあ…一緒に振ればいいんじゃない?」
「2人で持つってこと?」
「うん。それなら……なんか…悪くは無いでしょ?」
(セラさんは案外ふわふわした生き方をしてますね…)
そして、3人はまた魔物を探して街の周辺を歩き回る。
「あ、いた」
今回見つけたのは、腕に刃のような物が付いている人型の魔物だった。まだこちらには気づいてないらしい。
「2人で持つなら、剣は1本だよね」
「そうだね。そっちの方が軽いし」
クオンは一歩後ろから、その様子を微笑ましそうに眺めている。
「よし…いくよ」
「うん。せーの…!」
次の瞬間、クオンの視界には宙を舞うリーヴと、その少し前で後ろを振り返るセラの姿があった。セラがあまりにも速いので、リーヴの身体が追いつかなかったのだ。
「ごめん…!大丈夫?」
「平気……セラ、はやいね」
「あたし…自分の速度で動く事に慣れちゃってるから…」
「今度は、ゆっくりいこう」
2人は元の位置に戻って、再び剣を構える。
「せーの」
リーヴの掛け声に合わせて、2人は魔物に向かって踏み込む。そして前向きに体重を乗せたまま、剣を一直線に振り下ろす。すると…
「……!!!!」
魔物の身体は見事に袈裟状に切断され、魔力に分解されて消滅した。
「やった…!きれたよ、セラ…!」
「うん…!頑張ったね!」
セラは満面の笑みを浮かべて、同じくニコニコのリーヴの頭を撫でている。そして、唯一の見物人であるクオンだけは真相を知っていた。
(あれは…ほとんどセラさんの腕力だったような)
一応、黙っておいたらしい。
害獣とはいえこの世界の魔物の命軽すぎて笑う
いつかそういう愛護団体とか出そうかな




