第44話 しゅみ
読み返してみたらセラがリーヴに惚れるの早過ぎる気もするけど、よく考えてみよう
顔と声は良い少女に一生付き合うと思ってた持病治してもらってるねん、アイツ
その上調子良い時以外は外出してなかったから母親以外の人間と関わったのもあれがほぼ初めてだし
これで理由になるか?
ぶっちゃけ私は思わないがそれでもええやろ
夜の星での騒動を終え、クオンという新しい仲間と共に次なる星へとやってきた星間旅団。今回降り立った星は特に何の特徴も無い普通の星だったが、こういうのもたまには良いだろう。3人は街の入り口付近で雑談をしていた。
「そうだ。わたし、クオンにききたいことがある」
「はい。何でしょう」
「クオンの趣味って、なに?」
その質問は、リーヴとセラが予め決めていた質問だった。2人の『クオンともっと仲良くなりたい』という純粋な気持ちからだ。
「私の趣味ですか……絵を描く事や、楽器を奏でる事…あとはお裁縫だったり、1人で出来る事が好きです」
「さいほう……って?」
「糸や布、針などを使って色々な物を作る事です。私は…ぬいぐるみを作るのが好きなのですが」
「ぬいぐるみ、わかる。ふわふわしてて、かわいい」
「はい…それに、ぬいぐるみは私が触れても大丈夫ですから」
「でも…旅の最中だと、裁縫はできない、よね」
リーヴが彼女なりにクオンを理解しようとしていると、大体同じ事を考えていたセラがある事を思いつく。
「そうだ。楽器屋さんに行ってみるのはどうかな?楽器屋さんは大体試し弾きも出来るって、お母さんも言ってたし」
「いいね。いこう」
「良い…のですか?私の趣味に歩み寄ってくださるのは嬉しいのですが…」
「いいんだよ。わたしもセラも、まだ知らないことが沢山ある。クオンなら、いっぱい知ってるでしょ?」
「そうですか…では、行きましょうか。……あっ」
そこで、クオンは何かを思い出した。
「そういえば私…人混みに行けないのでした…」
「あ…忘れてた」
「すみません…せっかく提案してくださったのに」
クオンが申し訳無さそうに頭を下げると、リーヴがどこか得意げに含み笑いを溢す。
「ふっふっふ…わたしに任せて」
そして、リーヴはクオンに何かを耳打ちする。それを聞いたクオンの顔は一瞬明るくなるが、その直後に少し苦笑いを浮かべていた。
「よし、いこう」
やがめ、3人は街中に足を踏み入れた。その瞬間…
「で、では…失礼します」
クオンがリーヴの右腕にそっと抱きついた。それを真横で見ていたセラが目から鱗みたいな顔をしていたのは言うまでもない。
「ふふん。わたし、あたまいい。クオンはわたしになら触っても平気。なら、ずっと私に触ってれば大丈夫」
「あの……歩きにくくない、ですか…?」
「うん。大丈夫」
その時、リーヴの空いた左腕にセラが『ひしっ』と抱きついた。
「セラ、どうしたの?」
「…あたしもやりたい」
「ふふ、羨ましいんだ」
こうして、3人はもの凄く珍妙な陣形で人の行き交う街を歩きながら、楽器屋を探しに歩き始めた。通りすがりの人々が、一瞬3人の方を向いては少し微笑んで通り過ぎていく。
「分かってはいましたが…その…人の目がすごいですね」
「わたしは気にならないけど」
「リーヴのメンタルって意外と強いよね…」
珍パーティは街中の色々なものを見て周りながら、やがて楽器屋に辿り着いた。
「あ、ここかな。そういえば、セラは楽器ひけるの?」
「ギターとリコーダーくらいかな…」
「ギター弾けるんですかあなた…」
中では落ち着いた雰囲気の音楽が流れていて、洒落た内装がどことなく居心地の良い店だった。程なくして店主と思われる男性が歩み寄ってきた。
「いらっしゃいませ。何をお探しでしょうか?」
「こんにちは、試し弾きって、できる?」
「はい。専用の部屋もありますので、よければご使用ください」
3人は店主に案内されるがままに、試し弾き用の部屋に入る。そこそこ大きな店なので試し弾き用の部屋も中々に広く、中にはピアノが一台置いてあった。
「今はあなた方以外にお客さんは居ませんので、弾きたい楽器は勝手に持っていって大丈夫ですよ」
「ありがとう」
リーヴが振り返ると、既にクオンがピアノの前に座っている。
「私…ピアノが1番得意なんです」
「おおー…クオンっぽい」
「1曲、弾いても良いですか?」
リーヴとセラは返答の代わりに、精一杯の拍手で賛成の意を伝えた。
「では…」
それからクオンは、感性の乏しいリーヴでさえ聴き入るほどの素晴らしい演奏を見せた。まさに夜空を舞う1匹の蝶のような、優雅な音色が辺りに響いていた。
「…ふぅ。どうでしたか?」
「すごい……クオン、かっこいい」
「ふふ…ありがとうございます」
「じゃあ、次はあたしが弾くね」
いつの間にか、セラがアコースティクギターを持って立っていた。その辺の椅子に腰掛けて、慣れた様子で演奏の準備をする。セラが引いた曲の名前は分からなかったが、皆で焚き火を囲いながら聞くような落ち着いた曲調で、それでいて暗闇に灯る1つの光のように、どこか希望を与えてくれるような曲だった。
「…久しぶりに弾いたけど…弾けてた?」
「2人とも、すごい…!」
リーヴはいつも通りの平坦な声で、かつ目を輝かせながら言う。
「わたし…口笛くらいしかできない」
「あたしは口笛出来ないなぁ…ちょっとやってみてよ」
リーヴは要望の通り、口笛で適当な鳥の鳴き真似をした。
「すごく…お上手ですね」
「曲じゃないのにちょっと聴き入っちゃった…」
「ふふん。ありがとう、2人とも」
そんな、何も無い平和な1日だった。
ちなみに、私は楽器の事は1ミリも分かりません




