第43話 あの子の面影
豆知識という程のものでもないやつ
クオンの家の庭にある大量の墓は全て、クオンが看取った彼女の友人の墓です
「ん…」
セラに色々された翌日、リーヴは鳥の鳴き声で目を覚ました。小さな欠伸をしてから、部屋の隅にかけてあるパーカーを取りに行く。
「昨日のセラ…楽しそうだったな」
昨日された事を思い出して、リーヴの体温と心拍が微かに上昇する。不思議だ。ただくすぐられていただけなのに、何故こうも胸が高鳴るのだろう。リーヴの中にはそんな疑問が満ちていた。
(どきどきするの…止まらない…)
リーヴはとりあえず顔を洗い、ベッドに腰掛ける。するとその振動が伝わったせいか、セラもゆっくりと目を覚ました。
「う…ん」
「あ…ごめん。起こしちゃった?」
「ううん…おはよ、リーヴ」
2人の間には妙な沈黙が流れている。セラの方も、昨日の事を思い出して悶々としているのだ。
「その…昨日は、ごめんね?やりすぎちゃって…」
元々リーヴにはセラを咎めるつもりなど毛頭無かったが、申し訳無さそうなセラの顔を見ると更にその気が失せていく。
「うん、大丈夫、だよ。むしろ…」
「…?」
「た…たまになら……して、いいよ?」
「あ…そ、そう。ありがと」
セラは自分が何故礼を言っているのか分からなかったが、ひとまず2人の間の微妙に気まずい空気はどうにかなったようだ。2人の口数が徐々に増えてきた頃、2人は異変に気がついた。
「…なんか、あかるいね」
「確かに…月明かりにしてはちょっと明るすぎだよね」
気になったセラがカーテンを開けて外を見てみると、そこには衝撃的な光景が広がっていた。あまりの衝撃に、リーヴとセラはクオンの下へ駆けていく。
「クオン…!クオン!」
「ふぁ…おはようございます、どうかしましたか?そんなに慌てて…」
眠そうにドアを開けたクオンの台詞に被せるように、セラの澄んだ声が辺りに響く。
「夜が…明けてるよ!」
「…え」
クオンは急いで外に出てくる。そこにあったのは、もう何千年も見ていない暖かな陽光だった。
「どうして…急に…!」
クオンは驚いていそうだったが、それと同時に嬉しそうにも聞こえる声で呟く。やがて、クオンの両目から少しの涙が流れ落ちてくる。
「クオン…?大丈夫?」
「はい…平気です。ただ…あの子に…また会えた気がして……原理は…よく分かりませんが」
「クオンにも、わからないの?」
「はい…起きたらこうなってました。強いて言うなら…私の『居る場所に夜を齎す』という力が消え去ったような感覚です」
「それって…夜の権能が消えちゃったって事?」
「いえ、それは変わらず使えます」
クオンは証拠として、右の手の平に黒く輝く魔力の渦を出現させた。
「ふふん。わたしのお願いごと、かなったね」
「「お願い事?」」
セラとクオンは声を揃えて尋ねる。
「クオンの過去を聞いた時、わたしは心の中でお願いした。『この夜が明けますように』って」
「ふふ…本当に、私はあなた方に助けられてばかりですね」
「でも…これだとクオンが旅に出る理由無くなっちゃわない?ここに残るの…?」
「いえ、私はあなた達に同行させて頂きます。私を救ってくださったのも、この夜明けを齎してくださったのも…どちらもあなた達ですから」
「夜明けに関してはあたし達何もしてないと思うけど…」
セラは苦笑を浮かべる。
「まぁ、何はともあれ、よかったね」
「はい。ありがとうございます」
「そうだ。2人とも、出発の前に色々買っておかない?ずっと旅をしてたら野宿する機会もあるだろうし…」
「うん、そうしよ」
こうして、3人は出発の前準備として買い出しに向かった。調理器具や食材などを粗方買い終えた時、リーヴがふとクオンに尋ねる。
「クオンは、死の神様なんだよね?」
「はい」
「なら、クオンは死だとか、人生とかについてどう思ってるの?」
「少し長くなってしまいますが…一部の方は『死なんて無ければ誰も苦しまないで済む』と言います。ですが、私は死が無ければ誰も苦しまないとは思いません。寧ろ…死という終わりがあるから、人はそこに向かって生きて行けるのだと思います。終わりが無い事の辛さは…私でなくても、神であるならば分かる筈です。もちろん全ての方がそうとは言いませんし、死を司る私自身を肯定するつもりもありません。ですが…『死に向かって生きる』というのは、何人であろうと共通するものだと、私は思うのです」
「……?」
リーヴはもう理解出来ていないようだったが、気にせずにクオンは続ける。
「加えて…人は死に向かって生きるとは言いましたが、誰の人生であろうと…死は目的ではありません。死はあくまでも物語の終着点…人々が生きる目的とするのは、そこに至るまでの様々な箇所に散在している何かなのです。つまるところ…死に向かう道中で何を見つけ、何の為に死に向かうのか。それが、私は1番大切だと思います」
「深いなぁ…やっぱり生きてる年数が違うから、言葉に重みがある…」
セラは軽く頷きながら呟く。それを聞いたクオンは、少し嬉しそうに微笑みながら返答する。
「それは良かったです。私は大して高尚な人間ではありませんが…この言葉があなたの生きる道の導となれたなら、幸いです」
一方、リーヴは…
「…?」
何も理解していなかった。
何はともあれ、星間旅団に新たな仲間が増えた。




