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大宙の彷徨者  作者: Isel


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第42話 蝶の助言

久しぶりの百合回です

結構ギリギリを攻めたつもりです

苦手な方は読まなくてもストーリーの理解に影響は無いのでご安心ください

クオンが星間旅団として同行する事が決まった日の夜。相も変わらずずっと夜だが。セラはクオンに貸してもらった部屋のドアの前で悶々としていた。

遡る事数分前。風呂から上がり、夕食を食べ終えた直後の事だ。リーヴは一足先に部屋に戻っており、クオンとセラがリーヴの後を追って部屋に向かっていた。


「ありがとね、クオン。ご飯おいしかった」

「それは何よりです。私の方こそ、ありがとうございます。こんな私を…仲間として認めてくださるなんて」

「気にしないで。あたしもクオンと一緒に居れるのは、すごく嬉しいから。色々知ってる上に強いから頼りになるしね」

「はい…改めて、よろしくお願いします」

「うん、よろしくね」


クオンとセラはお互いの顔を見て微笑み合う。部屋の前まで来た時、クオンはふと思い出したかのように尋ねる。


「そういえば、セラさん」

「なに?」

「あなたに1つ…人生の先輩として助言をしようと思います」

「助言?」

「はい。リーヴさんのような方には…もっと押しを強くした方が良いですよ。そうでなければ、あの方は恐らく気づかないと思うので」


セラはクオンの言葉の意味を理解するのに数秒ほどかかった。そしてその意味を理解した時…


「……ふぇっ…?」


まるで心を見透かされたような感情になり、気の抜けた声を漏らした。そういえば、クオンは初めて会った日の夜の事をまだ勘違いしたままだ。つまりクオンは2人の事を恋仲だと思っており、セラが奥手気味の性格である事を見抜いたが故にこういった助言をしたのだ。実際はただの両片思い(?)なのに。


「な…なんで分かるの…?そ、その…あたしが…リーヴの事…」

「死神は皆、権能に関係無く魂の様子を見る事が出来ます。リーヴさんと話している時のあなたの魂は、幸福一色に染まっていましたので」

「そう…なんだ…え…えと……あり、がとう」

「ああ、それと…」


クオンは軽やかな足取りで歩み寄り、セラに耳打ちする。


「あの部屋…鍵付いてますから。それでは、おやすみなさい」


それだけ言い残すと、クオンは『ふふ』と笑って自室に戻っていった。

そして今…


(何何何…!クオンはあたし達の事どんな関係だと思って…!)


そりゃ……()()()()関係だと思われてるんだろ。しかも何故か付き合ってはないっていう認識だし。


(ああああああ……どうしよ…!もう何分も部屋に入れてないよ…!)


セラは赤くなった頬を両手で軽く押さえながら、入り口の前で思考だけを巡らせている。


(よ……よし。とにかく入ろう。リーヴも待ってるからね…)


セラがドアを引くと、少しの軋んだような音と共に中の様子が視界に映る。仄かな月明かりが窓から射す部屋の中で、足をパタパタさせながらベッドに腰掛けているリーヴの姿が見えた。寝る前なので、リーヴは上着を脱いでいる。


「おかえり、セラ。おそかった、ね」

「う…うん」


流石に今さっきクオンに言われた内容をリーヴに伝えるのは気が引けたらしい。


「セラ…?どうかした?顔、赤いよ?」

「い、いや。なんでもないよ…」


部屋の中に入ったセラは、勇気を振り絞ってドアの鍵を閉めた。『ガチャン』という好きな人は好きそうな音が、部屋の中に響く。


「よいしょ…」


セラはゆっくりとベッドに歩いて行き、リーヴの隣に座る。とりあえず心臓の高鳴りを収めたいセラは、頑張って話題を探す。


「…月、綺麗だね」

「うん」


リーヴは会話下手だった。そして、緊張などの雑多な感情が最高点に達したセラは、遂に行動を起こす。


「…ねぇ、リーヴ」

「なに?」

「その…リーヴって、人に抱きつくの好きだよね?クオンにもしてたし…」

「うん。あったかいし、うれしい気持ちになれるから、すき」

「えっと…クオンは、仲間だし友達だから別に良いと思うけど……その…あんまり、見境無く人に抱きつくのは…やめた方がいいと思うよ…?」

「どうして?」

「ほら…人に触れられるのが苦手って人も居るし」

「なるほど。じゃあ今度からは、許可をとってからいく」


リーヴの言葉が終わってから数秒だけ後に、セラが恥ずかしそうに口を両手で覆いながら、小さく口を開く。


「……それと」

「?」

「あたしが……妬いちゃう…」


その様子を見たリーヴの脳内は、ただ1つの感情に染まっていた。


(おー…かわいい)


もちろん表情はほぼ変わっていないが。一方、セラは初めて自身の本心を晒した事によるものか、何かが吹っ切れたようだ。


「…リーヴ」


セラはリーヴの名前を呼ぶと、返答を待たずにリーヴを力強く抱きしめた。


「わ…」

(リーヴ…細いなぁ……もうちょっと力強めたら折れちゃいそう…)


セラはしばらくの間リーヴを抱きしめた後、リーヴの身体を優しくベッドに寝かせる。リーヴの頭が『ぽふ』という音を立てて枕の上に乗る。そして、セラは仰向けになったリーヴの上に跨っている。


「セ…セラ…?」

「…」


セラは何も言わぬまま前髪を纏めているリボンを解く。


「両手、頭の上にやれる?」

「うん…」


リーヴが両手を頭の上に持ってくると、セラはリボンでその両手を縛る。


「セラ…どうしたの…」

「じっとしてて」


戸惑うリーヴの言葉を、セラは普段通りの声音で遮る。


「はいぃ…」


リーヴは思わず敬語になる。セラの方は何とかして平静を装っていたが、その内心といえば…


(うわぁぁぁぁぁ…!もう…もう引き返せないところまで来ちゃったぁぁぁぁぁ…!)


死ぬほど慌てていた。


(どうしよう……これで…リーヴに嫌われちゃったりしたら…!)


そんなセラの懸念を見透かしたかのように、リーヴはセラの目を見つめて言う。


「ねぇ、セラ」

「な…なに?」

「セラなら……いいよ?」


リーヴはいつも通りのぎこちない微笑みを浮かべる。それを聞いたセラは、恐る恐るリーヴの服の裾に手を添える。


「じ…じゃあ……」


そして、ゆっくりとリーヴの服の中に右手を滑り込ませて、何かを試すかのようにリーヴの腹部を撫でる。サラサラした感触の肌同士が触れ合って、微かな摩擦音が2人の耳に聞こえる。


「ん…」


そのくすぐったさに、リーヴは反射的に声を漏らす。


(リーヴ…かわいい…もっと……その声聞きたいなぁ)


セラは手を動かしてリーヴの脇腹を掴み、少しずつ指先を動かしてみる。リーヴのか細い身体に、セラの細く綺麗な指が沈み込む。


「んぅ…ふ……っ」


リーヴは甘い声を我慢出来ない事が段々と恥ずかしくなってきていたが、両手を縛られているので口を押さえる事が出来ない。


「せらぁ……それ…やだ…ぞわぞわするぅ……」

(くすぐったいの弱いんだ……あれ…あたし……なんで、ちょっと楽しい…んだろう)


セラは謎のゾクゾクとした感覚を覚えながら、リーヴの脇腹を弄っていく。


(……ここ触ったら…どんな声出すんだろ)


やがてセラは、両手を縛られている事で完全な無防備状態と化したリーヴの脇に手を伸ばし、右脇から脇腹の辺りまでをなぞるようにして、ゆっくりと指を滑らせる。リーヴの体温がセラの指に、セラの体温がリーヴの身体に伝わっていく。


「ひゃ…!うっ……」


リーヴの身体は、セラの指の動きに合わせて軽く跳ねる。


(ああ…かわいいなぁ……)

「セラ……ちょっと…まっ……んっ…!」


リーヴの声など聞こえてないかのように、セラはリーヴの身体を弄り続ける。セラが少し力を入れる度、セラが指を動かす度に、リーヴの身体は反射的に軽く跳ね上がる。

セラがしばらくリーヴで遊んだ後…


「はぁ…はぁ……んっ…うぅ……」


すっかり息の上がったリーヴが、余韻に悶えながら荒い呼吸をしていた。


「セラ……もう…やめて……」


若干涙目になったリーヴが震えた声で懇願する様子を見て、セラはよく分からない感情に襲われた。


「……うん。ごめんね、リーヴ」


セラは震えるリーヴを抱きしめて、リーヴの後頭部を優しく、ゆっくり撫でる。


「最後に……1つだけ、いい?」

「う…1つなら……いいよ」

「ありがと…リーヴ」


セラは服のポケットから普段着けている物と同じリボンを取り出す。


(なんか当たり前みたいに2本目が出てきた…)


リーヴは内心で驚いたが、口にはしなかった。


「目…閉じて?」


リーヴが言われた通りに目を閉じると、何かを巻かれたような感覚がした。セラがリボンでリーヴの目を隠したのだ。


「わ…前みえない」

「ごめんね…これからする事は…ちょっと、あたしも恥ずかしいから…」

「…っ」


今までの行為を恥ずかしいと思わなかったセラがそんな事を言うのなら、自分は一体何をされてしまうのだろう。生唾を飲み込んだリーヴの中には、そんな不安とも期待とも取れる感情が渦巻いていた。


「動かないでね…」


リーヴの後頭部と背中に、セラの手が添えられる。目隠しのせいでよく分からないが、微かに肌に当たる吐息から、セラの顔が割と近くにあるという事が分かる。


(まさか……この前本かなんかで見た…『きす』ってやつ…?)


何て本読んでんだお前。


「…」


リーヴは覚悟を決めるが、セラの取った行動はリーヴの予想と少し違い、リーヴの首筋に柔らかい唇の感触が感じられた。


「ふっ…あ……う…」


今までとはまた違うくすぐったさに、リーヴは再び甘い声を漏らす。セラが預けてくる体重に耐えられず、リーヴは後ろ向きに倒れる。試しに少しだけ身体を捩ってみるが、案の定セラの力が強く、リーヴは身体を全く動かせなかった。

またしばらくした後…


「ふぅ……ありがとね、リーヴ。おやすみ」


リーヴの首筋から口を離したセラは、些か早口でそう告げるととてつもない速さで布団に入り、リーヴに背を向けて眠り始めた。リーヴに背を向けた理由といえば、その誰が見ても分かる程に赤くなった顔を隠す為だろう。


「う…うん。おやすみ」


今夜のリーヴは珍しくセラに引っ付きに行かず、リーヴもセラに背を向ける形で寝た。ただ、それはセラの事が嫌いになった訳では決してなく…


(……ちょっと…よかったな)


リーヴの方も、珍しく赤面していたからだ。こうして、2人は上昇した体温と激化した心拍と共に眠りについたのだった。

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