第37話 ここであの人
今回、最後の方で一瞬だけ百合っぽい描写があります
苦手な方はご注意ください
翌朝。いや正確には朝ではないが。静かに啜り泣くクオンに寄り添うようにして眠りについたリーヴは、何かの物音で目を覚ました。
「あ…おはよう、ございます」
物音の主は、一足先に目を覚ましていたクオンだった。
「おはよう。その…もう、大丈夫なの?」
「はい。昨日よりずっと良くなりました。本当に、申し訳ありません…ありがとうございました」
「気にしないで。クオンが元気なほうが、わたし達もうれしいから」
程なくしてセラも目を覚まし、3人はゆっくりと朝食を食べ始める。
「そういえば、クオン」
「何ですか?リーヴさん」
「ここ、病院なんでしょ?お客さんとかくるかもしれないのに、わたし達がここにいても大丈夫なの?」
「ああ…安心してください。ここは確かに病院…いえ、診療所という表現の方が正しいですね。ここには月に数回程度、私の友人が暇つぶしに訪れる程度なので。患者の方は滅多にいらっしゃいません」
「ほぇぇ…」
気の抜けた声で反応するリーヴは、一瞬俯いた後に真顔でクオンの目を見つめながら言う。
「クオン…友達いたんだ」
「な…何ですか。私にだって友人の1人や2人くらい居ますよ」
「ごめん、クオン…あたしもちょっと意外」
「セ、セラさんまで…!」
クオンは若干頬を膨らませていたが、その表情は昨日よりも少しだけ柔らかかった。やがて朝食を食べ終わり、3人は今日の本題に入る。
「さて…今日は私の、2つ目の頼み事についてお話しします」
「うん」
「実は…何年か前に、この星の一部の地域に黒い魔力で汚染された区域が現れたのです」
「黒い魔力…」
セラは何かを思い出したようだったが、とりあえずはクオンの話を聞く。
「その黒い魔力の源泉は『深淵』という異次元の世界なのですが…深淵についてはご存知ですか?」
それを聞いた瞬間、セラは反射的に声を上げる。
「やっぱり…知ってるよ。その汚染された区域…『淵蝕領域』って言うんだ。細かい話はまた今度するけど…その淵蝕領域が生まれた原因の科学者の手記を見た事があって」
「名称まで……それなら話は早いです。大方想像はついていると思いますが…淵蝕領域の周辺は淵気に汚染されていて、そこには大量の淵族も徘徊しています」
「それを、あたし達にどうにかしてほしいって事?」
「はい。当然ですが私も手伝いますので、ご安心ください」
「クオン…戦えるの?」
「ふふ…はい」
そんな時、リーヴの中にはある疑問が浮かんだ。
「まって…どうしてクオンが、淵族とか淵気とかのこと、しってるの?」
「私の友人が、個人的に深淵を研究しているのです。深淵の知識は彼に教えてもらいました。それより…」
クオンは一旦目を閉じ、再び目を開くのと同時に尋ねる。
「淵蝕領域の原因となった科学者という方は…まだご存命ですか?」
その瞬間、部屋の中に暗い紫色の魔力が吹き荒れた。クオンの目は淡い紫色の光を放っており、吹き荒れる魔力に触れた家具が徐々に劣化していく。これがクオンの異能なのだろうか。
「お、おちつい、て。フェイズは…その科学者はもう、死んじゃってるから」
すると、クオンは普段の様子に戻って話し始める。
「そうですか…では、もうその方について何か言うのはやめましょう」
「う…うん」
((怖ぁぁぁぁぁぁ………!))
リーヴとセラは心の中でそう叫んでいた。
「さて…その件の対処は明日で構いません。今日はゆっくり…あっ」
クオンが台所の戸棚を覗いて声を漏らす。
「…すみません。頼み事がもう1つ増えそうです」
ずっと1人暮らしだった弊害か、クオンは食料の無くなる速度を見誤ったようだ。リーヴとセラは再びおつかいに行き、なんやかんやあって夜を迎えた。まぁずっと夜なのだが。
「疲れたぁぁぁ…」
まだあまり運動に慣れていないリーヴが、ベッドに腰掛けて溜め息と共に声を漏らす。
「あはは。お疲れ様、リーヴ」
「もうなにもやる気がおきないよぉ…このまま寝たいよぉ…」
その様子を見たセラは、ふと何かを思いついたようだ。リーヴの横に座り、ほんのり顔を赤くしながらリーヴに問いかける。
「疲れたなら…その…おっぱい揉む?」
「えっ」
あまりに突然の質問に、リーヴは思考が停止する。そのたった数秒の沈黙にすら耐えられなかったセラが、まさに光の如き速度で腕を横に振りながら弁解を始める。
「あっこれは…ち、違うの!ちょっと、やってみたかっただけで…いや!別にあたしは……と、とにかく!あたしそんなえっちな子じゃ…!!」
セラの弁解を聞いていたのかは分からないが、リーヴはセラの言葉を遮って呟く。
「揉む」
「…え?」
「揉む」
そして、リーヴは横に座っているセラの後ろに回り込み、セラの胸に背後から手を回す。
「えっ!ちょ…ちょっと!これは、その…冗談のつもりで…!」
「柔らかい…おっきい…ずるい…」
「リーヴ…!」
丁度その時、風呂が沸いた事を伝えに来たクオンがそのやり取りを入り口の正面で聞いていた。
(……私はどんな顔をして入れば良いのでしょうか…?)
聞いてたって事は言わない方がいいと思うぞ。お互いの為にな。




