第340話 慰め
翌日。ノーノゥや対抗軍の兵士達に事の顛末を教え、機兵軍とディリアの戦争は幕を下ろした。ある者は戦争の終結を喜び、またある者は主君の死を悼んだ。そして、リーヴ達の仮拠点である宿の一室。そこでは、依然として寂しそうなリーヴが、髪をいじりながら俯いていた。
そんな時、リーヴの部屋のドアが不意にノックされた。
「リーヴ、入るよ」
「あ、うん」
入ってきたのはセラだった。寝巻きに着替えている彼女の姿は、普段の格好を見慣れているリーヴからすれば少し新鮮だった。
「どうしたの? そんな浮かない顔して」
「……うん。ちょっと……ね」
リーヴは煮え切らない返事しか出来なかった。セティスに言われた、『大人になるべき』という言葉が、リーヴの心に反響していたからである。
「……まだ、寂しいの?」
「……うん」
セティスの前ではああ言ったものの、リーヴの中の寂しさは依然として健在であった。リーヴとて、まだ生まれてから1年程度しか経っていない赤子のようなもの。辛い現実を受け止めろ、という方が無理な話なのである。もちろん、リーヴの方もいつまでも引きずっている訳にはいかないという事は分かっている。しかし、分かっているだけだ。
「セティス達はさ……天国でも、元気かな」
リーヴは震える声でそう言った。悲しさを何とか紛らわそうとしているのだろう。セティスの言った、『大人』になる為に。
「うん……きっと、あっちで仲良くやってるよ」
セラは、いつも通りの澄んだ声で優しく言った。
「リーヴ……1つ、良いかな」
「うん」
「セティスさんはああ言ったけどさ、あたしは……まだリーヴは子供のままでいいと思うよ」
「そう?」
「リーヴだって、まだ生まれたばかりなんだから。そんな急いで大人になる必要なんてないよ。悲しいなら悲しいって、寂しいなら寂しいって、言ってもいいんだよ。大人の人だって、たまにはそうなるでしょ?」
その言葉を聞いた瞬間、リーヴの目から涙が溢れ出した。セティスに言われる前からずっと抑えていた感情が、一気に増大していったのだ。その引き金となったのは、間違いなくセラの優しさだった。
「うっ……ひっく…………寂しいよぉ……慧燈……セティス……アレイ……」
「うん……あたしも。あたしも寂しいよ」
セラは優しく、リーヴを抱きしめた。そして、頭を撫でた。これがリーヴの慰めになればいいな、と。そんな事を考えながら。
「今はいっぱい泣いていいよ。ここには、君とあたししか居ないから……」
「……」
リーヴはセラの胸に顔を擦り付けて返事をした。そして、リーヴは言われた通り沢山泣いた。声は上げず、ただ静かに『くすんくすん』と泣いていた。セラはそんなリーヴを、ただひたすらに撫でて慰めていた。どれだけの時間そうしていたかは分からない。しばらく時間が経った頃には、リーヴもセラも眠りに落ちていた。




