第34話 くらい、ね
海の星での小休止を挟んで、リーヴ達は再び星を巡る旅に出た。次に2人が降り立った星は…
「くらい、ね」
「月が出てるから…夜なのかな?」
「そういうこともある、ね」
そして2人は、夜という事で今晩の寝所を探す事になった…のだが。
「…リーヴ。まずいよ」
「どうした、の?」
「宿代が…無い」
「わぁ」
「まぁ野宿すればいいから大した問題でもないんだけど…でも、出来るならベッドで寝たいよね」
贅沢言うな。旅人だろあんたも。
「なら、泊めてくれる場所をさがしてみよ」
2人は夜に包まれた街中を歩いていくが、時間帯の関係でどこの家の人間も寝静まっているようだ。
「よく考えたら夜だからなぁ…皆寝てて当たり前かぁ」
「どうしよっか。テントはあるし、ほんとに野宿する?」
「それしか無いね…じゃ、テントを張れそうな場所を…」
その時、突然セラが黙った。
「セラ…?どうかした?具合わるいの?」
「いや、そうじゃなくて…宿探しに夢中になり過ぎてて気づかなかったけど…ここ、墓地だよ」
2人の視界には幾つもの墓石が立ち並んでいた。その少し奥には、管理人のものと思われる小屋がある。
「ぼち…お墓ってこと?」
「うん…あんまり、ここで無駄話するのは良くないかも…」
「じゃあ、ひとまずここを離れよっか」
2人が踵を返した時、誰かが声をかけてきた。
「あの…どちら様ですか?」
あまりに気配が無かったので、2人とも言葉こそ発さなかったものの、身体を跳ねさせて驚く。
「あ…申し訳ありません。驚かせてしまいましたか?」
振り向くと、そこには落ち着いた雰囲気の少女が立っていた。髪型は淡藤色をした長めのストレートボブで、左側頭部に蝶の髪飾りを着けているのが特徴的な少女だった。両手には紫色の手袋を着けていて、薄紫色の服の上から白衣を着用している。
「私の名は『クオン』…この墓地の管理人兼、ささやかな診療所を営んでいます」
「わたし、リーヴ。よろしくね」
「あたしはセラ。えっと…クオン、さん?でいいですか?」
「敬語でなくて結構です。ところで…リーヴさん達は何故この墓地に?」
リーヴは自分達が星々を旅をしている事と、この墓地に迷い込んだ経緯を話した。
「なるほど…寝所を探して彷徨っていたら、ここに迷い込んでしまった、と」
クオンは顎に指を添えて目を閉じ、少しの間考え込むような仕草を見せた後に、リーヴ達に提案する。
「それでは…ここにある使っていない小屋を貸しますので、代わりに幾つかの頼み事を引き受けてくれませんか?」
「頼み、ごと?」
「はい。要するに取引です」
「寝る場所を貸してくれるなら、頼み事くらい大丈夫。セラは、それでいい?」
「全然いいよ。ありがとね、クオン」
「お気になさらず。私はお風呂を沸かしてきますので、先にあちらに入っていてください」
クオンが指差した先にあった小屋に入ると、中は綺麗に整頓がされた質素な内装をしていた。ちなみにベッドは1つである。
「ふぅ…なんとかなって、よかったね」
「うん。クオンも良い人だしね」
しばらくして、クオンが小屋のドアを開けて入ってきた。
「お風呂の用意が出来ました。もう入られますか?」
「うん、そうする。ありがと」
リーヴはご機嫌な様子でドアに向かっていく。すると…
「…!」
何故かクオンが素早く一歩後ろに下がった。リーヴは気づけなかったほどに僅かだが、呼吸が早くなって目も若干泳いでいる。
「…?どうしたの?」
「あ…いえ。何でもありません。どうぞ、ごゆっくり」
2人が浴室に入ったのを確認してから、クオンは夜空の月を見上げて意味深に呟いた。
「…終わらせましょう。全て」
その時のクオンの目からは、一縷の悲哀の情が感じ取れた。
クオンは結構気に入っている子です




