第32話 (ほぼ)海だけの星
エルミスに別れを告げて、新たな星へとやってきたリーヴ達。いつも通りの穴を通り抜けて最初に放った一言と言えば…
「エルミス…女の子だったんだ」
まだその事に驚いているようだ。
「全然分からなかったね…スターって言ったのは本当に伊達じゃなかったんだ」
演技力とかそういう問題なのだろうか。
「それはそうと…この星、ちょっと変わってる、ね」
リーヴは改めて辺りを見回し、不思議そうに呟く。
「…本当だ。周りに海しか無い」
「うみ…?この、おっきい水たまりのこと?」
「そうだよ。水がすごいしょっぱいから飲まないでね」
セラはリーヴの行動を先読みしたかのように、少しジト目になって忠告する。
「むぅ…セラ、エスパー?」
「経験に基づく勘だよ。それよりも…ここって村なのかな?」
今、リーヴ達は木材のようなもので出来た足場の上に立っており、前方には同じ素材で出来ているであろう家が並んでいる。
「人の気配はするし…探してみよっか」
「うん。いこ」
村を歩いていると、2人の鼻腔に磯の香りのようなものが漂ってくる。初めて嗅ぐ匂いに、リーヴは興奮しつつも少しだけ戸惑う。
「この匂い…なんだろ」
「海の匂いじゃないかな?あたしはこの匂い結構好きだけど…」
「うーん…なんともいえない、不思議な匂い、だね。お魚がいそうな匂い」
「…磯だけに、いそう、って事?」
「セラ……なにいってるの?」
「えっあ…ごめん」
そう時間も経たないうちに、2人は早速最初の村人を見つけた。セラの母親よりも少しだけ年上そうな女性だった。
「あら…見慣れない服装ね。外の星から来たのかしら?」
「うん。わたしはリーヴ。こっちのセラって子と、色んな星を旅してるんだ」
「そうかい。何も無い場所だけど、ゆっくりしてきな」
女性は何かやる事があるのか、軽く頭を下げてから早歩きでその場を離れた。
「…そういえば、この星のひと達ってどうやってご飯取ってるんだろう」
「見たところ農場も畑も無いね…確かに気になる」
そして、2人がなんとなく村の端の方まで歩いて行くと、潜水用の衣服に身を包んだ男女が数人、足場の端に立っていた。先程の女性もその中に混じっている。
「…なるほど。ああやって海にもぐって、お魚とかをとって食べてるんだ」
「ああ…ちょっと楽しそうだね」
「ね」
そんな会話をしていると、2人の腹が同時に鳴った。そういえば、時刻はもう正午に近くなっている。
「お腹すいた…なんかたべよ?」
「う…うん」
(お金…大丈夫かな)
セラが不安そうに財布の中身を見つめていると、不意に先程の女性が声をかけてきた。
「あ、ちょっとあんた達!」
「なに?」
「本当に悪いんだけど…手伝ってほしい事があるんだ」
「どんな事をですか?」
「実は…今日の潜水当番がちょうど2人、熱出して潜れなくなっちゃってね。あんた達はちょうど2人だし、出来たら手伝ってほしいんだけど…」
「…もしかして、とったお魚はわたし達が食べられたり、する?」
「それは当然さ!手伝ってくれた人から金取るなんてしないし、そもそもこの村の人々はそうやって生活してるんだから」
それは即ち、今日の昼食代が浮くという事を示していた。そのせいか、いつもなら了承の返事をするのは大体リーヴなのに、今回はセラが若干食い気味に
「はい!やります!」
と答えた。
「おお、そうかい!ありがとうねぇ…!本当に助かるよ!」
「あ…でもわたし達、海に入るための服とか、もってない」
「だったら貸すよ。着いておいで」
2人はその女性の後に続き、更衣室へと入っていった。




