第31話 幾千の音の中で
皆この世界の共通通貨の名前覚えてるのかな
某青い星を除いて「クレジット」という名前の通貨が流通してます
価値は1クレジット=1円みたいな認識で良いです
静寂との決戦が終わった翌日、エルミスの住む街では盛大な祭典が行われていた。何年も続いた音の無い生活が終わりを迎えたのだ。当然だろう。
「セラ…これが、おまつり?」
「そうだよ。楽しい?」
「うん…すごく、たのしいよ」
この星の祭ではどこぞの青い星のような屋台も出ており、踊りや音楽などに疎いリーヴでも十分楽しめるものだった。
「ところで君…その…よく食べるね?」
セラは目線を下に落として、財布の中身を確認する。
(もうあと23000クレジットしかない…)
なんだ、思いの外結構あるじゃないか。
(お金を稼ぐ手段なんて無いし…この先お金無くなったらどうしよう…)
全財産だったのかよ。
「セラもたべる?」
リーヴはそう言いながらイカ焼きを差し出す。
「う…うん。せっかくだから食べようかな」
2人はその辺のベンチに腰掛けて、仲良くイカ焼きをかじる。
「「んにににににににに…」」
噛み切れないようだ。
「ふぅ…そろそろおなかいっぱいになってきた」
「やっと?」
「うん。ありがと、ね。お金はらってくれて」
「全然…大丈夫だよ。リーヴの為なら…あは…あはは…」
セラは一体いくらリーヴに使ったのだろうか。リーヴの方も礼を言うだけまだマシだが。
「そういえば、エルミスが言ってたよ。はなび…とかいうのが上がるって」
「本当?なら高いところまで行こうよ。その方が良く見えるよ」
「あ、まだもう少し先なんだって。あと1時間くらい」
「じゃあ、それまではぶらぶらしてよっか」
初めて来た時とは全く違う賑やかな街の中を、2人はゆっくりと歩いて行く。道行く子供も、談笑する大人達も、皆楽しそうに笑っている。そんな時、少し遠くの方から聞き慣れた声が聞こえてきた。
「あれ…エルミス?」
「何かやってるのかな」
声のする場所に行ってみると、そこには大量の光に照らされたステージの上で歌を披露するエルミスの姿があった。
「light up! 僕には眩し過ぎたもの 僕なんかには過ぎたもの…」
エルミスの表情は輝いており、歌い終わった後も満面の笑みを浮かべていた。観客達が揃ってアンコールの声を上げると、エルミスは『待ってました』と言わんばかりの笑顔で
「当然さ!まだまだ行くよ!!」
と叫び、再び歌唱を再開した。
「おお…すごい、上手だ、ね」
「エルミス…スターを自称するだけあるね」
そんなこんなで、やがて花火が上がる時間になった。2人は近くの建物の屋上に登り、空を見上げている。
「そろそろだよ…」
そのリーヴの言葉の直後、大きな破裂音と共に空に大量の花が咲いた。青、赤、緑…色とりどりの光の花が、夜空を埋め尽くしている。
「わぁ…!きれい」
「あたしも花火は初めて見たけど…すごい。感動するね…!」
その時、リーヴは破裂音の中でポツリと呟いた。
「…花火もきっと、あの大きな音があるから…きれいさ、って言うのかな。それが最大限にでてるんだと思う、な」
「そうだね…この音が無くても花火は綺麗だけど、ここまで感動はしないかも」
「静寂も…花火をみたら、音をすきになってくれる、かな」
「なってくれるよ、きっと」
2人は雑談をしながら最後まで花火を見続けた。
そしてそのうち宴は終わり、翌朝。リーヴとセラは旅立ちの支度をしていた。と言っても、せいぜいエルミスに挨拶しに来た程度だが。
「リーヴ!セラ!今から出発するのかい?」
「うん。また会おう、ね」
「リーヴ、その台詞ちょっと早い」
「いやぁ…改めて、本当にありがとう。君達が居なかったら…この星は永遠に無音のままだったよ」
エルミスは順番に2人の手を固く握る。
「また会おう。君達の旅に、沢山の幸福と音が齎される事を願っているよ」
「ありがとう、エルミス」
そして、エルミスは一息ついて伸びをしながら言う。
「それにしても…女の子3人で行動したのなんて初めてだから、新鮮で楽しかったよ」
「そうなん……え?いま、なんて?」
「ん?楽しかったよ、って」
「いや、もう少しまえ。女の子3人って…?」
「え?………あ、はははははははははは!!そ…そう言う事かい?」
突然爆笑し始めたエルミスを、リーヴとセラは怪訝そうな目で見つめる。
「あー…笑った。君達、何か勘違いしてるようだけど…」
「僕、女の子だよ?」
「「……え?」」
それはリーヴにとってもセラにとっても、人生で1番大きな驚きだったらしい。
今回エルミスが歌ってた曲の歌詞はエルミスが書いたという設定なんですが、イメージ的にはセラのイメージ歌詞です




