表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大宙の彷徨者  作者: Isel
3/127

第3話 なにもなくても

彷徨者がセラの寝顔を眺めていると、寝ているセラが突然咳き込み始めた。


「セラ…大丈夫?」


セラはその問いにすら答えられないほどに激しく咳き込んでいる。


「…お母さん、呼んでくるね」


彷徨者がセラの母親を呼んでくると、母親は少し深刻そうな表情で呟く。


「…これは家じゃ対処出来ないね。医者を呼んでくるから、悪いけどセラの側に居てやってくれないかい?」

「わかった」

「ゲホッ…彷…徨者…?ダメだよ…咳してる人の近くに居たら…」

「でも…側に居てって言われた」


セラが辛そうに咳き込む度に、彷徨者の心が痛む。その瞬間、彷徨者の脳内にとあるイメージが湧いて来た。


「これ…あの時と同じ…」


『あの時』とは、彷徨者がこの星に来る時に異能を使用した時の事だった。


「なら…今回もできるはず」


彷徨者はセラの額に右手を翳し、目を閉じて念じる。『セラの咳が止まるように』と。すると、銀色の光がセラの身体を包み込み始めた。


「彷徨者…?何して…」


セラは不思議そうに呟くが、すぐに自分の身に起こった事を理解した。


「咳が…止まった…!それだけじゃない…息も苦しくない…!」


どうやら、彷徨者がセラの喘息を治したらしかった。


「ふふ…よかった」


ホッとしたように微笑む彷徨者だったが、内心は疑問でいっぱいだった。


(これも…わたしの異能?でも…異能を2つもってる人なんて、いるのかな)


彷徨者がそんな事を考えている時、セラの母親が医者を連れて帰って来た。


「ただいま…って、あんた…咳止まってないかい?」

「うん、さっきね…」


セラはどこか嬉しそうに先程起こった事を説明する。


「そんな事が……どうやったのか分からないけど…ありがとう、彷徨者」

「顔色や呼吸音などに問題はありません。が…念の為明日までは安静にしてください」


簡単な診察を済ませ、医者が指示する。


「分かった。じゃあ、あたしは一応寝ておくね」

「はいよ」


気づけばもうすっかり夜だった。彷徨者はセラの家で夕食を食べ、やがて眠りについた。そして、セラの

中にはとある感情が生まれていた。

そして翌日…


「じゃあ、わたしはそろそろ行くね」


セラの家の玄関の前で、彷徨者がセラの母親に挨拶していた。


「そうかい…ま、『彷徨者』だしね。元気で居ておくれよ」

「うん、ありがとう」


彷徨者がセラの家に背を向け、歩き出そうとしたその時…


「ま…待って!」


セラが勢いよくドアを開けて出て来た。なんかドアから変な音がした気がするが、とりあえず不問にしておこう。


「セラ…どうしたの?」

「え…えっと…あたしも…」

「…?」


セラは自分の意見を伝えるのが苦手である。セラの言いたい事がよく分からない彷徨者だったが、長年の付き合いである母親にはお見通しだったようだ。セラの母親はゆっくりと彷徨者に近づいて耳打ちする。


「多分セラはね…あんたの旅に着いて行きたいんだよ」

「わたし、に?」

「そう。前にも言ったように、セラの故郷はここじゃない。表には出してないけど、本人は案外自分の故郷に行ってみたいって思ってるんだ」

「そう、なんだ」


まるで他人事のような返事をした彷徨者だったが、その返事とは裏腹に、セラに歩み寄って手を差し出す。


「…いっしょに、行こ?何も無いわたしで良ければ、だけど」

「いいの?」

「うん。わたしは、自分の身を守れないから。戦える人が側にいてくれると、うれしい…よ」


その途端、セラの表情がパァッと明るくなる。


「やった…!これからよろしくね、彷徨者」

「よろしく、セラ」


そんなやり取りをする2人の後ろで、セラの母親が腕を組んで頷いている。


「じゃあ、行こっか」

「あ、ちょっと待って…」


セラは一旦引き返し、母親に抱きつく。

「セラ…?」

「お母さん。急に空から降って来たあたしを…こんなに大きくなるまで育ててくれて、ありがとう」


予想外の言葉に、母親はセラの頭を撫でながら答える。


「…良いんだよ。離れてても…私達は親子だ。さ、行っておいで」

「うん、行ってきます」


セラと彷徨者は、砂漠の果てへと歩いていった。村が見えなくなった頃、不意にセラが呟く。


「そういえば…」

「なに?」

「『彷徨者』って…その…呼びにくくないかな?一緒に行動するなら、もう少し呼びやすい名前がいいな…って」

「むぅ…たしかに……じゃあ、セラが付けて」

「え?」

「わたしの名前。初めての友達に付けてもらえたら、うれしいな」


そう言われたセラは数分ほどの間、真剣な表情で考え込む。そして、結論を出す。


「…リーヴ」

「りー…ゔ?なにか、意味があるの?」

「うん。昔に読んだ本でね、『命』って意味らしいんだ。君は自分の事を『何も無い』って言うけど…あたしはそう思わない。君の中には『優しさ』だったり、色んな物があると思う。その中の筆頭として…君自身の『命』がある。何も無くない…君には君の『命』がある…そんな意味を込めたんだけど……どうかな?」


彷徨者は頑張って説明の意味を理解し、そして微笑みながら返答する。


「…ふふ。すてき」

「本当?よかった…じゃあ、これからリーヴって呼ぶね」

「うん。ありがとう」

「どういたしまして」

「そろそろ、他の星に行こう。ここなら人目にもつかない…と思う」


2人の目の前に虹色の穴が開き、2人はその中に歩を進める。こうして、彷徨者…改め、リーヴとセラの星々を巡る冒険が始まった。

名前。それは『無』であった彼女が、最初に貰ったもの。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
なかった名前をもらえるってうれしいに違いない♪ すごくうれしい気持ちがこちらにも伝わりますね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ