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大宙の彷徨者  作者: Isel


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第28話 静寂、即ち安息

珍しく結構大事な豆知識

本作から私の作品を見てくださっている方は多分初耳だと思うんですが

この世界「神」と「概念種」という種族が居ます。どっちもほとんど同じですが、神は「何かの概念を司る存在」で、概念種は「何かの概念そのもの」という認識で大丈夫です

ちなみに神や概念種の能力は「異能」ではなく「権能」と呼ばれます。特に違いは無いです

この先で説明するタイミングが無さそうなので仕方なくここで説明しました。本当に申し訳ないです。出来るなら作中で話したかった

遂に、祭りの星から音を奪った元凶である『静寂』の概念種、静寂(しじま)との戦闘が始まった。開戦と同時に静寂は左手で印を結び、何かを呟く。


「剣よ…出でよ」


すると、静寂の背後に円を描くように5本の直剣が現れた。


「行け」


静寂が最低限の言葉だけ発すると、背後の5本の剣がエルミスとセラに襲いかかる。


「数はちょっと多いけど、そこまで速い訳じゃない…よく見てれば大丈夫だね!」


エルミスは剣撃の隙間を縫って静寂に突撃しようとするが…


「…!エルミス危ない!」


エルミスに迫る危険に気づいたセラが、エルミスの服の裾を力いっぱい引っ張る。


「うぐぇっ」

「あ、ごめん」


セラが力み過ぎたので、エルミスはリーヴが隠れている物陰の側まで吹っ飛んでいった。


「エルミス…だいじょうぶ?」

「うん…あの子…本当に女の子?」

「そうだけど」

「どんな鍛え方してるんだか…」


エルミスは再び戦線へと戻っていった。


「エルミス…気づいてる?」

「何に?」

「あたし達に飛んで来るこの剣…音が出ないんだ。さっきもエルミスの後ろに2本くらい剣が飛んで来てたんだよ」

「なるほど…本で読んだ事あるけど、概念種ってのは神と同格の存在らしい。その話はガセじゃ無さそうだね…!」


と、その時、ふと気になってエルミスは静寂にある事を問う。


「ねぇ!君はさ、『音』についてどう思ってる?」

「音………」


静寂はしばらく言葉を詰まらせ、やがてセラ達の脳内に語りかける。


「…煩わしい。理解出来ない。静寂こそが…至高の安息だ」


その瞬間、エルミスは理解した。


「ああ…そうか。『静寂』そのものである君には…『音』という概念自体が分からないのか」


エルミスは少し残念そうな顔をしている。心のどこかで和解を望んでいたのか、それとも話し合えば理解し合えるとでも思っていたのかは定かではないが、少なくともエルミスの望んでいた『何か』が実現不可能になった、という事はセラとリーヴにも何となく分かった。


「…なら」


エルミスはずり落ちかけたサングラスを直して、静寂に銃口を向けながら叫ぶ。


「僕が君に、『音』を教えてあげよう!」


静寂にはその言葉の意味がよく分からなかった。だが何故か鼓動が高鳴るのを感じた静寂は、散らばった剣を1箇所に集めてエルミスの脳内に声を送る。


「…面白い。やってみるがいい」


エルミスは『ニッ』と笑い、ワイヤーを静寂の錫杖に巻きつけて静寂の懐に潜り込む。この距離で銃を撃てばエルミスにも多少なりダメージが入るので、エルミスは静寂の腹に膝を入れようとする。


「…甘いぞ」


だが、すぐさま音無しの剣撃がエルミスに襲いかかる。


「変わって!」


後退するエルミスと入れ違うように、セラが前線へ飛び出す。持ち前の動体視力と光に並ぶ程の速度を活かして、静寂の剣撃を紙一重で回避しながら一太刀を浴びせようとする。


「魔力がある分青髪の人間よりマシだ…が、それでも浅はかだ」


静寂は落ち着いた様子で飛剣を操り、セラの攻撃を受け流す。


「概念種の相手はした事あるけど…武器持ってる分こっちの方が厄介かも…」

「よし…次はこっちから…」


エルミス達が作戦を立てている様子を見て、静寂は錫杖の先端部分に薄い金色の魔力を集め始める。


「…静かにしてもらおうか」


静寂が錫杖を振り抜くと、杖の先端から金色の波動が放たれた。セラはその速度故に回避出来たが、魔力を持たないエルミスはそれが直撃してしまった。


「エルミス…!大丈夫?」

「え!?なんて!?」

「エルミス!大丈夫!?」

「え!?なんて!?」

「エルミス!!大!丈!夫!?」

「え!?なんて!?」


セラは柄にも無く声を張ったが、何故かそれでもエルミスには声が届かない。


「ごめん!今、耳が聞こえなくて!」

「耳が…?まさか…!」


セラは静寂の方を振り向く。


「ほう…鋭いな。そちらが連携をしようと言うのなら、私がそれを阻止しない理由はあるまい?」

「…エルミス!」

「え!?だからなん…うわぁっ!」


耳が聞こえないままではエルミスが危ないと判断したセラが、エルミスを抱えて空中に飛び上がった。


「わざわざ的になってくれるとはな…」


静寂は5本全ての飛剣を操って、宙を飛び回るセラを撃墜しようとする。だが、ただの人間(エルミス)にも視認できるような速度の飛剣で、(ほぼ)光速のセラを捉えられる訳が無い。静寂もそれに気づいたようで、一旦飛剣を背後に戻す。


「よっ……と。エルミス、もう耳聞こえる?」

「目が……目がぁ…回るぅ…」

「…聞こえてはいるっぽいね……あと、ごめん」


地面に降り立ったセラは再び双剣を構えている。セラの背後の光輪は少しも輝きを失っておらず、それは静寂からすればセラの闘志がまだ健在である事のように感じられた。


「まさか…お前達人間如きにこの技を使う事になるとはな」


静寂は錫杖を地面に突き立て、背後の飛剣を扇形に並べて魔力を溜めている。


「エルミス、何か来るよ…!」

「誇るがいい。これは滅多に見られぬ高等技術…『領域魔法』などと呼ばれているものだ」


そして、静寂は錫杖から薄い金色の魔力を勢いよく解放しながら叫ぶ。


「"静謐浄土"!!」

「…?」


淡い光に周囲が包まれたかと思ったが、セラにもエルミスにも特に変化は見られない。このまま戦闘を続けよう…2人はそう思っていたが、それが困難である事に気づくのに、大した時間はかからなかった。

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