第27話 黒幕
「黒幕を探すって言っても…具体的にどうするの?」
エルミスの家の前で、セラがエルミスに質問する。
「さっき帰り道で見つけた巣に行こうと思ってるよ。行きはあそこの巣に魔物なんて居なかったし、黒幕ってのが居るんならまだそこに居るだろうからね」
「わかった。いこ」
こうして、3人は再び街を出た。
「あ、そうだ」
不意にエルミスが立ち止まり、ポーチを漁り始めた。やがて、その中から何枚かの紙とペンが出て来た。
「相手が相手だからさ。筆談が必要になるかもしれないだろう?持っておいて!」
エルミスは半ば押し付けるように、リーヴとセラに紙とペンのセットを渡す。
「ありがとう」
(エルミス…頭良いのか悪いのか分かんないな)
『ぺこり』と頭を下げるリーヴの横で、セラは1人そんな事を考えていた。
しばらく歩いた頃、エルミスの言う『行きは無かった巣』の近くまでやってきた。幸い、魔物は外に出て
来てはいないようだ。
「さて…どうやって探し出そうか」
「ばくだん、使わないの?」
「黒幕がどんな存在か分からないからね…あんまり派手な事はしたくない」
「…エルミスらしくない、ね」
「そりゃこの星の未来がかかってるんだ。慎重にもなるさ…」
その時、セラが突然双剣を構えながら呼びかける。
「皆気をつけて…!なんか……まずい」
その曖昧すぎる報告に、リーヴとエルミスは戸惑う。しかし、セラの『まずい』という台詞の意味を2人が理解するのには、そう時間はかからなかった。
「なに…これ…?」
「僕達の声以外の音が…聞こえない…?」
そう。リーヴ達の居る周辺一帯が、異様な程に静かなのである。初めてあの街に入った時に感じたものよりも、更に深い静寂が周囲を包んでいる。
(へんな感じ…風が肌にあたってるのに、砂利が動く音どころか、風のちいさい音すらきこえない…)
「…お前達か」
その瞬間、リーヴ達3人は鋭い寒気のような感覚を覚えて反射的に振り向いた。そこには、目から上を黒い布で隠していて、右手には大きな錫杖を持っており、片足あぐらの姿勢をしている女性のような人物が立って(?)いた。
「お前達が…私の創り出した魔物を狩っていたのだな」
その人物が言葉を発する度、リーヴ達は妙な感覚に襲われていた。空気を通して耳に伝わっているのではなく、頭の中に直接声が響いているかのような感覚だ。恐らく魔力を使った何かなのだろうが、一体何故そんな事をするのだろうか。その理由は、偶然にもその人物の顔を直視したリーヴが真っ先に気づいた。
(あのひと…口が…!)
リーヴは心の中で驚きの声を上げた。それもそのはず、その人物は口を赤い糸で縫い付けていたのだから。
「『創り出した』って事は…君がこの騒動の黒幕って事で良いのかい?」
エルミスは銃を構えながら尋ねる。
「その通り。折角の出会いだ…名乗っておこう。我が名は『静寂』…名の通り、『静寂』を司る概念種だ」
「静寂…そうかい。君がどんな目的でこんな事をしたのか知らないけど…この星の為に、君を討たせてもらうよ」
エルミスは再びサングラスを下ろし、静寂に宣戦布告のような事をする。
「私の目的か…それは至極単純な事…『あの方』の願いを叶える為だ」
「あの方って?」
エルミスやセラは、静寂の次の言葉を待っている。やはり多少でも静寂の目的が気になるのだろうか。そうでなくても、『あの方』という者の存在は誰であっても気にはなるだろう。しかし、静寂が発した次の言葉は、2人の予想を大きく裏切るものだった。
「…?何故だ…思い出せん」
「…え?」
「…いや、そんな事より…やるならばかかって来るがいい」
静寂は半ば強引に戦闘を始めた。リーヴは今まで通り、建物の陰に隠れている。そんな戦闘の様子を、少し後ろの方の建物の屋上から見下ろす少年のような人影があった。顔はフードに隠れていて見えないが、両袖と背面に2本の赤い縦線の入った黒いパーカーと、左肩に赤黒い肩掛けを身につけている少年だった。
「へぇ…あの2人…『削除』を相手に生き残ったか。少しはやるようだが、今度の相手に…喧騒の中で踊り騒ぐ事しか知らぬこの星の人々が忘れ去った『静寂』に、勝利を収められるかい?」
(あの子…研究所の…!)
リーヴにその独り言が聞こえていたのかは分からないが、何となく後ろを向いたリーヴはその少年に気づいたようだ。リーヴの発言から考えるに、リーヴはあの少年と面識でもあるのだろうか?
ともかく、祭りの星に音を取り戻す為のエルミスの戦いは、遂に最終局面を迎える。
次次回から「大ボス解説」なるものを書こうと思ってます。形式は以下の通りです
【二つ名orキャッチコピー】名前
種族
作中で使用した技名(その技の簡単な効果説明)
概要




