第26話 おかしい、ね
無事に最後の魔物の巣を片付け、街へ戻る3人。その道中で3人は、『一仕事終えた』という感じで雑談をしていた。
「いやぁ…長い戦いだったけど、いざ終わってみると呆気ないものだね」
「そっか、エルミスって何年もあの魔物と戦ってたんだっけ」
「そうそう。でもそれももうお終いさ!またこの星に…音が帰って来るんだ!」
エルミスの声は弾んでいて心底嬉しそうである。それほどまでに、この星が好きなのだろう。
「あ…みて、2人とも」
しばらく歩いていると、リーヴが前方を指差す。そこには、先程まで戦っていたものと同じ姿をした魔物が居た。
「あれで全部じゃなかったの?」
「群れからはぐれた個体なんだと思うよ。さっさと片付け…」
エルミスが銃を抜くのとほぼ同時に、魔物の方もそれに気づいたのか、魔物は踵を返してどこかへと走っていった。
「追いかけよう!」
エルミスが先頭を走り、リーヴとセラがそれを追う。そして突然エルミスが立ち止まったかと思えば、2
人の目の前に信じられない光景が飛び込んで来た。
「これ…魔物達の巣…!」
「1つだけ、数えわすれてたの?」
そのリーヴの問いに、エルミスは少しだけ焦ったような表情で答える。
「それは無いよ…ここは丁度、昨日対処した巣だからね」
「ならどうして…?」
「…とりあえず、僕の家に行こう」
予想外の事態に動揺しながら、3人はエルミスの自宅へと向かった。
「着いたよ。ここが僕の家さ」
エルミスの家は、意外にも普通で少し古びた小屋だった。
「おじゃまします」
リーヴは礼儀正しく頭を下げる。
「本当だったらお茶でも出したいとこなんだけど…今はそういう訳にもいかないね」
エルミスは手榴弾や弾倉の準備をしながら椅子に腰掛ける。
「さて…あれはどういう事なんだろうね」
その深刻そうな空気に耐えられず、セラは前から気になっていた事を口にする。
「あの…あたし、ずっと気になってたんだけど…」
「お、なんだい?」
「あの魔物達って…誰かに作られた生き物なんじゃないかな?」
「誰かにって事は…魔物を操っている黒幕が居るって事かい?」
「うん…だって、あの魔物は何の前触れも無く突然現れたんでしょ?普通の魔物は他の生物と似てる部分があるのに、あれには無いし…」
「なるほど…なら、次の目標はその黒幕探しか」
エルミスは小さく溜め息を吐くと、棚に置いてあった写真を手に取って眺め始めた。その写真には、小さな青髪の子供と、その両脇に親のような人物が写っている。所謂、家族写真だった。
「それ、エルミスのおとうさん、とおかあさん?」
「そうだよ。僕が音楽を好きになったのは、両親がきっかけなんだ」
「その人達も、すたー、だったの?」
「ハハッ、そうそう…キラキラしたステージの上で、大歓声を浴びながら歌う…そんな姿に、僕は憧れてたんだ」
「いまは、なにをしてるの?」
そのリーヴの問いに、エルミスは若干目を伏せて答える。
「…死んだよ。あの魔物が現れた時、真っ先にね」
「あ……ごめん」
「いや、いいよ。もう何年も前の事さ。だからこそ…仇討ちって訳じゃないけど、この星と音楽を愛した両親の為に…僕は戦い続けるよ。例え…たった1人でも」
エルミスのその言葉は、リーヴやセラに向けた物というよりは、決意を表す独り言のように聞こえた。
「…ひとりじゃない、よ。いまは、セラとわたしがいる。わたしは何もできないけど…」
「…」
エルミスの目に、若干の輝きが宿った。
「…何も出来ないって事はないさ」
「そう?」
「うん。例えばほら。今、僕の心を奮い立たせてくれただろう?」
「…ふふ」
微笑むエルミスに、リーヴもぎこちない微笑みで返す。
「よし…そろそろ行こう。この騒動の黒幕探しだ!」
「うん…!もう一仕事だね…!」
「おー」
エルミスは己を奮い立たせる為か、いつもの2割増しで大きな声を上げた。




