第23話 音を狩る者達
リーヴとセラが訪れた街は、人は普通に居るのに何故か異様な静けさに包まれていた。2人はその理由を知る為に、道行く人々に質問をしてみる。
「あの、ちょっといいですか?」
「…」
だが、リーヴの問いかけにもセラの問いかけにも、誰1人として答える事は無い。皆目を閉じて首を横に振るだけで、言葉を発する事はなかった。
「うーん…これはこまった」
「反応してくれるって事は聞こえてはいるんだろうけど…」
表には出さなかったが、2人にはまだもう1つ気になる点があった。2人が声をかけると、1人の例外も無く全員が早足でどこかへと去っていくのである。それは、何かに怯えているような様子だった。
「…この星に、何が起こってるんだろう」
セラは不安そうに呟いた。街中は未だ異様な静かさに包まれている。その時、2人の背後から1人の老人
が現れた。
「…知りたいのか。この街の…この星の事を」
老人は酷くしわがれた声で語りかける。
「え……あ、はい」
セラはいきなり話しかけられた動揺から少し言葉を詰まらせる。
「多くは語らん。ただ1つだけ言おう」
リーヴとセラは唾を飲む。
「…ここには、『音を狩る魔物』が出るんだよ」
「音を…狩る?」
「これ以上は言えん。儂も命は惜しいからのう」
老人は礼も求めずにさっさと歩いて行った。一応の進展はあったものの、むしろ謎は増えたように感じられる。
「音…どうやって、かるの?」
「多分それは比喩だと思うけど…」
セラが苦笑いしながら答える。と、その時、少し遠くの方から赤子の泣き声が聞こえてきた。そちらを向くと、母親らしき人物が泣いている赤子を懸命にあやしている。
「あ…リーヴ、赤ちゃんだよ」
「ふふ、かわいいね」
リーヴは初めて見る赤子に和みつつあったが、すぐにある事に気がつく。
「あれ…たしか、ここには音を狩る魔物ってやつがいたんじゃ」
「あっ」
セラが声を漏らすのとほぼ同時に、付近の建物の屋上から2体の魔物が飛び降りて来た。体色は濁った白色で、鋭利で巨大な爪と蕾のような形の頭部を持っている。
「……っ」
赤子の母親は正確な位置を把握されないように、必死で声を殺している。だが、その努力も虚しく、再び腕の中の赤子が大きな声で泣き出す。
「!!!!!!!」
その瞬間、2体の魔物の蕾のような頭部が花のように開き、大量の鋭い歯を見せながら母子に襲いかか
る。
「危ない!」
「みためこわっ」
セラは反射的に双剣を構えて魔物に向かっていく…が、その時。
「化け物達!はい注目!」
リーヴ達の背後から、数発の弾丸と共に誰かが魔物に飛び蹴りを入れた。
「無事かい?母子共々!」
母親は赤子を抱えながら無言で頷く。
「ならよかった!ほら、早く行きな!」
母子は急いで立ち去った。その母子を助けた人間は2丁の短機関銃を装備しており、よく目立つ青色の髪と中性的な顔立ち、額にかけたサングラスが特徴的な人間だった。
「!!!!!!!」
狩りの邪魔をされた怒りから、蹴り飛ばされた魔物は形容し難い耳障りな咆哮を上げて青髪の人間に襲いかかる。
「ほらこっち!」
青髪の人間は懐から拳銃を取り出したかと思えば、それを付近の建物に向かって発射した。すると、その
銃口からワイヤーが射出され、青髪の人間は建物の屋上まで一気に登った。
「「!!!!!!!」」
2匹の魔物は建物の壁をよじ登ってその人間を襲おうとする。
「かかったね!」
だが、花のように開いたその魔物達の口に、2つの手榴弾が放り込まれた。そして青髪の人間は油断せず、魔物達の手元を銃撃する。魔物達は口に異物を放り込まれた動揺もあって真下に落下していき、そのまま空中で爆散した。
「あのひと、すごいね」
「うん…あの魔物の特性をよく理解してる。あの人に聞けば、この星の事が何か分かるかも」
「あれ…なんだろ、この足音」
リーヴとセラが反射的に路地裏に身を隠すと、すぐにその足音の正体が分かった。
「さっきの魔物…!」
「あの人がだした音で、おびきよせられたんだ、ね」
「そういえばあの人は…」
セラがゆっくりと路地裏から顔を出した瞬間、この星の静寂を突き破るような叫び声が聞こえて来た。
「アァ"ーーーーーーッ!!!無理無理無理無理!!こんな数は流石に無理ーーーーーッ!!!」
さっきの青髪の人間の声だった。
「…勘だけど、なんか生きてそうな気がするね」
「うん。あの人のにげた方向、いってみよ」
2人は路地裏から出て、青髪の人間の後を追う事にした。
ちなみに私は赤子の泣き声を聞いた事がないです




