第2話 セラの家
豆知識
彷徨者はパーカーを着ていますが、フードが何の為にあるのか分かってません
装飾だと思ってます
「う…ん」
砂漠の真ん中で突然倒れ込んだセラは、目を覚ますと自宅のベッドの上に居た。
「あれ…あたし…」
「あ、起きた?」
仰向けで布団に入っているセラに、活発そうな女性が声をかける。
「お母さん…あたし、砂漠の真ん中で倒れちゃった筈じゃ…」
「そうだよ。倒れてたあんたを、彷徨者って名乗ってた子が背負って連れて来てくれたんだ」
「あの子が…?」
「何さ、知り合いなのかい?」
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少し前…
「セラ…遅いねぇ」
居間で編み物をしているセラの母親は、心配そうに呟く。その時、突然家の玄関が叩かれた。
「はーい、どちら様?」
「あ…ここが、セラの家って聞いたんだけど」
玄関の前にいたのは、黒いパーカーを着た灰髪の少女だった。よく見ると、背中に誰かを背負っている。
「セラはここの家の子だけど……もしかして、また倒れたのかい?」
「うん、実は…」
彷徨者は今までの出来事を説明した。
「なるほどね…ひとまず寝かせよう。悪いけど手伝ってくれるかい?」
「うん…そういえば、なんでセラは倒れちゃったの?」
その質問に対し、母親は少し言いにくそうに答える。
「…この子は、昔から喘息を持ってるんだよ」
「ぜん…そく?」
「ああ、あんたは知らないか。簡単に言うと、長い時間運動したり出来ないって事さ。セラの場合は、調
子の良い日に散歩をするにも杖が必要なくらいだ」
彷徨者はセラが時折フラついていた理由が分かった気がした。そして、2人は協力してセラをベッドに寝かせた。
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「彷徨者なんて変わった名前だよねぇ。まぁ…親が居ないそうだし、名前にあれこれ言うのも野暮か」
「あの子…親居ないんだ……そうだ、お母さん。彷徨者はどこ行ったの?」
その質問に対して、母親はセラの隣を指差しながら答える。
「そこに居るじゃないか」
「え?」
セラが布団をめくると…
「わっ!」
『すう…すう…』と小さな寝息を立てて眠っている彷徨者が居た。喋り方や仕草などが幾らか幼く感じるとはいえ、顔だけ見れば彷徨者はかなりの美形だ。そりゃ驚きもするだろう。
「お…お母さん?この家ってベッド2つあるよね?何でそっち使わせてないの?」
「…あんたの隣が良いんだってさ。見なよ、その幸せそうな寝顔」
「えぇ…あたし、この子に懐かれるような事したかなぁ…」
「聞いた話じゃ、魔物の群れからこの子を守ったそうじゃないか。惚れる理由としては充分だろ?」
「ちょ…!惚れるって…」
その時、彷徨者がもぞもぞと身体を動かし始めた。
「お、起きたかい?」
「ん……おはよう、セラ」
「お…おはよう」
ぎこちなく笑った彷徨者の表情を見て、セラは何か思う事があったらしいが、表には出さなかった。
「あ、そうだ。さっき魔物と戦った時に『どうやったの?』って聞いてたよね?もう村に着いたし、今教えて…」
そこまで言いかけたところで、セラが咳き込んだ。
「私から説明するよ、あんたはもうしばらく寝てな」
セラが言われた通りに眠りについた時、セラの母親はゆっくりと説明を始める。
「セラが魔物達と戦った方法ってのは、俗に『異能』だなんて呼ばれてる能力の事さ」
「いのう?」
「そう。この世界の一部の人間に備わっている超常的な力の事…セラの場合は『光を操る能力』だね。それを移動や攻撃に使ってるんだ」
「なるほど」
「ちなみに、決して異能が無いからって戦えない訳じゃない。素の身体能力だけで戦う奴も居るし、『魔力』っていう不思議なエネルギーを使えるように訓練して戦う奴も居る」
「へぇ……じゃあ、わたしがこの星に来れたのも、異能のおかげってこと?」
「そんな能力は聞いた事無いけど…世界は広いからね。『星の間を移動する』っていう能力を持つ人間も…1人くらい居るだろ」
セラの母親は大雑把な性格らしかった。その説明を聞いて納得していた時、彷徨者の中に1つの疑問が浮かぶ。彷徨者は、セラの寝顔と母親の顔を見てからこう呟く。
「…似てないね、2人とも」
そう。親子にしては、顔が似ていないのだ。
「……まぁ、あんたになら話して良いかもね」
母親は小さな溜め息を吐いてから、話を始めた。
「…実は、セラと私は血が繋がってないんだ」
「そう、なの?」
「ああ。信じられないかもしれないけど…ある日突然、空から球状の星間移動機……ああ、早い話宇宙船が落ちて来たのさ」
「うん」
「サイズからして1人用だったし、そもそも私の目の前に落ちて来たから…ちょっと中身が気になってね。開けてみたら、セラが居たって訳さ。その時あの子は…7,8歳だったかな」
「…セラは、そのことを知ってるの?」
「知ってるよ。何なら、断片的にだけど故郷の記憶もあるらしい」
「ふぅん…」
彷徨者はセラの素性をゆっくりと理解していく。
(…わたしも、旅を続けてたら…いつかセラの故郷に行くのかな)
彷徨者はそんな事を考えながら、セラの寝顔を眺めていた。