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大宙の彷徨者  作者: Isel


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第181話 共闘:永夜と原点

リーちゃんの神名覚えてる人居ない説

「リーヴさん、少し耳を……」


クオンはリーヴに作戦を伝える為に耳打ちした。伝えられたのは特に奇抜でも何でもない普通の作戦だったが、リーヴは真っ先にクオンに向かってこう言った。


「クオン、声がいいね」

「嬉しいですが今は絶対にそこじゃないです」


クオンは女性にしては声が低めで落ち着いている。それがリーヴの好みに刺さったのだろう。


「やることはわかった。まかせて」

「はい。頼りにしてますよ」


クオンは微笑み、少し血色の悪くなった顔をアノイトスへ向ける。


「作戦会議は終わりですか?それでは、アナタ方の命もここで終わりにしましょう」


アノイトスは元気な方を先に仕留めようと、リーヴに狙いを定めて拳を振りかぶりながら突撃してくる。


「……上手いこと、言えてないよ!」


ネメシスの鉄拳が眼前に迫った瞬間、リーヴは思い切って指を鳴らした。すると銀色の波動がネメシスを包んでいき、中に居るアノイトスの思考が一瞬にして真っ白に消去される。(ここだけの話リーヴは指を鳴らせていなかったが、まぁ技が発動したので良しとしよう)


「…………?」


1000年以上生きて来たとはいえ、流石のアノイトスも初めて見る能力に思考が停止している。ただでさえリーヴによって思考が消されているのだから、彼は攻撃どころか1歩動く事すら出来ていなかった。


「ありがとうございます、リーヴさん。おかげで大きな隙が出来ました」


クオンはリーヴに微笑みかけ、労いの言葉をかける。


「では……少しだけ『全力』を出しますので、セラさんとアルシェンさんをお願いしますね」


リーヴの力を信用しているのか、クオンに急ぐような様子は見れない。しかし、それは1つの誤算とも言えた。


「何ですか今の力は……やはり無能とはいえ、腐っても『神』という事ですか」


クオンの推理が正しければ、アノイトスもまた知恵の眷属だ。それならば、脳の性能が普通の人間と異なっていても不思議ではない。リーヴの思考消去から脱却したアノイトスは、迷いなくクオンに襲いかかっていく。しかし……


「……ええ。そうですよ。所詮は人間の亜種と言えど、私達は『神』……侮ってはいけません」


その台詞と同時にクオンの両目が怪しく光った。かと思えば、亡者の叫びのような不協和音と共に紫色の波動が全方位に放たれ、『ゴバァッ!』という轟音が鳴り、ネメシスの装甲がガラガラと崩れ去った。一応中身のアノイトスは無事なようだが、吹き飛ばされたまま無機質な部屋の壁に寄りかかっている。ネメシスが破壊されるのが予想外だったのだろうか。


「やっ……たの?」

「はい。少なくとも、お二方の不調は治ったと思います」

「……本当だ。何ともない……ありがとう、クオン」

「リーちゃんにもクオンちゃんにも……助けられちゃいましたね」

「いえ。私達の方こそ、普段あなた方に助けられていますから。その……な、仲間として、当然の事をしたまでです」


『仲間』という部分を、クオンは少し照れくさそうに言った。確かに普段の彼女はこういった事をあまり言うタイプではないが。と、その時、頭を摩りながらアノイトスが起き上がった。


「なるほど……まずはおめでとうございます。全てではないにしろ、少しならばアナタ方を認めてやらないでもありません」

「ま、まけたのにすごい態度……」

「ワタシの話を聞いていませんでしたね?マイナス60点」

「配点でかっ」


敗北をまるで感じさせないアノイトスの様子に、一行は再び警戒を強めていく。


「ワタシは『全てではないにしろ』と言った筈です。そう。ワタシはまだ負けを認めるつもりはありません……」


アノイトスが指を鳴らすと、彼の背後に尋常じゃない深さの穴が開いた。


「この穴の先には星間移動装置があります。ワタシの秘密の実験場に繋がっていますので、どうぞお越しください」


そう言うとアノイトスは、両手を広げたまま背中から穴に落下していった。


「えっ」

「大丈夫……だよね?」

「私達もあの穴から向かうのでしょうか……」


遠くから微かに『フハハハハハ……』という、楽しそうなアノイトスの笑い声が聞こえる。 4人がおろおろしていると、彼女らが通る用と思しき穴が近くに開いた。……リーヴ達の足元に。


「えっ……わ、わあああああああああああ!!」


柄にも無く絶叫しながら、リーヴ達は深い穴の底まで落ちていった。

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