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大宙の彷徨者  作者: Isel


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第177話 謁見

長い長いエレベーターを降りた先には、先程正面入り口前で別れた仲間達の姿があった。クオン、流離、幻、いずれも特に目立った負傷は無い。


「みんな、大丈夫だった?」

「はい。私は」

「俺達も特段負傷はしていない。案ずるな」


大事な仲間が全員無事で、リーヴの顔は思わず綻ぶ。


「それより……ここなんですかね。道中何度も聞いた、アノイトスっていう人の居場所は」


アルシェンは前方の大きな扉に目を向けている。今まで通ってきたフロアとは明らかに雰囲気が違っており、ここにいるのは敵の親玉なのだという自覚がリーヴ達の胸に湧いてくる。


「さぁ行くぞ。俺達の睡眠を邪魔した落とし前をつけてやろう」

「まだそれ根に持ってたのね……」


率先して扉を開けに行った流離を、幻は『やれやれ』とでも言いたげに見つめていた。


「おい!俺の睡眠を邪魔した詫びを聞きに来たぞ!」

「第一声それでいいの?」


セラが珍しく流離に対して苦笑いしている。部屋の中には窓の方を向いている青年が居た。薄い緑色の頭髪や、左目に装着しているモノクル、肩に羽織った黒いコートが特徴的である。彼がW.C.Pの総監、アノイトスなのだろうか。


「……その口ぶりからして、ここの社員ではありませんね」


アノイトス(?)はゆっくりと振り返り、小さな溜め息の後に言った。


「まずはご機嫌よう。ワタシはアノイトス=ノーレッジ。W.C.Pの総監です」

「あなたが……アノイトス」


リーヴは何度も聞いた名前を噛み締めるようにして呟く。


「セイジェルやルヴニールから報告は受けています。アナタ方は何か、ワタシに用事があるのだとか」


ディスガーから『変人』と聞かされていたが故に、リーヴは自然と身構えてしまう。しかし、冗談抜きで宇宙の存亡が懸かっている(かもしれない)のだ。臆している場合ではない。


「え、えっと……その、六芒星っていう組織の、目的を阻止するのに、協力してほし……」

「お断りします」

「はぅっ」


食い気味にも程がある速度で、アノイトスは返答した。即答されるとどうしても萎縮してしまうのか、リーヴは妙な声を出して若干縮こまる。


「ワタシも六芒星に関しては知っています。何ならそこの幹部ですので。ですがご安心を。そもそもワタシが六芒星に所属しているのは、『神を狩る』という目的が一致しているだけ……目的を達成すれば同時に潰しますので、アナタ方と協力する必要はありません」

「う……で、でも……」

「それに社内のセンサーがずっと反応していましたよ。アナタ方の中に数人、神が居るでしょう。もしくは神に準ずる種族の者が。ワタシは神が嫌いです。アナタ方と協力する気はありません」

「うぅ……」


本人の気質の関係上、リーヴはこう言った強い口調の相手と話すのは苦手なようだ。やたら高圧的なアノイトスの口調に怯んで、リーヴは口籠る事しか出来ない。


「……では、1つ授業をしてあげましょう。神が何故『神』と呼ばれるか……ワタシの学院でも扱っている『神種学』の分野です」


唐突にアノイトスが宣言した。戸惑いはあったが、その話題はリーヴも気になってはいたのでとりあえず話を聞いてみる事にした。


「まず第一に。そもそも『神』という存在は、元々人間から派生した生物です。ある時偶然誕生した、全てにおいて並の人間を超越した人間……当時の人々はその者を、アース(地球)の旧い文化で『人智を超えた存在』という意味を持つ言葉である『神』と名付けました」

「なるほど……確かに理に適ってる名付け……」


アルシェンが小さく頷きながらリアクションしていると、彼女の頬を1発の弾丸が掠めた。あまりにも予想外な出来事に、アルシェンは言葉が出てこなくなる。


「私語は厳禁です。以降、減点対象とします。発言を希望する場合は挙手を」


恐らく『減点対象』というのは、ただ言い方を変えただけだ。次彼の話に口を挟もう物なら……その額に風穴が空くだろう。警告してくれただけマシかもしれないが。


「先程も申し上げましたが、これは『神種学』という学問で扱う内容です。歴とした1つの学問故、当然『神種学者』と呼ばれる者も居ます。ワタシもその1人です。そして神種学者の間には大きく分けて2つの派閥があります。先に名称を言いますと、『人等派』と『神格派』です」


アルシェンの一件があってか、誰も微動だに出来ていない。


「人等派は『神を人間と同格の亜人間』として扱う派閥で、対する神格派は神をアースの価値観と同じ『人智を超えた偉大な存在にして崇敬の対象』として扱う派閥です。ここまではよろしいですか?」


アノイトスの問いに全員が頷く。この状況、流離辺りがさっさと襲いかかってもいそうなものだが、敵とは言えアノイトスの話は純粋に興味深い点がある。その為、場の全員が『とりあえず最後まで聞いてみよう』と思っているのだ。


「……よろしい。その2つの派閥の内、ワタシは人等派に属します。ここで問題です。ワタシが人等派に属する理由は何でしょう?」


その時、先程言われた通りにリーヴが小さく手を挙げた。


「……物覚えが良いですね。どうぞ」

「あなたのプライドが高いから」

「不正解です。マイナス10点」


次はセラが手を挙げた。


「アノイトス……さんが全生物を見下しているから」

「さっきよりは近いですが不正解です。次」

「あなたが神を嫌っているからかしら?」

「更に近づきましたが、ワタシが感情で動く事は基本ありません。△です。次!」

「逆張りたい年頃」

「論外!」


アノイトスは何故か流離にだけ弾丸を放った。そりゃそうだろうと言いたくなる回答ではあったが。


「正解は無しと……ですが最後の論外を除き、存外良い回答でしたよ」


一応敵の筈なのだが、アノイトスはリーヴ達の回答を褒めてくれた。


「では、正解発表といきましょうか……」


そう言いはしたものの、アノイトスは勿体ぶるように銃をリロードし始めた。終わったかと思えば、今度は銃身を拭き始めた。その様子を見ながら、リーヴ達は再認識した。


((((やっぱりこの人、変な人だ))))

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