第175話 先へ
「……」
しばらくの間過去の夢を見ていたルヴニールは、先程まで戦場だった通路の真ん中で目を覚ました。
「あ、起きたわよ」
「ああ」
「……何をしているんだい?」
ゆっくりと身体を起こしながら、ルヴニールは尋ねる。
「何と言われてもな。お前に死なれると夢見が悪いから側に居ただけだ」
「いやそっちではなく。今君達は何をやってるんだい?」
「見て分からないか?ババ抜きだ」
「2人でやって何が面白いんだい?」
てかまず2人じゃ出来ねえだろ。
「信じられないね……勝利の後とはいえ、敵地の真ん中で堂々と遊戯に興じるとは」
「適度な気抜きは必要だろう?まぁ、これは幻の発案だが」
流離には勝ち誇る様子も無く、ルヴニールの事も特に気にしていないらしかった。
「……1つ頼んでいいかい?」
「構わないが」
「ここの総監……アノイトス君は、一言で言えば私の恩人なんだ。その彼は昔から、何かよく分からない怪しげな目的の為に動いている。それが何なのか……明かしてくれはしないか?」
「怪しげな目的?六芒星と関係があるのかしら」
「いや、多分六芒星とは関係ない。以前2人で飲みに行った際、珍しく酔ったアノイトス君は『六芒星もいつか潰す』と言っていたからね」
どうやらアノイトスはディスガー同様、六芒星に対して忠誠を誓っている訳ではないようだ。それどころか、六芒星に敵意すら抱いているようにも見える。
「……何であれ、実際会ってみない事には始まらないな」
「ええそうね……私達は一度彼の兵団を退けているから、もしかしたら問答無用で敵視されているかもしれないし」
「それは私にも断言は出来ないね……代わりに、これを渡そう」
ルヴニールは血塗れになった白衣のポケットから、カードキーを流離へ投げてきた。
「おっ……と。おい目に刺さったらどうする気だ」
刺さる訳ねえだろ。
「これはアノイトス君の部屋がある階まで行けるエレベーターのキーだ。どうせこれが無ければ彼には会えない。持っていってくれ」
「いいのか?」
「ああ。替えはアノイトス君に頼めば100枚だろうが寄越してくれるさ」
「分かった。感謝する」
「ええ。ありがとうね」
2人はルヴニールに礼を言い、そのエレベーターを探しに行った。1人残されたルヴニールは、内ポケットから煙草を取り出して火をつけた。
「ふぅ……仕事が終わった後は一服に限る」
吹き抜けの手すりに身体を預け、何か考えを巡らせているようだ。と、その時……
「あ……しまった。下の階に灰が落ちてしまった。まぁいいか……」
ルヴニールが再び煙草を咥えようとした時、1つ下の階にから聞きなれた声が聞こえてきた。
「あっつ!ちょっと誰よ!吹き抜けから煙草の灰なんて落としたのは!」
声の主は少し前に敗戦した後見逃され、何となくで上階に来ていたセイジェルだった。どうやら先程ルヴニールが落とした灰が、偶然にも彼女の首かどこかに当たったらしい。彼女の服は背中が空いているので、そりゃキレるのも無理は無いだろう。
「セイジェル君?」
ルヴニールは手すりを飛び越し、ワイヤーを使って下階のセイジェルの正面に移動した。
「びっくりした……その移動の仕方やめてって言ったわよね」
「楽なのだから仕方ないだろう?それより、もう仕事は終わったのかい?」
「終わりはしたわよ。ま……侵入者さんは結構なやり手だったんだけど」
「こっちもそうだよ。……そういえば、彼らは何の目的でここへ?」
「ああ、確か六芒星を潰す為の協力者がどうのこうのって」
「ほう……なら、彼と戦闘にはならないか?」
「なるわよ、どうせ。私が戦った子、神だったもの。あのガキは神種が大嫌いだもの」
「神か……確かその名前は、元々アースの言葉だったね」
「そうよ。神種学の話ならアノイトスに聞きなさい」
「いや別に興味はないんだがね」
「あなたも大概可愛げ無いわね……」
2人は仲が良かった。
改めて考えてみれば2人でやるババ抜きの何が面白いんだ?




