第173話 人とは
どうでもいい豆知識
神種学は文系、魔力学は理系に分類されます
こちらの科目で例えるなら歴史と物理みたいなもんです
流離が刀を構えて尚、ルヴニールは白衣のポケットに手を突っ込んだままである。
「構えないのか?」
「先手はそちらに譲ろう。立ち姿を見たところ……メインで戦うのは君だけだろう?」
ルヴニールは観察眼が優れているのか、流離と幻の位置関係や幻の立ち方を見ただけで、どちらが主戦力なのかを見抜いていた。
「ああ。別に問題無かろう」
「そうだね」
「……先手を譲った事、後悔させてやる」
流離はどこぞのデスとは違って小手調べをする性格ではない。左手に持った刀に手をかけ、抜刀と同時に振り抜いて赤黒い斬撃を飛ばした。
「おお……」
気味の悪い薄ら笑いを浮かべたまま、ルヴニールの胴体はその斬撃に両断された。大量の血を流して呆気なく倒れたルヴニールに、流離は疑惑の視線を向ける。
「……?これで終わりか?」
あまりにもあっさりとした幕引きに、流離は少し戸惑っている。しかし、こういう時は大抵思う通りに事は運んでいない。流離は経験から分かっていた。
「終わりじゃ……ないよ。いやぁすごいすごい。洗練された技だね」
ルヴニールの両断された胴体が1人でに繋がり、何事も無かったかのように再生したのだ。
「何だそれは……気色の悪い」
流離も思わず顔を引き攣らせている。どの口が言ってんねん不死身だろお前。
「ふぅ……まあ初見は驚くだろうね。私の異能には色々と助けられる。おかげですっかり回復したよ」
ルヴニールは首を鳴らしながら含み笑いを溢す。
「じゃあ次はこちらから行こうか」
「……」
流離は警戒していた。医者という先入観と特に何も携帯していない外見から、ルヴニールの武器は大方メスやナイフなのだろうと流離は推察していた。のだが、それにしては間合いが空きすぎている。投擲で戦うならもっと分かりやすい鞄のような物を持っている筈だし、白兵戦をするならば流石にもう少し近づかなければならないだろう。
(奴の武器は何だ……?メス?短刀?大穴で銃火器か?……まぁいい。再生能力持ちだろうが何だろうが……自ら死を望むまで斬り刻むだけだ)
ルヴニールがポケットから手を出すのと同時に、流離は集中を高める。流離はルヴニールの両手を警戒していた。先に言っておくが、結論から言えばその警戒は無駄ではなかった。ただ、武器種の予想自体は大きく外れていたのだ。何故ならルヴニールの武器は……
「ハハッ。どうだね?初めて見る武器じゃないかい?」
彼の両腕の前腕部の甲から皮膚を破って飛び出した、2本の刃だった。ルヴニールには再生があるので特に大きなダメージではないのだろうが、流離の不死と似たような能力なのだとすれば痛覚は生きている筈だ。この男も大概、頭のおかしな人間である。
「……見かけ倒しだな」
「打ち合う前から言っていいのかい?」
それから、ルヴニールはその頼りない外見からは想像も出来ないような速度で踏み込んで、流離の近くまで接近してきた。
「まずは切開。解剖の初歩だね」
ルヴニールは流離の腹部を突き刺し、そのまま縦に切り開いた。
「くっ……」
「そして血抜きだ。基本的に解剖は私1人でやるのでね。吸引を任せられる助手はいないのだよ」
続けてルヴニールは流離の脇腹辺りを切り裂いた。医者が故か、身体の重要な部位をよく理解しているのだろう。ルヴニールのつけた傷口からはいずれも大量の血が吹き出していた。
「さて、普通ならこれで終わりなのだが……私の始末人としての勘が、君は普通じゃないと告げているよ」
「……ああ」
普段よりドスの効いた声で流離は答えた。幾らかの油断もあったのだろうが、恐らくは想定より高いルヴニールの実力に対する警戒から来る反応だろう。
「ハァ……命を大切にしろと教わらなかったか?」
「大切にしているさ……私は常から命に感謝し、尊びながら命を解剖しているよ」
両者1歩も引かない戦いが、そして奇しくも、不死者同士の戦いが幕を開けた。
ボスキャラ解説
【理性と魂の執刀医】ルヴニール
種族 人間
所属 W.C.P
異能 超再生能力
今回使用した技
・帝王切開
→腹部を刺して斬り裂く。多分痛い
・抜血刃
→腱や内臓など、血が多く流れている部分を狙った斬撃。多分痛い
概要
W.C.P傘下の病院の院長兼、アノイトス直属の始末人。フルネームは「ルヴニール=カルマズム」で、常に気味の悪い薄ら笑いを浮かべている為考えている事が分かりにくい。コーヒーとエナドリをこよなく愛する生粋の徹夜馬鹿な上に社内でも知れ渡る程の狂人だが、これでいて本人の医者としての腕は超一流。しかもセイジェルと専門的な知識を交えた話が出来る程度には頭がいい。得意分野は当然医学、そして生物学、数学である。国語などの文学系は苦手らしい。




