第171.5話 知恵の眷属
セイジェルに見送られ、クオンは半透明の壁に囲まれたエレベーターに乗っていた。低い動作音が響く筒状の空間の中、彼女はずっと考え事をしていた。
(セイジェルさんは知恵の眷属らしいですが……眷属ともあろう方が何故人間の企業に?それに、先程の通信の先にいたW.C.Pの総監さまは、セイジェルさんを『同格』と呼んでいた……つまり総監さまも知恵の眷属という事でしょうか?)
そこまでは良いのだが、クオンの心にはある疑問が湧いていた。
(しかし……眷属を複数従えるなど、並の魔力量では不可能な筈。一体どういう……)
そんなクオンの疑問に、デスが口を開いた。2人はお互いに思考を共有している為、クオンの疑問はデスにも伝わっていたのだ。
「……ウィズダムは魔力の扱いが上手かっただけじゃなくて、魔力の量もすごかったんだよ。少なくとも……眷属を2体作って尚、『あの戦い』に出られるくらいには」
デスは平然と言ったが、その台詞の中にも1つ気になる点があった。
「あの戦い……?」
クオンはそう聞いてみたつもりだったが、デスは沈黙していた。そこまで急いで知る事でもないので、クオンは特に気にせずエレベーターの壁に目を向けてみた。丁度中庭が見えたので、そこを観察してみる事にした。
「あれは……カピバラですか。会社の中庭で飼育しているとは……変わっていますね」
「でも可愛いよね。クオンには劣るけど」
クオンはナチュラルに自分への愛を見せてくるデスに苦笑していたが、その苦笑すら消え失せるような物が彼女の視界に入ってきた。
「あら……?何だか……1匹、大きい子がいませんか」
そう。普通の茶色いカピバラの中に、1匹だけ馬鹿でかいカピバラが鎮座しているのだ。
「本当だ。いるね。多分3mくらいかな?」
「W.C.Pとは……どういった組織なのでしょうか」
中庭が見えなくなるまで、クオンの視線はそのでかカピバラに釘付けだった。




