第169話 魔女と死神
「さて……どんな方が来るのでしょうか」
聞こえる足音は機械のような金属の音だけだが、音のする方向の奥に1つだけ魂が検知出来る。クオンが警戒しているのはその人物であった。
「……」
程なくして、地鳴りのような足音と共に人型兵器の大群が押し寄せて来た。
(流離さん達の話から考察するに、あれが幻さんを狙っていた兵器なのでしょうね)
そんな考え事をしながら、クオンは死の力を纏った鎌で銀色の装甲を豆腐のように斬り裂いていく。先程クオンが言ったように、死の権能は無生物にも有効なようだ。何なら魔力による抵抗が少ない分、無生物に対しての方が効き目が大きいようにすら見える。
「クオン、数が多いけど大丈夫?」
敵が目の前に現れた影響か、基本的に沈黙しているデスも目を覚ましてクオンに語りかけている。
「平気です、心配は要りません。もし危なくなったら、ちゃんと頼りますから」
「そう……気をつけてね」
クオンはそのまま武器を振り続け、兵器の波の終わりが見えた瞬間に紫色の波動を放って殲滅を完了させた。非常口付近にはクオンによって破壊され、死の権能によって錆び朽ちた兵器の残骸が散らばっている。
「そんなに死の力を使って平気なの?アナタにとって、そっちは夜の権能よりも消耗が激しい筈だけど」
「問題ありません。魔力の抵抗が少ない分、今は死の方が有効でしょう」
クオンは辺りを見回して流離の後を追おうとする。その時だった。『カツカツ』というヒールの音と共に、新たな敵が現れたのだ。
「……何よ。アイツのお人形、全く役に立たないじゃないの」
口調からも分かる通りに女性であり、長い銀髪の上に被った三角形の黒い帽子や、クオンに負けず劣らずの露出度を誇る服装など。全体的に魔女のような雰囲気の女性だった。
(あの方、綺麗な方ですね……雑誌の表紙に載っていても違和感がありません)
クオンは内心では感心しているが、魔女に対する警戒を解く事はしない。
(それに……どこかで会ったような気がします。微かに懐かしさが……いえ、これは私ではなくデスの記憶……?)
クオンが思考を巡らせる一方で、魔女は耳に着けた機械に触れ、誰かと通信を始めた。
「ちょっとひよっ子。あなたのガラクタ、何の役にも立たなかったんだけど」
魔女はクオンに目もくれず、インカムの向こうに居る誰かと話している。音量が大きめなのか、通信相手の『ひよっ子』の声が微かながらクオンにも聞こえて来た。
「勤務中は『総監』と呼べと言った筈です」
「はいはい総監サマ。あなたが私に管理権限の一部をくださったお人形さん達、1ナノも役に立ってくれなかったのですがこれはどういう事でしょうか?」
魔女は苛立っているのか、身体を微かに震わせながら総監に向かって言葉を飛ばしている。
「アナタの采配技術が劣っていただけでは?いくら自律式とはいえ所詮は機械……その真価を発揮出来るか否かは、指揮官の能力にある程度委ねられる物ですよ。その程度の想像すらつかないというのに、よくワタシと同格の存在と名乗れますね」
「今は私の技術じゃなくてあなたのオモチャの質の話をしてるんだけど?」
「アナタは、アナタの言うオモチャの……ネメシスの戦闘実験に参加した事がありますよね?その時の記憶が抜け落ちてでもいない限りは、ネメシスの性能を疑うなど出来ない筈ですが。まさか忘れたとでも言うのですか?全く、知恵の眷属の名が泣いてますよ」
「ぁあもう!うるっさい!」
総監に煽られたのが余程気に入らなかったのか、魔女は力強く通信を切った。どうやら総監は中々に気難しい人間らしい。それよりも、先程総督は魔女に対して『知恵の眷属』と呼んだ。突入前の流離達の話から察するに、やはりW.C.Pは知恵のウィズダムと何かしらの関係があるのだろう。
「ふぅ……見苦しいところを見せたね」
「あ……はい」
正直なところ、クオンは先程まで少し緊張していた。しかし今のやり取りを見たせいか、その緊張が露と消えてしまったのである。
「自己紹介しておきましょうか、私は『セイジェル』。あなたは?」
「あ、えっと……クオン、です」
「ふぅん……ま、名前なんて関係ないけど」
その瞬間、セイジェルは亜空間から取り出した杖の先からプリズムのような桃色の光線を放って来た。
「くっ……!?」
緊張が抜けていたクオンは反応が遅れ、左腕にそれが掠ってしまう。
「アイツの命令に従うのは嫌だけど……これが仕事なの、悪く思わないでね。侵入者さん?」
セイジェルは余裕そうな笑みを浮かべて宙に飛び上がり、横向きにした杖に座ってクオンを見下ろしている。
「……もしかしたらこれは世界の為となるかもしれない戦いなのです。そちらこそ、悪く思わないでくださいね」
クオンは『六芒星の野望を阻止する協力者を見つける』という目的を今一度確認し、魔力を漲らせるのだった。
小話 〜尺の都合上本編に書けなかった事〜
六芒星の野望阻止にディスガーが協力しない理由は2つあります
・単純な話、所詮は器用な人間でしかないディスガーには六芒星という巨大組織に対抗出来るだけの実力が無い。
・そもそもディスガー自身は「世界が滅べば戦争も無くなる」という思想なので、仮に六芒星の野望が実現して世界がとんでもねえ事になってもそれはそれで構わない。
というのが理由なんですが、これを入れるとテンポが非常に悪くなるという事でここで書きました。でも大体言わなくても想像はついてましたよね?




