第167話 うぃーあー・いんべーだー
ウィズダム・コーポレーションことW.C.Pの本社前まで来たリーヴ達。都会故に街全体が広いのもあるが、それを抜きにしてもここまで来るのには結構な時間がかかってしまった。何故なら……
「リーヴ……こういう真面目な行動をしてる時は、気になったお店に片っ端から近づくのやめてほしいんだけど……」
少し精神が成長したとはいえ、リーヴはまだまだ純粋な子供のような性格だ。生まれて初めて見る自動ドア、空を飛ぶ箱、液晶の奥で笑う人々。都会には当たり前にある物の全てが、リーヴにとっては新鮮だったのだ。だが、その新鮮さに感動するのは少なくとも今じゃない。
「う……ごめん。見たことないものがいっぱいで、楽しくなっちゃって」
『しょもん』とした表情を浮かべるリーヴ。セラもそこまで落ち込まれるとは思っていなかったのか、慌ててリーヴの頭を撫で始める。
「わああ、ごめんごめん。そうだよね。君にとっては初めてなんだもんね、こんな発展した場所」
「うん」
「でも、観光はまた今度にしようよ。今はやる事があるでしょ?」
「……うん。だね」
一応敵の本拠地の正面だと言うのに、何とも呑気な連中である。
「……歓談は終わりだ。突入するぞ」
和やかな雰囲気を纏うリーヴ達とは対照的に、冷然とした様子で流離が声をかける。
「でも……正面から入れるの?」
「俺達は無理だった。神を狙う組織ならば、神専用のセンサーがあるのが道理だ。幻はそれに引っかかったし、俺は顔を見られているのでな」
「もしそうだとするなら……私も正面からは入れませんね。リーヴさんもそうなのでは?」
「……多分、わたしはいける。わたしは『無』だから、その気になれば……せんさー?も、突破できる、はず」
そもそも人間であるセラとアルシェンはセンサーに引っかかる訳がないので、行動はリーヴ+人間2人組、それと流離、幻、クオンという2組に別れる事にした。
「では、リーヴさん達とはここで一旦お別れですね」
「うん。気をつけて、ね」
クオンは流離達の後をついて行った。
「じゃあわたし達も、入ろう」
「正面から入ったら警備員とかに見つからないかな?」
「大丈夫。実はわたし、この前『とっくん』をした」
「特訓……ですか?」
「うん。丁度同じ部屋にいた、クオンも一緒に。クオンはどうか分からないけど、わたしは出来ること増えた、よ」
「そっか。じゃあ安心だね」
セラはリーヴに向かって優しく微笑みかける。3人は一抹の緊張を感じながら建物の自動ドアをくぐった。その瞬間、天井の方から大きな音が響いた。
「認証無し!認証無し!侵入者!侵入者!」
それは機械的な警報音声だった。
「もうみつかった」
「もっと焦って!早くどこかに隠れよう!」
「色んな場所から魂が近づいてきてます……!今隠れたら逆に危ないかもしれません!」
「ふふん。大丈夫、まかせて」
リーヴは自信ありげに胸を逸らす。それは良いんだがもう少し焦ってくれないか。
「居たぞ!逃げもしないとは馬鹿な奴らだ!」
「捕らえてルヴニール様の下に送るぞ!」
全身を隈なく武装した警備員達が大勢押し寄せて来る。
「信じていいんだよね、リーヴ……!」
「うん。もうちょっとまって……」
リーヴは時を見計らうかのように辺りを見回している。そして四方八方を囲まれた瞬間、リーヴは一気に銀色の魔力を解き放った。
「見て、これが無だよ」
すると、辺りの風景が一気に灰色に変わった。それだけではない。音も聞こえなければ匂いもしない。警備員が立てた土煙すら、空中で静止している。まるでリーヴ達を除いた世界の全てが、時間の流れに取り残されたかのようである。
「すごい……リーヴ、こんな事出来たんだ」
「うん。クオンに教えてもらったんだ。わたしは魔力の量自体はすごいから、コツさえ分かれば領域も作れるって」
「助かりましたね!この隙に進んじゃいましょう!」
「うん。それが、いい。わたしの領域は、まだ長くは保たないから」
3人は停滞した時の中を駆け抜け、入り口から正面に見えていたエレベーターの前までやってきた。
「これ……動くのかな」
「多分うごかない、よ。わたしには、まだ対象を絞るのは難しいから」
「そっか。じゃあ階段だね」
「2人とも!こっちに階段がありますよ!」
アルシェンが示した方向には、先程警備員達が出て来た通路があった。その先では緑色の電光掲示板に『非常階段』と表示されている。
「うん。ここから、いこう」
そして、3人は上の階を目指して階段を駆け上がっていった。
今回出て来た技
リーヴ
・零淵臨界
→リーヴの領域。範囲内の生物の意識、思考などを一時的に全て「無」くす。生物以外の場合は流れる時間などを無くす。めっちゃ強いがまだ戦闘に使える程の熟練度ではない。惜しい




