第163話 彼らの野望
今回なんですが「ーーーーー」の下からはとあるキャラの掘り下げみたいなやつです
「……あ、かえってきた」
急に魔物達が煙のようになって消滅したので、リーヴ達はフォルティ達が黒幕を倒したのだろうと考えて防壁の外で待っていた。少ししてからフォルティとディスガーの姿が見えたので、リーヴ達4人はその2人に駆け寄っていく。
「よう。無事だったか」
「何よりだね。君達の実力を信頼してよかった」
何事も無かったかのように話している2人だが、リーヴは何か気になる点を見つけたようだ。
「えっと……なんで2人とも、傷だらけなの?」
そう。フォルティもディスガーも、まるで今の今まで殴り合っていたかのような傷やアザが顔面に広がっているのである。
「ああそれか。この酒メガネが俺んちに住むとか言い出しやがってな。テメェを養う金なんかねえってのに」
「そう言うなフォルティ。僕の活動を続ける上で、あの星は最高の隠れ蓑になる。家賃は払うよ?」
「破壊活動も辞めるってんなら住ませてやるよ。本音は家が欲しいだけだろ?アンタの心が言ってるぜ」
「チッ」
「なんか2人とも、仲よくなってる、ね」
「「どこがだ」」
「ほら仲いい」
そしてディスガーは話したい事を思い出したのか、軽く咳払いをしてから切り出す。
「そうだ。一応君達に言っておきたい事があってね……」
ディスガーは六芒星の野望を簡潔に説明した。
「なるほど……神を狩っているのは、何かを復活させるのに使う魔力を集める為だったのですね」
「その『何か』って何なの?」
「悪いが、それについてはよく知らない。僕は会議にもほとんど出席しないし、他の幹部との交流もほぼ無いからね。まあ、少なくとも良い物ではないだろう。時に……」
ディスガーはメガネを掛け直し、薄く笑みを浮かべて提案する。
「……君達は六芒星の野望を阻止したいと思うかい?」
「えっ……と……わたしは、よくない事をしてるんだったら、とめたい。この世界が危なくなるのは、やだ」
「なら、協力者になってくれるかもしれない人物が1人いる。彼は中々癖の強い男だが、基本人間に対しては害を成さないよ。『人間に対しては』ね」
ディスガーのメガネが怪しく光る。もしやこの男は、リーヴやクオンの正体に気づいているのだろうか。
「何はともあれ、アルテミシアの問題は解決した。後は自由にしてくれたまえ。協力、感謝するよ」
「おい待てよ。アルテミシアは戦争っつう資源確保の手段を断たれたままだろ。どうすんだよこの星」
「気づかないかい?僕が移動装置を破壊したのは年単位で前の事だ。にも関わらず、この星の人間は変わらず生きていく事が出来ている……分かるだろう?案外……どうにかなる物なのさ」
「……そうかよ。ま、どうでもいいけどな。こんな腐った星……」
「まぁそう言うな。確かに君の部下は腐っていたのかもしれないが……それは戦争によって価値観が歪んだだけじゃないか。それに、例え民が腐っていても……ここは故郷だろ、どうでもいい訳あるか」
「……フン」
何の話をしているのかはいまいち分からなかったが、リーヴがそれを聞くより先に、フォルティ達はどこかへと消えていった。
「……さて、どうしよっか」
「観光でもする?」
「アリーナさんに会いに行くのも良いですね」
「あの、リーちゃん達……ちょっといいですか?」
アルシェンがすごく申し訳無さそうに手を挙げている。彼女がこういう態度を取る時は大抵何か重要な話が始まる時だと、リーヴ達は分かっていた。
「えっと……その、アリーナちゃんなんですけど……」
「あの子、迷魂だったんです」
「……え?」
「初めて会った時から気づいてはいました。ですが、わざわざ2人きりになってまで『黙っててほしい』ってお願いされちゃって……特にフォル君達の前では言わないでくれって」
「なんで、フォルティの前で言っちゃだめなの?」
「……幼馴染らしいんです。魔物から軍都を守ってる最中に戦死してしまったらしくて。でも、ディスガー君やフォル君が気掛かりで奈落に行けなかったそうなんです」
「そうだったんだ……でも、迷魂にしては人間に似てたよね」
「迷魂は、未練の中の負の感情が薄い程人間の形を保てるんです。アリーナちゃん、本当にただフォル君達が心配だっただけなんでしょうね」
4人はアリーナの笑顔を思い浮かべて、しんみりとした感情に浸っていた。そして生前のアリーナと同じ短命の戦士であるセラは、あの真っ二つに引き裂かれた血塗れの軍服を思い出して、密かに敬意の言葉をアリーナへ送っていた。
ーーーーー
一方軍都では、街外れの屋根の上に立っているアリーナの下へタナトスがやって来ていた。
「……あ、遅いですよ死神様」
「すまない。魂の様子からして、もう未練は晴れたようだな。これで君も命の輪廻に戻れるという訳だ」
「ですね……でも、少し寂しいです」
「何故?」
「私が生まれ変わったらフォルティ達と……親友と過ごした記憶も無くなっちゃうんですもん。聞いた話によれば、死神様も昔は人間だったんですよね?気持ち……分かりません?」
「……」
タナトスは、まず幼少期を思い出していた。自身に発現した『次元移動』の異能。それを利用して金を稼ごうとする父親。そんな父から自分を庇い、最後は殺害された母親。そしてそれに激昂し、父親を殺した幼い自分……彼の幼少期には碌でもない思い出しかなかった。
次に思い出したのは青年期だった。鎌という武器と高い実力から『死神』という通り名をつけられ、各地を流浪していた日々。そこを同じく各地を流浪していた傭兵団に拾われ、人の温もりを感じたあの日。助けた人間が悪党に成り果て、半端な善意は悪意と同義だと悟ったあの日。そして偶然にも、同じ日に唯一の家族を殺されて絶望していた同僚に、心臓を刺し貫かれて死んだあの日。
確かにどれも幼少期の頃と変わらない、碌でもない思い出ではあった。しかしそのどれもが今の彼の礎なのだ。それを『碌でもない』の一言で片付けるのは、何かが腑に落ちない。
「……ああ。分かるさ」
タナトスは短くそう言った。
今、彼は死者の王として彼岸を統べている。彼自身も死者故に、もうその心身に温度は無い。しかしあの日感じた心の温度は、傭兵団の団長や団員から『仲間』と呼ばれた時の幸せは、寝食を共にした時の温もりは、紛れもない本物だった。
タナトスは前作のキャラではありますが、結構気に入ってるのでここでちょっと掘り下げました




