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大宙の彷徨者  作者: Isel


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第17話 セラと、わたし

「…と、いうことで、冷却塔はちゃんと止まったよ」


リーヴとセラは崩壊していく冷却塔から何とか脱出した後、村長の家に報告に来ていた。


「ありがとうございます…!これでこの星もより住みやすくなるでしょう」

「どういたしまして」

「報告も終わったし、宿に戻ろっか」

「そうだね。ばいばい、おじいちゃん」

「はい。改めて、ありがとうございました。もし必要な物があれば、お申し付けください。用意させていただきますじゃ」

「…じゃあ、放熱塔がある星…灼熱の星、だっけ。そこの写真をくれない?」

「写真ですか…分かりました。少し待っていてください」


村長は奥の部屋に向かった。ゴソゴソと音が聞こえてくる中、セラはリーヴに問いかける。


「写真なんて何に使うの?」

「わたしの能力は、行き先の光景が想像できると、そこにいけるの。ここと同じような問題があるなら、はやく解決してあげなきゃ」

「なるほど…」


セラが頷いていると、村長が部屋から出て来た。


「お待たせしました。これで、よろしいですかな?」


村長が持ってきたのは、いかにも暑そうな荒野の写真だった。

「…うん、だいじょうぶ。ありがとう」

「役に立てたのなら何よりですじゃ」

「セラ、今度こそ、宿にかえろ」

「うん。おやすみなさい、村長さん」

「…1つ、聞いても?」


村長は不思議そうな顔でリーヴとセラを見つめている。


「なに?」

「その…お二人は、どういった関係なのですか?」


村長がそんな質問をした理由はただ1つ。媒体の関係上分かりにくいと思うが、さっきからずっとリーヴがセラの右腕に抱きついているのだ。どうやら冷却塔でセラが一生懸命にリーヴを助けた事で、リーヴがさらに懐いたらしい。


「えっと…と、友達、です」

「…そうですか。変な事聞いてすまないのう」


それから、リーヴとセラは何度目かも分からない別れの挨拶を交わして宿に帰った。そして夕食を食べた後、風呂に入る事になった。前回はセラが先だったので、今日はリーヴが先である。


「…むぅ」


リーヴは灰色の髪を洗いながら、ずっと考え事をしていた。


「セラとわたし…どういう関係なんだろう」


そう。それは先程、村長に聞かれた事についてだった。


「旅仲間…うーん…ちょっと距離が遠いような。友達……これも…なんかしっくり来ない」


中々良い表現を見つけられないリーヴは、セラと一緒に居る時の自分の心情を思い出す事にした。


(…セラと居るとたのしい、し、うれしい。セラ以外の女の子とまともに話したことないけど…なんか……セラは特別、な気がする)


そんな考え事は湯船に浸かってからもずっと続いていた。


(セラは…わたしを守ってくれる人。何もしらないわたしに、いろいろ教えてくれる人)

なんとか頭を回転させたものの、結局答えは見つからなかった。

「…のぼせる。出よ」


リーヴはタオルで身体を拭き始めた。その少し前、リーヴの入浴が終わるのを待っているセラも、奇しくもリーヴと同じ内容の考え事をしていた。


「リーヴとあたしの関係…か」


セラはベッドに腰掛けて、呟きながら考え込む。


「あたしにとってのリーヴは…」

(あたしの病気を治してくれた人で…あたしに手を差し伸べてくれた人で……とても、大切な人)


もう先に言っておこう。この2人が抱いている感情は『恋情』に近しいものだ。だが生まれたばかりのリーヴは言わずもがなとして、セラも喘息のせいで碌に外出してこなかった故、恋という感情を知らないのだ。


「うーん……分からないなぁ」


ほらこの通り。いつになったら恋心を自覚するのだろうか。


「あ、これ…」


セラがなんとなく真横に目を向けた時、ある物を発見した。


「リーヴの服だ」


そこに落ちていたのは、リーヴがいつも着ている黒いパーカーだった。ちなみに宿には洗濯機があり、寝

る前に2人は服を洗っている。寝る時はインナーのみの姿なのだ。セラは風呂場にそっと目を向け、リー

ヴがまだ上がって来ない事を確認すると…


「…」


リーヴの服に顔を埋めた。


(リーヴの匂い…良い匂いする……落ち着く…)


セラは多少の背徳感や緊張から、心拍が段々と上がっていく。その時、突然風呂場から声が聞こえてきた。


「セラ、髪乾かすの手伝って」

「ひゃあっ!…う、うん!」


セラは若干上擦った声で返事をして、リーヴの元へと向かった。


(み…見られて、ない…よね…?)


その後、リーヴと入れ替わる形でセラも入浴を済ませ、2人の服を洗濯機に放り込むと、寝る時間になった。普段からリーヴは肩が見える白い半袖、セラは白と薄い緑色のグラデーションになっているノースリーブという服装で眠っている。


「あ、そうだ」


そろそろ部屋の電気を消そうという時に、リーヴがふと思い出したように呟く。


「なに?」


「セラ、さっきわたしの服でなにしてたの?」


「えっ」


その台詞を聞いた瞬間、もう冷却塔は止まっているのにセラの顔が凍りついた。


「セラ…?」

「えっ……と…」


目を逸らして言葉を濁すセラの脳内は、大体こんな感じである。


(まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい)

「もしかして…わたしの匂い、かいでたの?」

「はぅあっ」


セラは見事に図星を突かれて、妙な声を上げる。そして、一気に顔が赤く染まっていく。


「…………はい」

「そうなんだ……ふふ」


セラは正直なところ、リーヴに微妙な反応をされると思っていた。だがその予想と反して、リーヴはどこか嬉しそうに微笑んでいた。そしてリーヴは電気を消して、ベッドに腰掛ける。『ギシ』という音が、静かに響く。


「服で、いいの?」

「え…?」


リーヴは嬉しそうな微笑みを浮かべたまま、依然として立っているセラに向かって両手を広げながら伝える。


「ほんもの、ここにいるよ?」

「……えと…じゃあ……失礼します…」

「ふふ。敬語」


それから、リーヴとセラは同じ布団の中で抱き合いながら朝まで…


「「zzz…」」


爆睡した。

おや…もしかして、何か変な事考えました?

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