第156話 六芒星
「終わりにしようぜ!ディスガー!!」
「ああそうだね。裏切り者には死あるのみだ!」
2人の武器が今にもぶつかり合いそうになったその瞬間、フォルティにとっては聞き慣れた声が聞こえてきた。
「とりゃああああああああ!!」
霧の中から走ってきたのは誰あろう、リーヴである。『ぺふっ』という、掛け声の気迫からは想像も出来ない程ショボい音を立てて2人の間に滑り込み、あわや相打ちになるかもしれなかった2人の戦闘を制する。
「……こちらのお嬢さんは?」
「あー……何だ、知り合い?」
「聞くな」
つい先程までの緊迫した雰囲気はどこへやら、微妙にふにゃふにゃした空気が辺りを包んでいる。
「フォルティ」
「あ?」
「喧嘩してたの?」
「喧嘩……まぁそうだが」
「だめだよ」
「は?」
「乱暴はだめ、だよ」
「いやダメとかじゃねえだろ。そもそもこいつは犯罪者だぞ?」
「そうだぞフォルティ。犯罪者にも人権はあるじゃないか?」
「黙ってろ酒クズメガネ」
フォルティはリーヴの言葉を聞き流し、再びディスガーとの戦闘を続けようとする。しかしリーヴはそれを望まないのか、フォルティの足に『ひしっ』としがみ付く。
「おい邪魔だ」
「だめだよ。このまま戦ったら、大事なわたしがずたずたになる、よ。いいの?」
「大事って程大事でも無えんだが……」
「ハハッ!どうしたフォルティ?あの『処刑人』様が随分と弱気じゃ……」
ディスガーの台詞を遮るように、フォルティは先程脇腹から引き抜いた刃物を投げ飛ばした。それはディスガーの頬を掠め、彼の頬に薄赤色の線を描く。その赤色とは対照的に、ディスガーの顔は青ざめていく。
「……ハァ。何か戦る気失せたな。おい、ここはお互いリーヴに免じて休戦しようぜ?」
「…まぁ良いだろう。色々と……話さねばならない事もある」
程なくしてセラやクオンも合流し、ディスガーは話の前に自己紹介をする事にした。
「初めまして、僕の名はディスガー。しがない平和主義者さ。そして知っての通り、こちらはフォルティ。僕のかつての同僚だ」
「俺の事はいいだろ」
「この人がディスガー……」
「何だかちょっと胡散臭いだけの、普通の人に見えますね……これが79億の賞金首なんですか」
アルシェンは小声で感心したように呟いている。
「で、何だい?何が聞きたいんだ?」
「ちょっと前に俺の星に来たじゃねえか。アンタあの時に移動装置壊しただろ?何でだ?」
「……それを話すなら、まず僕の目的について話さねばならないね」
「ディスガーさんの目的、ですか?」
「ああ。僕の目的はズバリ『戦争を根絶する事』……単純で良いだろう?」
「戦争を根絶する?それと移動装置を壊す事に何の関係が……?」
「簡単さ。星間移動装置は星々を繋ぐ重要な物……それを破壊して回れば、いずれ星同士が繋がる手段が無くなる……そうすれば戦争は格段に減少するだろう?」
ディスガーの目は怪しい光を放っていた。今話した事は恐らく嘘ではないが、それ故に、個人が行うにはあまりにも壮大な話だったのでリーヴ達は絶句していた。
「勿論、本当にゼロになる訳じゃないだろう。星内部でも戦争は起こる……それまで抑制する程の力は、僕にはない」
「……おかしくねえか」
「何が?」
「アンタの能力は知ってる。『影を操る能力』……これに俺や他の同僚は随分と助けられて来た。だが、いくらアンタの異能が便利だからって、懸賞金が79億に上るまでそんな活動を続けられるのか?」
「……勘の鋭さも相変わらずだね。そうさ、僕には所謂『バック』がいる」
そこまで話すと、ディスガーは一旦眼鏡をかけ直した。レンズの奥にある目からは、より怪しさを増した光が放たれている。
「バック?どこだよ、まさかアルテミシアじゃねえだろうな?」
「……六芒星」
その瞬間、フォルティの雰囲気が明らかに変わった。アルシェンも心なしか不安そうな顔をしている。
「テメェ……どういうつもりだ」
「フォルティ?どうしたの?」
「……リーちゃんは知らないと思います。六芒星って言うのは、どの星の人でも知ってるくらい有名な犯罪組織です。あくまでも噂で聞いた程度ですが、神を憎む人々で構成されていて、様々な星で神やそれに連なる人を殺したりしているようです。一定量の部下を連れている幹部が6人だから『六芒星』という組織名なのだとか」
どうやらディスガーは凶悪な組織の一員のようだ。とすれば、神であるクオンとリーヴは逃げた方がいいのではないだろうか。
「落ち着いてくれたまえ。確かに僕は六芒星の構成員で、何なら幹部だ。だが部下は1人も連れていないし、僕の目的に反する非道な行いに加担した事もない。僕にとっての六芒星は、あくまでもただの隠れ蓑さ」
「……テメェが何もしてなくても、テメェの同僚が何かやってんだろ。同じ組織に居る以上、止める義務ってもんがあるだろうが」
「それはお互い様だろう?何より、君はよく分かっている筈だ……個の力で、集団を動かすなど不可能だと言う事を」
2人はそれから10秒ほど睨み合っていた。恐らくフォルティは下層街での立場上、六芒星のような犯罪組織が気に食わないのだろう。気まずい空気に耐えられなくなったリーヴが、咄嗟に話を切り出す。
「そ、そういえばフォルティはさ。なんで故郷に帰りたいの?それで移動装置を使おうとしてたんだよね?」
リーヴの心情を読み取ったのか、フォルティは睨み合いを止めて質問に答える。
「この前地上に行った時に小耳に挟んだんだ。俺の故郷……アルテミシアっつう星が、今色々大変なんだとよ」
その台詞を聞いたディスガーは、『動揺』と言えば誇張になるような、微かな驚きの表情を見せた。
「どう大変、なの?」
「あくまでも聞いた話だけどよ。出所不明の魔物の大群に襲われてるらしい。あんな星でも一応故郷だからな、助けになろうとしたんだが……誰かさんのせいでなれなかったって訳だ」
フォルティはディスガーを再び睨む。しかしディスガーの方は睨み返さず、微笑みを消した真面目な表情でフォルティに向き合っていた。
「……フォルティ」
「あ?」
「その話は事実なのかい?」
「嘘ついてどうすんだよ」
「なら……ハァ。これに関しては僕の非を認めよう。まさか君が、あの星の危機に立ち向かおうとしてたなんてね」
「何だよ、アンタ知ってたのか?魔物の事」
「僕も以前聞いた事があった。というか、魔物の群れ自体は僕達が現役だった頃から居ただろう?それが数を増やしたのは……いや、何でもない。先程の事は忘れて、故郷の為に協力しようじゃないか?」
「面がコロコロ変わるな……まぁいいが」
ディスガーは何やら思うところのありそうな返事をした。何となく和解方面に話が向かいそうになった時、セラはある事が気になった。
「えっと……ちょっといい?」
「何だよ」
「アルテミシアってどういう星なの?」
「ああ……あの星は今のこの宇宙で1番デカい戦争星だ。俺もディスガーも、昔はアルテミシアの軍人だった」
「その通りだ。加えて、アルテミシアは土壌や気候等の諸々の環境が最悪でね。作物も家畜も碌に育たないのさ。だからアルテミシア人の生きる術は、他の星に戦争を仕掛けて物資を奪う他無いんだ」
「結構強かったからな。俺が居た頃、歴史好きの老人共は『現代のルミエイラ』だとか言ってたぜ」
不意に聞こえた地元の名前に、セラは反射的に顔を逸らした。
「まぁ、今は魔物の対処に追われてて戦争どころじゃねえみたいだが」
「ともあれ、次の目的地は決まったね。行くぞフォルティ。そしてその友人方、出来るなら力を貸して頂けると嬉しいんだが……」
リーヴ達は顔を見合わせるがそんな物は形だけで、もう答えは決まっていた。
「うん。わたし達でよければ、喜んで」
「感謝するよ。マイフレンド」
「会ったばっかだろうが……」
そしてディスガーが新たに仲間に加わり、一行はアルテミシアへと向かった。
キャラクタープロフィール
【翳った正義】ディスガー
種族 人間
所属 六芒星
好きなもの 酒 うどん 酒に合う物
嫌いなもの 煙草 きのこ フォルティ
異能 影を操る能力
作者コメント
能力がとても便利な男。フォルティとの戦闘では使わなかったが、影に隠れて奇襲したりも出来る。というかメインの使い方はそっち。こいつの所属する六芒星という組織は第2章において重要なので、出来たら覚えておいてください




