第154話 霧の星
フォルティの頼みによってリーヴ達が訪れた星は、深い霧に包まれたレンガ造りの建物が並ぶ星だった。辛うじて通行人の影は見えるが、すぐ近くに居るセラ達以外は顔を見る事もままならない。
「おお……霧、すごいね」
「迷子になっちゃいそう。リーヴ、離れないでね」
「リーヴさんに限らず、全員離れないようにして行動しましょう。フォルティさんは少し居心地が悪いかもしれませんが……おや?」
クオンは振り返るが、そこにフォルティは居なかった。
「フォルティさん?」
そう呼びかけても、霧の中から返事が返って来る事はなかった。
「フォル君、いなくなっちゃったんですか?」
「どうやらそのようですね……アルシェンさん、魂の位置は」
「……分からないです。濃い霧が邪魔しているのか、それとも探知できないくらい遠くに行ってしまったのか……」
「うーん。確かに頼まれたのは、この星に連れてくることだったけど」
「心配ではあるよね……探そっか」
そして、4人は濃霧の中で人探しを始めた。
一方、フォルティは同じく濃霧の中で人探しをしていた。しかしその顔はリーヴ達よりも曇っており、アタッシュケースに擬態させた武器を担いで建物の屋根を飛び渡っている。
「いかにもあの野郎の選びそうな場所だ。それにこの濃い霧……隠れ蓑には持って来いだな」
屋根の上からでは地上の様子が分かりにくい為、フォルティは一旦地面に飛び降りた。霧の中の通行人は皆頭上から人間が降って来た事に驚いてはいるものの、元来番犬のような雰囲気を纏うフォルティに怯えてそそくさとその場を離れていく。
「……別にビビる事ぁ無えのによ」
フォルティが少し不満そうに呟いた時、その背後から彼にとっては懐かしい声が聞こえて来た。
「仕方の無い事ではあるだろう?君のその狂犬のような顔持ち……直した方が良いと忠告したじゃないか?」
「……まぁこの辺に居るのは分かってたぜ、ディスガー」
振り向くと、そこには紳士的な雰囲気を纏う青年が立っていた。フォルティより少し長い髪型でインナーカラーは紫色。黒と紫を基調とした服を着ていて、顔には眼鏡をかけている。
「久しいね。フォルティ」
「全くだな。こんな形で再開するのは……望んでなかったがな」
「ああ、それに関しては僕も同感だ……それで?わざわざ星を跨いでまで僕に会いに来たのは、再開の挨拶をする為じゃないだろう?」
「……その前にだな」
フォルティは煙草に火をつけ、一息分の煙を吐き出してから言葉を続ける。一方ディスガーは煙草が嫌いなのか、常に浮かべている微笑みを少しだけ崩している。
「アンタ何で指名手配なんかされてんだ?」
「そんな事かい?罪状なら手配書に載っているじゃないか」
「そういう事じゃねえ。何でああいう事をして回ってんだって聞いてんだよ。俺の星に来たのも知ってるぜ?あれが初犯な訳じゃねえだろ」
再びフォルティが煙草の煙を吐くと、ディスガーも大きく息を吐いてから呟く。
「ふぅ……やはり、君は嫌いだ」
「ああ?」
「大して何も考えずに行動を起こす割には、半端に賢いから騙したり誤魔化すのもそれはそれで難しい……僕の最も嫌う人種だよ」
「何が言いてえ?」
一見すると対話を続けようとしているように見えるが、フォルティはアタッシュケースを大鎌に変形させている。何かを予見しているのだろうか。
「分からないのかフォルティ……!君のせいで…!」
「……そりゃ恨む相手を間違えてるぜ。まぁ……かと言って俺は俺を正当化するつもりも無えけどよ」
ディスガーは自身の近くの空間に黒い穴を開け、そこから片刄の短剣と拳銃を取り出す。
「幼い頃、君は言っていたな?『裏切りは許さない』と。そして僕達もそう誓った……誓いに準じて君を粛清しよう、かつて我が親友だった男よ」
「……やるならやろうぜ。夜が更けると近所迷惑だ」
旧知の仲が故の独特な流れで、2人の戦闘は始まった。
一方、リーヴ達は……
「……むむ。あそこ、なにかある」
「リーヴ?どうしたの排水溝なんか除いて」
「……えいっ」
「ちょっ……リーちゃん!?何で排水溝に手突っ込んでるんですか!?汚いですよ!」
「抜いて抜いて!洗濯面倒くさいから!」
「むむむ……あっ、とれた!ふふん。やっぱりお金だった。わたし、目がいい、ね」
「目は良いかもしれないけど耳は悪いみたいだね……」
「帰ったら洗濯しましょうか。一緒にお風呂も入りましょうね」
「何でクオンちゃんは冷静で居られるんですか……?」
あんたらフォルティ見つける気あるのか?




