第153話 久しぶりに、ね
第2章、ようやく開幕です
デスという同居人が増えてからしばらくした頃。ある昼下がりに、突然リーヴは思い立った。
「……そういえば最近、フォルティに会ってない」
「誰ですか?その人」
リーヴの向かいに座ってココアを飲んでいたアルシェンが、首を傾げながら聞いてくる。
「あ、そっか。アルシェンは会ったことないんだもん、ね」
「はい。そうですねぇ」
「えっと、ね。いつも煙草吸ってる、強い人。わたしを守ってくれてるみんなのありがたさを、教えてくれたんだ」
「なるほど……良い人なんですね。わたしも会いたいです!」
「なら、今日会いにいこっか」
そしてリーヴはセラ達に声をかけ、フォルティの住む星の下層街に向かった。
「ついた」
「何だか懐かしいですね……確か最初に来た時は、セラさんが攫われてしまいましたよね」
「だね。怖かったけど……今となってはもう思い出だよ」
「わたし、フォルティの家の場所、覚えてる。いこう」
4人は相変わらず荒れている街中を『てくてく』と歩いていく。アルシェンはまた知り合いが増えそうなのが嬉しいのか、いつもの2割増しでニコニコしている。
「ついた。ここ、だよ」
「来る途中に聞いた話だと、フォルティさんは『処刑人』って呼ばれてるんですよね……意外と普通の家に住んでるんですね」
「うん。近所の子ども達とも、仲良しだよ」
そして、リーヴはフォルティ宅のドアを叩き始める。
「フォルティ、フォルティ。きたよ」
皆さんご存知の通り、フォルティは自分を中心とした一体範囲内の生物の心が読める。恐らくリーヴ達が家の近くに来た時点で、この展開を予想していたのだろう。リーヴの言葉の直後にフォルティは家から出て来た。
「よう。元気だったか?」
「うん。元気いっぱい」
「ならいい。そこのピンク髪の奴は新しいお友達か?」
「はい!わたし、アルシェンって言います!よろしくお願いしますね、フォル君!」
「フォル君?」
やはりアルシェンのあだ名癖には流石のフォルティも戸惑うようだ。フォルティは軽い挨拶の後に4人を家に招き入れ、簡素な茶菓子などを出してくれた。
「おお。なんか、意外」
「何がだよ」
「フォルティの家に、お茶とかお菓子とか、あると思ってなかった」
「ああ……まぁ、な」
何故かフォルティは言葉を濁す。
「もしや……何か企みがあったり」
「うっ」
リーヴは冗談のつもりでそう言ったのだが、どうやら図星だったようだ。
「えっ……本当に、そうなの?」
「ああ。アンタらに頼みたい事があってな」
「そういえば別れ際に言ってたよね。『いつかアンタらの手を借りるかもしれない』みたいな事」
「よく覚えてるな。まぁ単刀直入に言えば、俺をとある星に連れて行ってほしい」
「それくらいなら全然いいけど、どうして?」
その時、フォルティは一瞬目を泳がせた。何か複雑な事情があるという事はリーヴにも分かったが、それを切り出す事はしなかった。
「……俺は、色々あって故郷に帰らなきゃいけねぇんだが」
「故郷……フォルティって、確かこの星で生まれた訳じゃないんだよ、ね」
「そうだ。故郷に帰ろうと思って地上にある星間移動装置のところまで行ったは良いんだが……」
そこまで話して、フォルティは短く溜め息を吐いた。
「……誰かに壊されてやがってな。俺は故郷に帰れなかったって訳だ」
「なるほど。だから、わたしの異能で故郷に帰りたいってこと?」
「半分正解だな。他にもやりてぇ事があるんだ」
「何を?」
「実はその装置を壊した野郎は、俺の知り合いなんだ」
「えっ?」
「名前は『ディスガー』。聞いた事あるんじゃねぇか?」
そのフォルティの台詞通り、アルシェンは驚いたような声を上げた。
「ディ……ディスガー、ですか?」
「ああ。アンタ知ってるか?」
「知ってますよ!様々な星を渡り歩いては星間移動装置を破壊しているっていう、重要指名手配犯じゃないですか!」
「まさにその通りだな。殺人、器物破損、不法侵入……諸々が積み重なって、懸賞金は約79億クレジットらしい」
「ななっ……!」
旅団の金銭の管理を担っているセラは思わず声を漏らす。
「んで、知り合いに行動の邪魔をされたから落とし前を付けに行きてえって訳だ。潜伏先は分かってるから、後はアンタらが協力してくれればいいんだが……」
「わたしは、いいよ。みんなは?」
「あたしも。この前助けてもらった恩返しもまだだしね」
「私は……皆さんに従います」
「わたしも賛成です!」
いつも通りのスムーズな決定だ。全員の意思を確かめた後、フォルティは座ったまま軽く頭を下げる。
「……助かる。ありがとな」
「気にしないで。さ、いこ」
そうして、5人はフォルティの示した星へと向かった。




