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大宙の彷徨者  作者: Isel


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第151話 銀の装甲

「さようなら。アナタの死になれて光栄だよ」


一握りの余燼さえ残さずに消滅した夜見を見つめながら、デスは静かに呟いた。


「さ、帰ろう。アルシェンと2人で来た入り口があるんだ」


平然とした様子で歩み寄ってくるデスに、リーヴは少し遠慮気味に問う。


「えっと……聞きたいことが、けっこうあるんだけど…」

「だろうね。でもそれは後。ここには死の気配が漂ってる……話は家でも良いでしょ?」

「死の気配?夜見はもう居ないし、わたし達が全員揃ってれば淵族も敵じゃないと思う、よ?」

「……とにかく良くない予感がするの。言う事聞いてくれる?」

「まぁ、うん。ここでやる事ももうないから、ね。依頼人に報告だけして、かえろ」


4人はデスの忠告もあってか、少し駆け足気味にその場を後にした。

一方、リーヴ達と入れ違うようにして実験場に姿を現した者が居た。四角い眼鏡をかけた怪しい雰囲気の男の研究員だ。


「ふむ……夜見が。ああ、正式名称は月夜見だったか。彼がやられたか……想定はしていたが、あの少女達に逃げられるのは計算外だった。まぁいい。早急に夜見の後継を作らねば……」


そんな事を呟きながら、彼は暗い廊下を歩いていく。しばらくして、彼は()()()の待つ一室に帰って来た。中には頭が禿げていたり眼帯をしていたりと、特徴的な数人の研究員が居る。そして、そのうちの1人が尋ねる。


「どうだった?」

「夜見は死んだ。これで邪魔される事なく研究を続けられるが……一応、夜見の後継も作っておかねばならないだろう」

「分かった。後継に関しては心配要らない。何故なら……素体は沢山あるからな」


1人の研究員が、薄暗い部屋の端に目を向ける。そこには手足を縛られ、目隠しと猿轡を着けられた男女数名の()()()()()が居た。眠っているのか、はたまた眠らされているのか定かではないが、全員静かに地面に座っている。もしリーヴ達が彼らに捕まっていたら、夜見と同様に淵気を注入されていたのだろうか。


「それでは、さっそく取り掛かろう」


室内の研究員達が実験の準備を始めた時、突然部屋のドアがノックされた。素手というよりは何か硬い物で叩いたような感じの音だった。


「……誰だ?」

「分からん。一応警戒しておけ」


室内の全員が護身用に開発した銃を構えて、近かった1人が慎重にドアを開ける。そこに立っていたのは、銀色の装甲に全身を包んだ人間(?)だった。


「誰だ?お前は」

「夜分に失礼。突然ですが、アナタ方にいくつか問題を出します」


装甲の奥から聞こえる声は男性の声だった。


「問題だと?」

「私語厳禁。以降、減点対象とします。第1問。『アナタ方は聖賢学会の会員ですか?』はい、またはいいえで回答してください」

「……はい」

(何だこの男は……地下中に巡らせてあるセンサーにも反応が無かった。何が目的だ…?)


ドアに手を添えたままの研究員が訝しんでいるのも構わず、装甲は微動だにしないまま話を続ける。


「正解。プラス50点」

(正解って何だ……)

「では第2問。『アナタ方は聖賢学会の理念を知っていますか?』これは自由回答です」


その質問を聞いた途端、部屋の奥に居た1人が叫んだ。


「簡単だ!『人工的に異能力者を創り出す事』!それこそが我ら、学会の至尊とする目的!」


さも正解を確信しているような話し方だったが、装甲の男はこれでもかと言う程分かりやすく溜め息を吐いて、首を軽く横に振っていた。


「……不正解。マイナス50点。落第です」


『落第です』の言葉と同時に、装甲の男はドアを開けた研究員の首を殴り飛ばした。当然、室内には悲鳴が響き渡る。


「落第生には補修を……ああ、勿論あの世で行われますので、開講までしばらくお待ちください」

「何なんだお前は……!何が目的だ!」

「腐りきったワタシの古巣の掃除です。最早当初の目的すら捻じ曲がっている程の腐敗具合ですが、それでも()()()であるワタシにはそれを正す責任がありますから」

「創立者だと……!?出任せを!聖賢学会は何千年も前から……」

「私語厳禁と言った筈です」


そう言って、彼は装甲の右手のひらから熱線のような物を発射した。当然命中した研究員は跡形も無く蒸発している。


「さぁ、大掃除の始まりです」


それから行われた事の内容は、今見せられた装甲の機能から考えれば想像がつくだろう。血の海と化した研究室の中に、銀の装甲が1人佇んでいる。


「……終わりですね。もう生体反応は無い……あとはこの子供達を地上に返せば」


それからしばらくして……


「……ん。あれ、ここは……」

「ぼくたち、肝試しに入った時に変な男の人に連れて行かれたんじゃ……」

「……あ!もうこんな時間!早く帰らないと!」


地上に戻った子供達は、蜘蛛の子を散らすように家に帰っていった。その様子を、あの銀の装甲が研究所の屋根の上から見下ろしていた。しっかりと子供達の帰宅を見届けた装甲の男は、『ふぅ』と一息ついて兵装を解いた。すると、銀の装甲は一瞬にして細かく分解されていき、中の人間が左手に着けている腕輪に格納された。装甲の中から出て来た男は薄い緑色をした長めの髪をしており、いかにも『学者』といった黒い服に身を包んでいた。


「……学会の理念。今は捻じ曲がってしまいましたが、それも正した。『人の手で神を超越する』……必ず実現させてみせます。神無き世界の為に」


そう呟いてから、彼は屋根から飛び降りて姿を消した。

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