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大宙の彷徨者  作者: Isel


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第150話 夜は沈んで死が昇る

ようやく救援に駆けつけられたクオンは、夜見の実力が高いと判断して全力を出す決心をする。


「……お任せします。リーヴさん達を守ってください」


クオンが大鎌を手放すと、彼女の周囲に沢山の蝶が集まり始めた。しかしそれは以前に見た紫色の蝶ではない。どこか不吉そうな赤色をした、不気味な蝶だった。


「……ふふ。久しぶりだね。外に出るのは」


蝶の渦から出て来たクオン(?)は、様々な物が変わっていた。髪は白色、目は赤色、服もクオンより露出の少ない暗い色をしており、その顔には虚な笑みを浮かべている。口調も明らかに異なっており、リーヴ達は見るからに戸惑っている。


「く、クオン……?」

「アタシはクオンじゃないよ、彷徨者さん。それに、エタナクスでもない。アタシは『デス』。生きとし生けるものに、平等に降り注ぐ雨。つまり、あのクオンの中の『死』の部分だよ」

「クオンの……死の部分?」


何とか喋れるくらいまで回復したセラが、いつもより若干か細い声で尋ねる。


「そう。あの子の権能が2つあるのは知ってるよね?普段のあの子の力は『夜』が6,7割、『死』が3,4割の状態……だから、攻撃を食らっても即死はしないんだよ。でも、あの子が本気を出すと決めた時……もしくは、あの子が危なくなった時。アタシ()が出るって決めてるの」


そういえばクオンは、『全力を出すと驚かせてしまうかもしれない』と言っていた。確かにその通りだ。クオンが二重人格(?)とは誰が予想していただろうか。


「……ま、詳しい事は後で話すよ。まずは目の前の問題を片付けなきゃね」


そう言うと、デスはどこからともなく妖しく赤い光を放つランプを取り出した。


「鎌、つかわない、の?」

「そうだよ。アタシはあんまり運動が得意じゃないから。さぁ、おいで」


デスが右手に持ったランプを軽く揺らすと、その中から先程の赤い蝶が現れた。


「……蝶?この俺相手に虫如きで対抗するだと?」

「脆そうだからって侮っちゃダメだよ。どこかの文化では、蝶は死の象徴とされてるんだ。ほら、アナタの側に……死が居るよ」

「……!」


夜見は足元に違和感を覚えて視線を落とす。すると、彼の足首に1匹の蝶が止まっていた。血か何かを吸っているのか、夜見はチクリとした微痛を感じる。


「鬱陶しい!」


蝶はヒラヒラと夜見の刀を躱し、デスの周囲に帰ってくる。


「この子、アタシは『死蝶』って呼んでるんだ。相手の命とか精気とかを吸って、魔力に変換して蓄える習性があるの。可愛くてお利口なアタシの眷属だよ」


デスは夜見を前にして尚、余裕そうに死蝶と戯れている。


「なるほどな……しかし所詮は虫だろう?焼き尽くしてしまえば問題無い!」


そう叫んで、夜見は再び天井から黒焔の矢を降らせる。


「元気だね。ならアタシも少し派手にやろうかな」


デスはその場から動かないまま周囲を見渡し、先程夜見に焼き斬られた淵族の死骸を見つけた。


「……うん。あれがいいかな。さ、行って」


降り注ぐ黒焔の雨を意にも介さず、デスは死蝶を淵族の死骸に群がらせる。


「デス……なにしてる、の?」

「ちょっと力を貰ってるの。アタシは『死』だから、生物の死体は1番良い栄養になるんだよ。死蝶(あの子)達にとってもね」


程なくしてデスは死蝶を回収し始める。しかし夜見とてその隙を逃す程に愚かではない。


「悠長だな見知らぬ女よ!警戒の1つも無しとは……」

「してるよ。ほら、そこ」


デスが指差した先は飛びかかって来る夜見の丁度死角で、そこには赤い光を放つ1匹の蝶が舞っていた。


「さようなら」


デスが合図を送った瞬間、死蝶は激しく爆発した。先程のデスの解説から察するに、溜め込んだ魔力を死蝶自身の命ごと解放したのだろう。


「くっ……!何だこの威力は、ふざけている…!」

「ふざけてないよ。今のアタシは大真面目。あの子にお願いされたからね」


デスは自身の周囲に大量の死蝶を纏わせていく。クオンがデスに変わる時と同じように。


「ふぅ……さて。少し運動しようか」


死蝶の中から出て来たデスはランプではなく、赤黒く禍々しい大鎌を持っていた。それだけではない。何やら血のような色の魔力を纏っており、死蝶にも負けず劣らずの不気味さを醸し出している。


「……フッ。先程の光の奴よりは歯応えがあり……」


夜見の不敵そうな台詞の最中に、デスは不気味な不協和音と共に夜見の背後へ瞬間移動する。


「アナタ、喋るのが好きなんだね」


そして夜見に向かって鎌を振り下ろし、夜見を地面に叩き落とす。


「ぐはっ……これしき!」


夜見は負けじと黒焔の旋風を巻き起こし、デスの追撃を阻止する。しかし、そもそもデスは追撃など狙っていなかった。再びリーヴ達の前に降り立ち、呑気で気の抜けた欠伸をしている。


「ふあぁ……久々の運動は疲れるよね。さっさと終わらせようよ。学会の兵器、月夜見さん?」

「……!俺は……俺は奴らの傀儡などではない!」


夜見は刀の切先を掲げ、巨大な黒焔の塊を作り出す。その温度や熱量は言うまでもなく、黒い太陽と見紛う程だった。


「灰も残さず燃やし尽くしてやろう!」

「ふーん……確かにちょっとやばいかも」


デスがチラりと背後のリーヴ達に目を向けた途端、夜見の生み出した黒い太陽が消滅した。見ると、リーヴが夜見に向かって手をかざしている。


「貴様……役立たずではなかったのか!」

「ううん。これしかできないんだもん、わたしは役になんか立ってない、よ」

「ありがとう、彷徨者さん。暑いのは嫌だし、もう終わりにするね」


デスはいつの間にか武器をランプに持ち替え、そこから大量の死蝶を召喚する。


「さぁ、解放の時間だよ。落ち着いて、目を閉じて、どうか安らかに……」


そしてデスは全ての死蝶を夜見に向かわせ、死蝶の群れは夜見の周りで渦を巻き始める。


「アナタの今際、アタシが見届けるよ」


その言葉を合図に、全ての死蝶が爆発して赤く輝く光柱を作り出した。夜見は叫び声を上げていたようだが、それも爆発音に掻き消されていった。

音が止んだ時、爆風の影響か夜見は宙に舞っていた。自身の敗北を悟った彼は、敗北と同時にある事を悟ったようだ。


「……ああ、そうか。これが……これでようやく………自由だ……!」


生まれたばかりの赤子のように、あるいは生にしがみつく亡者のように、虚空に手を伸ばしながら、夜見は黒焔に包まれて消滅した。

今回使用した技

デス

・おいで

→死蝶を召喚する


・いって

→死蝶に対象の命や精気を吸わせる


・さようなら

→死蝶を自爆させる。私からは全生命引き換えアタックと呼ばれている。だって同じ虫だし良いじゃん


・dear your death

→デスの大技。まぁやってる事は大量の全生命引き換えアタック。ちなみに結局こいつはまだ本気を出してないので、今後のストーリーで出せると良いですね。

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