第144話 怨嗟は滾りて憎悪が燃ゆる
どっかで言ったかもしれない豆知識
キャラが技を打つ前に台詞を言うのは、特定の感情を高めて威力を底上げする為です。
またあんまり関係ありませんが、後天的に異能が発現する時は必ず何らかの感情が高まった事が原因になっています。流離理論は魔力の有無に関わらず適用されるんですね。
獣のような雄叫びを上げ、禍々しい色の禍焔を全身に纏って夜見は再び襲いかかってくる。
「消えろ!!」
夜見は突進しながら、逆手持ちにした右手の剣に禍焔を集中させている。魔力で生まれた焔が故に微細な性質は本物の炎と異なるのか、禍焔は猛り上がると共に不協和音を発している。
「リーヴ伏せて!」
セラの忠告の直後、夜見は全力で右手の剣を振り抜き、集めた禍焔を斬撃状にして解き放つ。回避は出来たものの、リーヴ達の後方からは焔が猛る音と壁が削られていく音が聞こえてくる。
「この怨みを持って……貴様らの罪を焼滅しよう!」
間髪入れずに夜見は突きのような構えを取り、再び刃部に禍焔を集中させる。そして突きを放つと同時に、夜見は直線状に禍焔の波動を発射する。何度も言っているようにこの通路は狭いので、セラでも回避は紙一重になってしまう。その上、夜見は禍焔の波動を連発してくる。再発動には一瞬の溜めが要るものの、どこかリズムゲームのような感覚で攻撃が繰り広げられていく。
少しの間保たれていた均衡が崩れたのは、セラが通路の壁に身体をぶつけた時だった。夜見はそれを好機と捉え、すぐさま禍焔の波動を放つ。
「くぁっ……!」
体勢が崩れた事により直撃は避けられなかった。セラの身体は丁度先程の夜見のように吹き飛ばされ、地面に転がる。
「セラっ…」
リーヴはセラに駆け寄ろうとするも、地面すら燃やす禍焔に阻まれて叶わない。
「あ、そうだ……」
しかし、リーヴももう無力ではない。地面を這う禍焔を消去し、セラの下へ駆けていく。
「あたしは平気だから……自分の身を守って」
いかにセラと言えど、実質的に魔力が使えないこの戦闘は厳しい物があるのだろう。そんな間にも、夜見は勝利への王手をかけんと追撃の準備をしている。
「返せ……返せ……俺の自由を返せ!!」
夜見は纏う禍焔をより一層強め、セラとリーヴの周囲を駆け回って斬りつける。その際にも禍焔は振り撒かれるだけでなく、禍焔は爆発する性質を持っている。リーヴが権能である程度消してはいるものの、2人の体力は徐々に削り取られていく。
「お前は後だ」
「うぇっ……」
夜見はほとんど無害なリーヴをも容赦なく蹴り飛ばし、脅威と認定したセラを先に片付けようとする。
「リーヴ……ううっ!」
「仲間が大事か?なら良かったな、すぐに両方あの世に送ってやる予定だからな!」
セラの動揺を感じ取った夜見は、牽制を止めてトドメを刺しにかかる。双方の剣に禍焔を纏い、まるで亡霊武者のような鬼気迫る勢いで連撃を叩き込む。セラは最初の2撃だけ受け流せたが、体力の消耗も激しかった為、振り下ろされた3撃目の斬撃で武器を片方弾かれてしまった。
(まずいっ……!早く逃げ…)
セラの思考が一段落つくよりも先に、剣に纏わせた夜見の禍焔が今にも爆発しそうな程に大きな不協和音を立て始める。
「くたばれぇぇっ!!」
そして、夜見は渾身の一太刀を地面に向かって振り下ろす。一気に放たれた禍焔は3方向に広がっていき、壁に反射しながら直線の通路を全て焼き尽くす。
「……邪魔するからだ」
夜見は手応えを感じて禍焔と双剣を消し、未だ燃え続ける通路を一瞥しながら去ろうとする。その時だった。
「セラ、今だよ!」
「うん!」
猛る禍焔の中から小さな光の球が飛び出して来て、夜見を通り過ぎた辺りで炸裂する。
「ぐっ……!小賢しい真似を…!」
「リーヴ!今のうちに逃げよう!」
セラはリーヴの手を引いて、夜見が居る方向とは反対側に駆け出した。よく見ると、夜見の禍焔が1つの箇所を区切りにして不自然に消えている。恐らく、リーヴが消したのだろう。それを知る由もない夜見は、恨み言を叫びながら視界の回復を待つのだった。
一方その頃、クオン達は……
「疲れましたねぇ……ちょっとお休みしましょうか」
「わかりました。一応危険が無い訳ではないので、私が見張っておきますね」
「そんな。クオンちゃんだって疲れてるんじゃないんですか?」
「まぁ、否定はしませんが……とにかくアルシェンさんは休憩してて大丈夫ですよ」
「いやいや、わたしも見張りますよ」
「しかし今まで道案内されていた身だというのに、私だけ休むというのは……」
「じゃあ2人で見張りましょう!」
「はい………はい?」
見張りってなんだろうか。
今回出て来た技(と特殊状態)
夜見
「禍焔覚醒状態」
→全身に禍焔を纏っている状態。ぶっちゃけそれだけだが、近づくには注意が必要
「禍焔斬」
→名前の通り禍焔を集めてぶった斬る。縦に放つ事も可能。切れ味は抜群で使い勝手もそこそこ良いが、使い過ぎると禍焔が無くなってダウンのような状態になる
「禍焔波動・穿」
→禍焔の衝撃波を放つ。遠くで当たればめっちゃ熱いだけで済むが、至近距離で食らうと結構痛い。こっちは禍焔の燃費が良い。代わりに破壊力は禍焔斬に劣る
「三叉禍焔剣舞」
・走り回って爆撃(?)した後に渾身の斬撃を入れる。最後の一撃に関しては直線でやられると致命傷はほぼ確実。リーヴが居なければ割と詰み。




