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大宙の彷徨者  作者: Isel


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第142話 禁忌に触れた代償

どれくらい落下していただろうか。数分のようにも数十分のようにも感じられたが、とにかく今はもう落下は止まっている。


「う……リーヴ、大丈夫?」

「うん……平気」


2人はまだぐわんぐわんする頭を押さえながら立ち上がり、ひとまずエレベーターの中から出てみる。


「ここの様子……さっきまであたし達が居た場所とは違う。比べ物にならないくらい不気味だよ……」

「確かに。地下だから、暗いって言うのもあるのかもだけど。それにしても……いやな空気が漂ってる、ね」

「とりあえず、上に戻る方法を探そう。大丈夫……いつも通り、あたしが守るから」

「ありがとう……ごめんね。わたしのせいで…」

「気にしないで。この経験から学んで、次からは無闇に変なボタンは押さないようにしてくれればいいから」


とは言いつつも、セラはリーヴの服の袖をちょっとだけ掴んでいる。2人は暗い闇の中を歩いていき、何とかここから脱出を試みるのだった。


「あ、そうだ」


不意にセラが呟くと、次の瞬間、セラが淡く発光し始めた。何だそれ。


「これで少しは見やすくなったと思うけど……どう?」

「おお。足元、明るい。ありがとう」


なるほど、明かりとして使うのか。便利だな極光の戦士。


「段々目が慣れてきたけど……それでも真っ暗だね」

「前に調べた限りだと……学会は淵気って言う危険な魔力を人に投与して、異能を持った人を創り出そうとしてたんだよね」

「たしか、そう。でも、結局全部失敗しちゃって、実験台になった人はみんな淵族っていう魔物になっちゃった……って話だったと思う」

「何の為に異能を求めていたんだろう……確かに便利ではあるけど、別に無くても困らない気がする」

「さぁ……」


その時、リーヴは何かを感じ取った。


「……まって。何かきこえる」

「えっ……あたし達以外に誰か居るの?どんな音?」

「何かが……這いずるみたいな音が」

「…本当だ。聞こえる」


リーヴは後ろの通路を振り返り、よく目を凝らしてみる。そして、すぐさま元の方を向いてセラの身体を壁側に寄せる。


「りっ……!リーヴ……?」

「セラ……動かないで。多分……音を立てなかったら、大丈夫だから」


リーヴはセラより身長が高い。それ故、期せずして今の2人の位置関係は所謂『壁ドン』のような形になっている。


(リーヴの顔が……いつもより近い…!ダメダメ、今はそんな事考えてる場合じゃ……!)


そんな風な思考を巡らせるセラだったが、その後すぐにその思考は消え去る事となる。リーヴがさっき覗き込んだ通路から現れたのは、両目を縫い付けられて、下半身が無く、腕の力だけで地面を這う人型の淵族だった。


「めを かえせ はなを かえせ」


生気を感じない声で呻きながら、その淵族はリーヴ達のすぐ前を這っていく。


「………!」


セラはこの時点でかなり恐怖が限界に近くなっていたが、どうにか声を抑えて耐えている。

その時、淵族の正面辺りに小さなネズミが飛び出してきた。高音の鳴き声を発しながら通路を走り回っていたが、次の瞬間……


「じゃまだ」


淵族が右腕を伸ばすと、ネズミは跡形も無く細切れにされた。恐らく音を立てた物の攻撃する性質を持っているのだろう。


「〜〜〜〜〜っ!!」


それを直視してしまったセラは更に恐怖が加速し、喉の奥から細く声を漏らす。目が閉じている分耳が良いとか、淵族は辺りを見回している。


(セラ、心音が速くなってる。怖い……のかな)


リーヴはそっとセラの鳩尾の辺りに手を添えて、優しい銀色の光を放つ。すると、セラの中の恐怖心が即座に薄れて行き、心拍も徐々に普通のペースに戻っていく。


(落ち着いてきた……リーヴ、何かしてくれたのかな)


それから程なくして、這いずる淵族はどこかへと去って行った。それを確認した2人は……


「「はぁぁぁぁぁぁ……」」


大きく安堵の息を吐いた。


「ふぅ……危なかった、ね」

「ありがとう、リーヴ。あんな事も出来たんだね」

「うん。段々、力の使い方、わかってきた」

「そっか。じゃあ、探索を続けよう……」


その瞬間、2人の耳に不気味な笑い声が聞こえてきた。


「キャハハハハハハハハ!!」


その直後に斬撃のような音が数回聞こえ、そして何かを殴り潰して引き千切るようや音が聞こえてきた。


「な……なに…?」

「いい予感はしないけど……一応見に行ってみよう」


2人が音のした場所に向かっていく途中、曲がり角に差し掛かった。それと同時に、何かが2人の足元に投げ捨てられた。

それは、先程2人(主にセラ)を震え上がらせた這いずる淵族の生首だった。


「これ……」

「…ここを曲がった先に、どんな強い淵族が居るんだろう」


2人の廃墟探索は、まだまだ続く。

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