第15話 さむい、ね
リーヴの能力の仕様
・ランダム転移は1日1回
・転移する先の風景がある程度詳細に想像出来れば何回でも使える
・基本的に使ってるのはランダム転移
・上記の仕様について、リーヴ本人はなんとなく理解している
村長に冷却塔の暴走を止める事を依頼されたリーヴとセラ。その翌朝、2人は朝食を済ませて宿から出て来た。
「おいしかった」
「久しぶりのご飯だったもんね」
「うん。セラの家で、たべた時以来」
2人は昨日の夜に村長と別れる前、準備の為の資金として幾らかの金を貰った。
「このお金で防寒具とか買いに行こうか」
「そうだね。このさむさの原因の場所…近づいたらもっとさむいはず」
2人は雑貨屋に向かい、厚手の防寒着と野宿用の調理器具を購入した。
「おお…ほんとに、その紙と物を交換するんだ」
「うん。これは『クレジット』って言ってね、この世界の基本的な共通のお金なんだ。まぁ、一部の星は違うらしいけど…」
「ふぅん」
その時、セラはとある事を思い出す。
「そういえば…こういう寒い地域だと、金属の柵とか舐めたら大変な事になるらしいよね。確か…舌がくっついちゃうんだっけ」
「へあ」
リーヴの口を開けたまま喋っているかのような声に、セラは若干嫌な予感がした。
「な…何?」
「ほえない」
セラが横を向くと、道端の柵に舌がくっついたリーヴの姿があった。
「何でやっちゃいけない事を片っ端からやるの君は〜!」
セラはなんとかリーヴの舌を柵から剥がした後、リーヴの両頬を引っ張る。
「い、いたい、いたいよセラ!」
(もちもちだ…)
その後数分間に亘って、セラはリーヴの頬を触り続けたという。
「じゃあ、準備も出来たし行こっか」
「うん。強いていうならわたしのほっぺが無事じゃないけどね」
心なしか、リーヴの頬が少し伸びているように見える。
「ご…ごめん。思ってたより触り心地良くて」
「それは、よかった」
「良いんだ…」
2人は村長に貰った地図を見ながら、冷却塔へ出発した。
「村の外はやっぱりさむい、ね」
「本当に昨日聞いた方法で…この寒さが収まるのかな」
「でも、やるしかない、よ」
「…そうだね」
2人は村を後にして、冷却塔のある方角へ進んでいく。
「みて、セラ。あそこの魔物、もふもふ」
リーヴが指差した先には、体毛の濃い虎のような姿をした魔物が居た。
「ふわふわそう。さわりたい」
「えっ……と、それは…やめといた方が…」
セラが苦笑いで止めるのも無理はない。何しろ、その魔物はリーヴを余裕で丸呑み出来るほどに巨大なのだから。
「むぅ…ちょっと、ちょっと近づくだけ」
リーヴは忍び足で魔物に近寄る。幸いな事に眠っているようだが…
「あっ」
「あっ」
足元が雪なのでバランスが取りにくく、リーヴは『ベシャッ』と音を立てて転んでしまった。見ていたセラも、つい同じような声を漏らす。
「!!!!!!!!!!」
その音で眠りを妨げられた虎の魔物は、苛立ちからか大きな咆哮を上げる。
「す、すみませんでしたぁぁぁ!」
セラが正しく光の速度でリーヴを回収し、遥か彼方まで飛んでいく。
「ごめん、セラ。次からは足元をよくみる」
「いいよこれくらい。リーヴを守る為に、あたしはリーヴと一緒に居るんだから」
優しそうに微笑むセラを見て、リーヴはその何も映っていないかのような目を少し輝かせる。
「セラ…!ありがとう。すき」
「ふぇっ!?…い、いきなり過ぎない…?」
「だって、これ以外に言葉がみつからない」
「う……そうだとしても、無闇に他人に『好き』って言っちゃダメだよ?」
「むぅ…わかった。じゃあ、セラには?」
「えっ?」
「セラには、すきって言っていい?」
セラは顔を若干赤く染め、数秒ほど悩んでから小さく呟く。
「………いいよ」
「やった…ふふ。セラ、だいすき」
そう言いながら、リーヴはセラの右腕に抱きつく。
「リーヴ…歩きづらいよ」
「でも、こうするとあったかい、でしょ?」
確かに冷却塔に近づくにつれて、段々と防寒着を着ていても寒さを感じるようになっていた。
「確かに…リーヴ、体温高いもんね」
「ふふん。わたし、役にたってる」
得意そうに拙く微笑むリーヴを見て、セラも思わず笑みが溢れる。
「ふふ…でも歩きづらいのは確かだから、代わりに手繋ご?」
「うん。いいよ」
またしばらく歩いた頃、吹雪の奥に倒壊した塔の残骸のような物が見え始めた。塔は途中で折れており、周囲には巨大な氷柱が四方八方に伸びている。
「着いた、ね」
「これが冷却塔…すっごい寒い」
2人がなんとなく辺りを見回していると、リーヴが信じがたい物を発見する。
「セラ…これみて」
リーヴが発見したのは、凍りついて氷像と成り果てた多様な形の魔物だった。
「この氷柱も、凍りついた魔物達も…村長さんの話で聞いた『大爆発』で出来た物なのかな」
「たぶん…わっ」
突然、リーヴの眼前に何かが落ちて来たようだ。
「リーヴ?今度は何を…」
リーヴの前に落ちて来たのは、魔物達と同様に凍りついた生物だった。ただし、今回のは人型の魔物などではなく、歴とした人である。
「これ…ひと?なんで…」
「塔から落ちて来たって事は…前に冷却塔の暴走を止めに来た人なのかな」
2人はとりあえずその人間だった物を埋葬し、塔の扉の前に立つ。
「よし…行こう、リーヴ。あの玉は持った?」
「うん。ちゃんとポケットに入ってるよ」
リーヴが頷くと、2人は同時に凍りかけている扉に手をかけた。
豆知識
魔物は基本的に生物の死骸に魔力が取り込まれて生まれます。
今後作中にも出ますが、人型の魔物も普通に居ます。




