第137話 雨中を彷徨う者達
アルシェンの故郷である星に降る止まない雨。その原因が、過去に迷魂となったアルシェンの姉なのだという。アルシェンは例え命と引き換えになろうとも姉を救うという意志を、そして、絶対に生きて帰るという意志を示し、リーヴ達と共に姉の下へ向かうのだった。
「そういえば、さ。アルシェン」
「はい?」
「迷魂相手にわたし達ができる事って、あるの?」
「確かに……迷魂って、多分触れない…よね」
セラもリーヴと一緒になって考え込んでいる。
「そうですね……無くはないですよ。というか、わたしは迷魂に触れられるようになる術も使えますので、安心してください!」
「なら……安心だね」
また、しばらく沈黙が続いた。どことなく空気が重いのは雨のせいなのか、それともアルシェンの命が失われるかもしれないという不安からか。定かではない。
「……そもそも、なんでアルシェンのお姉ちゃんは、雨を降らせてるんだろう」
不意にリーヴが呟いた。
「確かに……理由、見当もつかないよね」
「アルシェンさんは何か分かりますか?」
「それが……正直なところ、わたしにも分からないんです。お姉ちゃんはお母さんとお父さんが亡くなった後、1人でわたしを育ててくれてたんですが……その…ある日、理由もよく分からないまま死んでしまって、迷魂として蘇って……その時、お姉ちゃんが異能を使って雨を降らせ始めたのを見たんです」
「未練の残りやすい亡くなり方と言えば自殺ですが……お姉さんもそうだったのでしょうか?」
「分かりません…が、だとすればどうして、何も言わないまま逝ってしまったのでしょう。わたしは…頼りなかったんでしょうか?」
アルシェンは再び表情を暗くする。やはり死だの何だのという話になると、当然ながら雰囲気は重くなるものだ。
「……いえ、違うと思います」
「クオンちゃん…?」
「きっと。あなたを不安がらせなくなかったのでしょう。私には姉妹は居ませんが、似た存在は居たのでよく分かります。兄や姉という生き物は、弟や妹に弱い所を見せたくないのです。それも含めて……この後、話を聞けると良いですね」
「…はい。ありがとうございます」
少しだけアルシェンの顔に明るさが戻ったようだ。その雰囲気を維持しようと、リーヴはすかさず話題を捻り出す。
「アルシェンのお姉ちゃんはさ、どんな人だった、の?」
「正直あんまり覚えてないですが……少なくとも、まだお姉ちゃんも子供だったのに、わたしを1人で育ててくれるくらい優しい人でした……あ、それと」
「お姉ちゃん、恋人が居たらしいんですよね。時々わたしのお家に知らない男の人が来てたので、その人は誰なのかって聞いてみたんですよ。そしたら『大切な恋人』って」
「恋人かぁ……居たって事は、アルシェン以外にも優しくしてる人だったんだね」
「はい、記憶はほとんどありませんが……今でも自慢のお姉ちゃんです!」
そう語るアルシェンの顔は心の底から嬉しそうであった。彼女は本当に姉を愛し、慕っているのであろう。だから決めたのだ。迷魂となった姉の未練を晴らす為に、やれる事なら何でもやると。
「もうそろそろ着きますよ。お姉ちゃん、わたし達の昔のお家に居るようですね」
やがて、4人は目的地の近くまでやってきた。すると真っ先に目に入ったのは、寂れた一軒家の屋根の上で傘を差し、何かを歌いながら踊っている女性の姿だった。




