掛け合い集① 〜旅団と愉快な仲間達〜
一部の話に百合要素があるので、苦手な方はご注意を
①「純情に冗談は通じない」
ある日、ノーノゥとリーヴは近くの茶店で甘味を堪能していた。ちなみにノーノゥの奢りだ。リーヴは至極幸せそうな顔でケーキを頬張りながら、ノーノゥと他愛の無い話をしている。不意に、ノーノゥが手元のアイスコーヒーをストローでかき混ぜながら呟いた。
「……一体僕は、いつになったら終わりを迎えられるんだろうね」
己を嘲るかのような笑みと共に放たれたその言葉は、ノーノゥにとっては冗談半分のつもりだったのだろう。しかし、正面に座る灰髪の少女は何故かケーキを食べる手を止めた。
「どうかしたかい?」
相変わらず自嘲気味な笑みを浮かべて問うノーノゥだったが、リーヴの返答は彼の予想とは大きく異なっていた。
「……そんな悲しい想像、したくないよ」
いつもほわほわとしているリーヴが、その時はかなり真剣な表情になっていた。ノーノゥも彼女の心情に気づいたのか、慌てて取り繕う。
「はっ……はぁ?冗談じゃん。そんな顔するなよ、僕は死なないから」
「……ほんと?」
「ああそうさ。伝わりにくい冗談を言って悪かったよ」
ノーノゥはそう言いながら、リーヴの額を指で軽く弾いた。
「いたっ…なにするの」
「……ふん」
素っ気なく顔を背けるノーノゥだったが、その顔はどこか嬉しそうでもあった。
②「最早ただの変態」
アルシェンの提案で、一行はサンサーラに会う為に浮月を訪れた。
「おや、アルシェン、エタナクス。他の2人も久しぶりですね」
「はい!お久しぶりです、先生!」
「アナタのこれまで旅に、何か実りはありましたか?」
「沢山ありますよ!リーちゃんとセラちゃんは、わたしと色々遊んでくれますし……クオンちゃんはわたしの知らない事をいっぱい教えてくれます!」
元気いっぱいに話すアルシェンの横で、セラが頷きながら呟く。
「確かに……クオンの言葉って勉強になるし、何か深みがあるよね」
「まぁ……ありがとうございます」
『うふふ』と笑っているクオンだったが、そんな彼女にわざと聞こえるようにサンサーラは呟く。
「そりゃ、エタナクスは10000歳超えのババ…」
サンサーラが言い終わるより先に、クオンがサンサーラの胸ぐらを掴んで付近の茂みに連れ込んだ。そしてその直後、おおよそ普段のクオンからは想像も出来ないような打撃音が聞こえて来た。
「痛った!!ちょっ…!ヒールで踏むのは流石に待って!待ってくださいエタナクス!」
「待つ義理などありません。私は年齢を言及されるのが嫌いなんです」
「ワタシはアナタにどうしても……どうしても伝えたい事があるんです!」
「……何ですか」
「今パンツ見えたw」
「…っ!変態……!」
その後、サンサーラがどうなったかは想像に難くないだろう。
③「香水」
今まで言及していないので知る由もないだろうが、セラは普段から少しだけ香水をつけている。最近になってリーヴもそれに気づき、香水に興味を持ったらしいので、セラとリーヴは百貨店を探して訪れたみた。
「セラが使ってるのは、どういうやつ?」
「そんなに特別な物じゃないよ。あたしでも買えるような、お手頃なやつ」
と言いながら、セラは薄いエメラルド色の液体が入った小瓶を手に取った。
「それ?」
「うん。ここじゃなくても、どこにでも売ってるよ」
「買おうかな。ちょっとまってて」
リーヴはポケットからお金を出してその香水を買い、早速うなじの辺りに吹きかけてみる。
「おお。セラの匂いがする」
「あたしの匂いじゃないよ…?」
「……ふふ。これがあれば、セラと離れてる時があっても寂しくない、ね」
ご機嫌な様子で香水を眺めているリーヴの腕を、セラは少し不機嫌そうに掴む。
「…?どうした、の?」
「本物が……ここに居るじゃん。あたしと居る時は…あたしを見てよ」
「ふふ。わかった、よ」
照れくさそうに呟くセラに向かって、リーヴはいつものように微笑んだ。
④「君のおかげで」
少し久しぶりにテントで眠る事にした夜中、リーヴは隣で寝ていた筈のセラが布団から抜け出している事に気がついた。
(外かな……?)
なんとなくリーヴがテントの外に出てみると、予想通りに星を眺めているセラが居た。
「セラ、眠れない、の?」
「……うん」
「なら、さ。眠くなるまでお話し、しよ」
「いいよ。……じゃあさ、あたしの話…聞いてもらっていい?」
「うん」
リーヴはセラの横に腰を下ろし、話を聞く姿勢を取る。
「……あたしさ、小さい頃から…寝るのがあんまり好きじゃなかったんだ」
「そう、なの?」
「寝ると…知らない人が沢山出て来て、あたしに恨み言を言ったり、血塗れの手であたしの服とかを掴んでたり……そういう夢を見るから」
「それは……つらい、ね」
「うん。小さい頃は意味が分からなくて怖かったんだけど…今なら分かる。あたしの夢に出て来る人達はきっと、昔のあたしが戦場で殺した人なんだな…って」
「…」
リーヴは何と返答すれば良いか分からず、黙り込んでしまう。
「でも……ね」
セラは一瞬だけ目を閉じて、リーヴの方を向いてから再び目を開けた。
「君のおかげかな……最近は、寝るのが少し楽しみなんだ」
「わたしの、おかげ?」
「うん。ああいう夢を見るのは相変わらずだけど…ほら、あたし達はよく一緒に寝てるでしょ?だから、君があたしの側に居るからって思ったら……安心出来るんだ」
「怖くない、ってこと?」
「正直、怖くはあるよ。でも…君と寝てる時は、あの悪夢以外の普通の夢も見られるんだよ」
「じゃあ、わたしは役に立ってるってことだ」
少し胸を張って言うリーヴに微笑みながら、セラは今の星空の色のように澄んだ声で返す。
「ふふっ。そうだね……これからもよろしく、リーヴ」
⑤「猫とリーヴ」
最近、リーヴは散歩が気に入っているらしい。今日もこれといった目的は無しに散歩に出かけた。その道中、リーヴは街中で3匹の猫を見つけた。
「おお、猫。かわいい」
リーヴは仄かに目を輝かせて、その猫達の近くに寄ってしゃがむ。それぞれ銀色とピンク色と紫色の毛が生えている猫だった。
「ふふ…あなた達、わたしの友達ににてる、ね」
リーヴはニコニコしながら、毛繕い中の3匹を眺めている。
「左のあなたは…セラ。真ん中はアルシェン……右はクオン……ふふ。あなた達はどこからきたのかな?」
リーヴが文字通りの猫撫で声でそう問いかけた時、後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた。
「ルミエイラだよ」
「浮月です!」
「まぁ……うふふ」
今の今まで、リーヴが思い浮かべていた3人の仲間達だった。
「み……みんな…もしかして、見てた…?」
「うん」
「いつから…?」
「最初の方からですよ!」
「リーヴさん……可愛らしいですね」
完全に油断していたリーヴは、恥ずかしさなどの雑多な感情からセラ達をポコポコと叩き始めた。無論、全くと言っていい程ダメージは無いが。
「わすれて…わすれて…!」
「あはは。やだよ、可愛かったし」
その日から数日間、食事の度にその話が持ち出されたとか。
⑥「幾千年の時を経て」(前作の微ネタバレを含みます)
「やあ、久しぶりだね」
そう言いながら夢界ハウスに現れたのは、かつてリーヴ達と共に戦った『全てを知る者』であるアルヴィースだった。
「あ、久しぶり、だね。アルヴィース」
「うん。ところで、他の人は?」
「クオンとセラはお買い物で、アルシェンは部屋で寝てるよ」
「ふーん。そう」
アルヴィースは短くそう言うと、近くのソファに腰を下ろした。
「今日は、何しにきたの?」
「いや、特に何も。ただ強いて言えば……君が僕に用事あるんじゃない?彷徨者さん?」
いたずらっぽい口調で言いながら、アルヴィースはリーヴに指先を向ける。相変わらず全てお見通しのようだ、とリーヴは思いつつ、心の内を吐露する。
「…うん。ノーノゥから、きいたの。あなたの、過去のこと…」
「僕の?あの子が?」
「そう。聞いた話だと、あなたはこの世界の全てを知って、それらに干渉出来る……代わりに、世界中の生き物が感じている心と身体の苦痛を常に受けてる……んだよね?とても……耐えられないくらいの」
リーヴはノーノゥに聞いた話を思い出しながら、アルヴィースに確認を取る。
「そうだよ。それが?」
「…今も?」
「うん」
「その……痛い?」
「そりゃ痛いし苦しいさ。世界って広いからさぁ、皮膚も筋肉も骨も内臓も…全身余すところ無く痛いよ。おまけに感情まで流れ込んで来るから……僕の情緒って割と不安定なんだよね」
やたら軽い口調とは裏腹に、聞くだけでゾッとするような事をアルヴィースは淡々と述べる。数千年以上そんな生活を送っていれば、もう流石に慣れるのだろうか。
「で、何が言いたいの?それの確認がしたい訳じゃないでしょ?」
「…うん。その……謝り、たくて」
「は?何で?」
「だって……あなたはアイオーンに……前世のわたしに作られた存在なんでしょ…?なら、あなたのその痛みや苦しみは、全部わたしのせいってことだから……ごめん」
「……ふっ、ははっ」
リーヴの真剣な謝罪を聞いたアルヴィースは、意外にも小さく笑みを溢した。
「なんで笑うの?」
「ごめんごめん。文字通り、笑えたからさ」
「どうして?」
理由を問われたアルヴィースは、少しだけ目を伏せて答える。
「…まず第一に、僕はこの世界が嫌いだよ。痛いし、苦しいし、僕には寿命が無い上に、実力も無駄に高いから死ねないし。実際……かつてはこの世界を滅ぼそうとした事もあったさ」
「…そう、なんだ。やっぱりわたしのせいで…」
「違うってば。前世の君が与えた役目と力は…確かに僕にとって、無意味に、苦しんで生きる事を強いる『呪い』になった。でも……色んな奴らに出会ううちに、その『呪い』は生きる理由になる『呪い』に変わったんだ。そして、その『呪い』をくれた奴らを……僕はこの力で守る事が出来る。だから…僕は君を憎んじゃいない」
アルヴィースの目はいつもと違った。普段のような無気力の極みのような目つきではなく、淡くはあるものの、彼の目には確かな光が宿っていた。
「そう……なの?なら、よかった」
「そうそう、あんま気にしない方がいいよ。前世の自分の事なんて……ね」
その時のアルヴィースはどこか複雑そうな顔をしていた。恐らく、彼も自分の前世を思い出していたのだろう。
「さ、暗い話はこれくらいにして……お菓子持ってきたんだ、食べる?」
「お菓子……!食べる!」
それから、2人は仲良くクッキーを食べていたそうだ。ちなみにアルヴィースは仕事をサボって来ていたらしく、食べ終わった数分後に上司と思しき者に引き摺られて仕事に戻っていった。
そんな色の猫居ねえよってツッコミはなしです
居ます
ねこはいます
ねこはいます




